オーナーが株式のすべてを持ち、取締役はご家族という会社では、取締役会も株主総会も実態としては開かれていないことが珍しくありません。日々の経営に支障はありませんが、譲渡の場面では、この点が手続きの遅れとして表に出ます。株式の譲渡そのものに決議が必要な場合があり、議事録の不備が登記や金融機関の手続きに影響することもあります。本稿では、何を整え、譲渡後にどう運営するかを整理します。会社法上の個別の手続きについては、弁護士または司法書士にご確認ください。

「開いていない」ことが、譲渡の場面で表に出る

中小企業では、重要な判断は社長が一人で決め、あとから必要な書類を整える、という運び方が一般的です。それで事業は回りますし、意思決定が速いことは強みでもあります。

問題が生じるのは、会社の外の人が手続きに関わるときです。譲渡はその典型で、次のような場面で書類の有無が問われます。

  • 株式に譲渡制限が付いている場合の、譲渡の承認手続き
  • 役員の変更に伴う登記
  • 金融機関が借入の継続を検討するときの、意思決定の確認
  • デューデリジェンスにおける、過去の重要な意思決定の確認
  • 許認可の手続きで、役員に関する書類が求められる場合

ここで「議事録がありません」となると、作成し直す、あるいは関係者の署名を集め直す作業が発生します。相続で株主が分散している場合や、過去の役員に連絡が取れない場合は、それだけで数週間から数か月を要することがあります。クロージングの日程が後ろにずれる原因として、決して珍しくないものです。

まず、自社の機関設計を確認する

出発点は定款です。手元にない場合は、この機会に法務局で登記事項証明書を取り、定款の最新版を確認してください。

確認項目見る資料よくある状態
取締役会を設置しているか定款、登記事項証明書設置しているのに、実際には開いていない
株式に譲渡制限があるか定款、登記事項証明書譲渡の承認機関がどこかを把握していない
監査役の有無と権限の範囲定款、登記事項証明書登記されている監査役が既に退任している
役員の任期定款、登記事項証明書任期が満了しているのに改選の登記をしていない
株主名簿株主名簿、法人税申告書の別表名簿そのものが作られていない。相続で名義が変わっていない
定款の最新版定款、変更の議事録変更したのに、手元の定款が古いまま

とくに株主名簿は重要です。誰が何株を持っているかが確定していなければ、譲渡そのものが進みません。名義だけが他人になっている株式がある場合は、実質的な所有者を整理する作業が必要になり、税務上の論点も伴います。この論点は時間がかかるため、検討の初期に着手してください。

譲渡の手続きそのものに、決議が関わる

株式に譲渡制限が付いている会社では、株式を譲り渡すこと自体に会社の承認が必要です。承認の機関は、取締役会を設置していれば取締役会、設置していなければ株主総会となるのが原則ですが、定款で別に定めていることもあります。

実務の流れは、おおむね次のようになります。

  1. 譲渡する株主から、会社に対する譲渡の承認の請求
  2. 承認機関での決議
  3. 決議の内容の通知
  4. 株式の譲渡と、株主名簿の書換え
  5. 役員の変更に関する株主総会での決議と、登記

それぞれの段階で書面が必要になります。クロージングの当日にこれらをまとめて行うことも多く、書式の準備と、署名・押印する方の日程確保を前もって進めておくことが円滑な進行の条件です。押印のルールについては「印章の管理と押印ルールの整備」もご参照ください。

なお、具体的にどの手続きが必要かは、定款の定めと会社の状況によって変わります。必ず弁護士または司法書士にご確認ください。アドバイザーは全体の進行を管理しますが、法的な判断は専門家の領域です。

議事録がないと、後から困る場面

「これまで困らなかったから、これからも困らない」と考えられがちですが、譲渡を境に困る場面が増えます。

場面求められるもの
金融機関の取引借入や保証に関する意思決定の記録。経営者保証の扱いを協議する際にも確認される
許認可の更新・変更役員に関する書類、事業所の変更に関する決議
補助金の申請と報告設備の取得に関する意思決定の記録
登記役員の変更、本店の移転、定款の変更
将来の再譲渡次の買い手のデューデリジェンスで、過去の意思決定の記録が確認される
役員退職金の支給支給の決議と、算定の根拠。税務上の論点を伴うため、記録は必須

最後の役員退職金は、譲渡に伴って支給を検討されることが多い項目です。決議の記録がないと、支給そのものの妥当性を説明できません。税務上の取り扱いについては、必ず税理士にご相談ください。

譲渡後の運営を、どう設計するか

新体制になると、運営の形は変わります。親会社ができれば報告の相手が増え、外部から取締役が入れば会議の意味も変わります。設計の要点を挙げます。

誰が取締役になるか

買い手から何名が入り、旧体制から何名が残るか。前経営者が一定期間取締役として残る場合は、役割と任期を明確にします。幹部の役割の組み替えについては「幹部の役割の再定義」もご覧ください。

開催の頻度と、扱う内容

月に一度を基本とする会社が多いようです。大切なのは「取締役会で決めること」と「社長が決めてよいこと」の線引きで、これが曖昧だと、現場は何を上げればよいか分からなくなります。稟議や決裁の規程との整合が必要です。詳しくは「稟議・決裁ルールの引き継ぎ」をご参照ください。

議事録の作り方

  • 誰が作成し、いつまでに確定させるかを決める
  • 報告事項と決議事項を分けて書く
  • 署名・押印の方法と、保管場所を決める
  • 原本の保管期間と、電子で保存する場合の運用を決める

形式を整えること自体が目的ではありません。「なぜその判断をしたか」が後から分かる状態を作ることが目的です。

譲渡する側が、譲渡前に整えておくこと

最後に、準備として着手すべき順に整理します。上のものほど時間がかかるため、早めの着手をおすすめします。

  1. 株主名簿を確定させる——誰が何株持っているか。相続で分散していないか、名義だけの株式がないか。ここが最も時間を要します
  2. 登記事項証明書と定款の最新版をそろえる——半日で終わります。役員の任期満了が放置されていないかも確認できます
  3. 過去の議事録の有無を確認する——直近の役員改選、増資、定款変更、重要な借入。すべてをそろえる必要はありませんが、何が無いかを把握します
  4. 役員の登記を現状に合わせる——既に退任している方が登記に残っていれば、変更の手続きを行います
  5. 今後の決議は、記録を残す運用にする——譲渡までの間に行う判断から、議事録を残す習慣をつけます

これらは地味な作業ですが、整っている会社ほど手続きが速く進み、条件の交渉に集中できます。逆に、ここでつまずくと、交渉の本題に入る前に時間と気力を消耗することになります。

当社は、こうした足元の確認から、クロージングに向けた書類の段取り、譲渡後の運営の引き継ぎまで、順を追ってご支援しています。ご相談は無料、お問い合わせには2営業日以内にご返信します。

よくあるご質問

A.譲渡そのものは可能ですが、手続きに必要な決議と議事録は、その都度きちんと整える必要があります。定款で取締役会を設置している場合は、その形に沿った手続きが求められます。何が必要になるかは定款の定めと会社の状況によって変わりますので、早い段階で弁護士または司法書士にご確認ください。
A.まず、法人税申告書の別表や、過去の増資や譲渡の記録から、現在の株主を確認します。相続によって名義が変わっていない株式や、名義だけが他人になっている株式が見つかることがあり、その場合は実質的な所有者を整理する作業が必要です。税務上の論点を伴いますので、税理士にもご相談ください。時間がかかるため、検討の初期に着手してください。
A.過去の日付で書類を作成することは適切ではありません。まずは何が残っていないかを把握し、現時点で必要な手続きを正しく行うことに注力してください。登記が現状と合っていない場合は、いまの時点で変更の手続きを進めます。対応の方針は、司法書士または弁護士にご相談ください。
A.月に一度を基本とする会社が多いようです。ただし頻度そのものより、何を取締役会で決め、何を社長の判断に任せるかの線引きのほうが重要です。ここが曖昧だと、現場はどの案件を上げればよいか分からなくなります。稟議や決裁の規程と整合させたうえで、譲渡後の早い時期に決めておくことをおすすめします。

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株主名簿や議事録の確認は、譲渡を考え始めたその日から着手できます。まずはご相談ください。
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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら