固定資産台帳は、貸借対照表の資産の中身を裏づける帳簿です。ところが実務では、すでに廃棄した設備が載ったまま、逆に現場で使っている機械が載っていない、という状態が珍しくありません。買収によって資産の管理主体が代わるこの機会に、現物と帳簿を一致させておくことは、その後の減価償却・固定資産税・設備投資の判断すべての土台になります。会計・税務上の処理は要件が定められていますので、顧問税理士にご確認ください。
台帳がずれる原因を知る
固定資産台帳がずれる原因はいくつかに類型化できます。原因を知っておくと、確認すべき箇所の見当がつきます。
- 除却の未処理——現場で廃棄・更新したのに、経理に連絡が行っていない
- 取得の記録漏れ——費用処理したつもりの支出が、実際には資産計上すべきものだった(あるいはその逆)
- 移設・移管の未反映——拠点間で設備を移したが、設置場所の記録が古いまま
- 資本的支出と修繕費の判断——大規模な改修をどちらで処理したかの記録が残っていない
- 台帳の分断——会計用、税務用、固定資産税用でそれぞれ別の台帳が存在し、整合していない
オーナー企業では、設備の入替えを社長の判断で行い、経理が後から知るという流れが一般的です。現場と経理をつなぐ手続きがないことが、ずれの根本にあります。
買収後は、この連絡の流れをつくるところから始めます。台帳を一度整えても、手続きがなければ翌年にはまたずれるからです。
現物照合の進め方
整備の中心作業は、台帳に載っている資産を現物で確認し、逆に現物として存在する資産が台帳にあるかを確かめる、双方向の照合です。
台帳から現物へ。台帳を印刷し、取得価額の大きいものから順に現物を探します。すべてを追うのは負担が大きいため、金額の閾値を決めて上位から確認し、少額のものはサンプルで確認する方法が現実的です。見つからない資産は、除却済みなのか、移設先が違うのか、そもそも計上が誤りなのかを切り分けます。
現物から台帳へ。工場や拠点を回り、設置されている設備を書き出して台帳と突き合わせます。台帳にない設備が見つかったら、リースなのか、借用なのか、無償で譲り受けたものなのか、経理処理を確認します。
この作業は、実地棚卸と同じ時期に行うと効率的です。現場に人が出ているタイミングで両方を済ませれば、業務への影響を一度に抑えられます。棚卸の進め方は「在庫の実地棚卸」をご覧ください。
照合と同時に、資産番号のラベル貼付を行うと、次回以降の照合が格段に楽になります。番号と台帳が対応していれば、現場を歩くだけで確認が終わります。
除却漏れと、計上されていない資産の処理
照合の結果、現物がない資産が見つかった場合、除却の処理を検討します。ここで重要なのが証憑の整備です。廃棄の事実を示す書類——処分業者の受領書、マニフェスト、写真、社内の廃棄申請書など——が残っていないと、処理の根拠を示せません。
すでに何年も前に廃棄されていた資産の場合、どの時点で除却すべきだったのかという論点が生じます。過年度の処理に遡る必要があるのか、当期の処理でよいのかは、金額や状況によって判断が分かれますので、税理士の指示に従って処理してください。
逆に、台帳にない設備が現場にあった場合は、その取得の経緯を確認します。取得時に全額を費用処理していたのであれば、金額と内容によっては資産計上すべきものだった可能性があります。過去の処理を修正するかどうかも含め、税理士の確認が必要です。
これらの処理は、デューデリジェンスで論点になっていた場合、譲渡契約の表明保証や補償と関係する可能性があります。契約書の該当条項と通知期限を確認したうえで進めてください。
リース・少額資産・無形資産の扱い
固定資産台帳の整備では、所有以外の形態も併せて把握します。
リース資産。リース契約の一覧を作り、契約先、対象物、月額、契約期間、残リース料、中途解約の条件、契約満了時の扱い(再リース、買取、返却)を整理します。M&Aに伴って契約者の変更や承諾が必要になる場合もありますので、契約条項を確認してください。名義変更の論点は「許認可・契約の名義変更」もご参照ください。
少額資産・一括償却資産。取得価額の基準によって処理が分かれるため、どの基準で処理してきたかを確認します。会社によって運用が異なることが多く、買い手側と処理が違う場合は統一の方針を決めます。
無形固定資産。ソフトウェア、商標権、電話加入権などが計上されていることがあります。実際に使用しているか、権利が有効かを確認してください。使われていないソフトウェアが未償却残高を抱えている、といった状態が見つかることがあります。
土地・建物。登記簿と台帳の照合、賃借している土地の上に自社の建物がある場合の権利関係、担保設定の状況を確認します。不動産に関する権利関係は複雑ですので、必要に応じて司法書士・弁護士にご相談ください。
償却方法・耐用年数の統一をどう進めるか
買い手側と対象会社で減価償却の方法が異なる場合、グループとしての比較可能性を確保するため、方針の統一が検討されます。ただし、会計上の変更は税務上の取り扱いと連動するため、拙速に進めるべきではありません。
実務的な順序としては、まず現状の差異を一覧にします。償却方法(定額法か定率法か)、耐用年数の設定、残存価額の考え方、資本的支出と修繕費の区分基準。差異を把握したうえで、統一の必要性を検討します。
統一が必要な場合でも、既存の資産をすべて遡って組み替えるのではなく、今後取得する資産から適用するという整理が現実的です。過去分の変更は手続きと影響が大きく、効果に見合わないことが多いためです。
金融機関との借入契約に財務制限条項がある場合、償却方法の変更が損益に影響し、条項に抵触する可能性があります。会計方針の変更を検討する際は、この観点からの点検も行ってください。金融機関への説明については「金融機関への説明と借入の継続」をご覧ください。
会計方針の変更は、開示や税務申告に影響します。実施の可否と手続きは、必ず顧問税理士・会計士にご確認ください。
台帳を維持する仕組みをつくる
整備した状態を維持するには、現場と経理をつなぐ手続きが必要です。次の3点を仕組みとして置いてください。
取得時の手続き。設備を購入する際、稟議の様式に資産計上の要否を判断する欄を設け、決裁後に経理へ情報が渡る流れをつくります。決裁の設計は「稟議・決裁ルールの引き継ぎ」と一体で整えると効率的です。
処分時の手続き。廃棄・売却・移設を行うときは、事前に申請し、承認を得てから実行する運用にします。処分の証憑を経理へ回す流れまでを手続きに含めてください。台帳のずれの大半は、この処分時の連絡が抜けることで生じます。
年次の照合。年に一度、決算期に合わせて現物照合を行います。全数が難しければ、金額上位と前年に増減があったものを対象に絞ります。固定資産税の申告時期と合わせると、作業が一度で済みます。
台帳が整うと、設備の更新計画が立てやすくなり、保険の付保額の見直しにも使えます。管理のための管理ではなく、経営判断の材料として使える状態を目指して整備を進めてください。保険の点検については「保険契約の名義と受取人の見直し」もあわせてご覧ください。