譲渡を伝えた後、仕入先から「今後は前払いでお願いします」と言われる。実際に起こります。慌てずに、何を示せば戻るのかを整理します。
なぜ下げられるのか
相手の立場で考えると、理由は単純です。与信の判断材料が変わったからです。
これまでの与信は、あの社長の会社だからという前提を含んでいました。長年の取引実績、経営者個人の人柄、地域での評判。
資本構成が変われば、その前提が消えます。新しい前提の材料が無い状態で、相手の与信担当者は保守的に判断します。
つまり、悪意でも不信でもなく、情報が足りないだけであることが多い。ここを理解すると、対応の方向が決まります。
最初にやること
連絡を受けたら、まず会いに行ってください。電話やメールで済ませないこと。
会う相手は、伝えてきた担当者だけでなく、与信を判断する立場の人です。営業の担当者は、社内の決定を伝えているだけのことがあります。
そして、前経営者に同行してもらう。これが最も効きます。長年の関係があるのは前経営者であり、その人が「この会社に託した」と言うことに意味があります。
引き継ぎ期間中であれば、必ず頼んでください。
持って行く資料
相手の与信担当者が稟議を書ける材料を渡します。
買い手の会社概要。商号、所在地、設立、資本金、事業内容、従業員数、取引金融機関。
買い手の決算の概況。開示の範囲は買い手の判断ですが、出せる範囲で出したほうが早く戻ります。
今後の方針。事業は継続すること、仕入を切り替える予定はないこと(そうであれば)。
窓口。誰に連絡すればよいか。
「今までどおりお願いします」だけでは、社内手続きが進みません。
親会社の保証を使うか
相手が求めてくる場合があります。買い手による債務の保証です。
これは有効な手段ですが、買い手側の判断が要ります。グループ全体の与信に関わるため、一つの仕入先に保証を出すと他からも求められます。
実務では、金額の大きい取引に限って保証を出す、期間を区切るといった形で対応します。
安易に約束しないでください。買い手の側で決裁が要る事項です。その場で「本社に確認します」と持ち帰るのが正しい対応です。
当面の資金繰りを手当てする
交渉と並行して、実務の手当てが要ります。
掛けだった仕入が前払いになれば、その分の現金が先に出ます。月の仕入額が3,000万円なら、一時的に数千万円の資金が必要になります。
選択肢は、手元資金で回す、金融機関に短期の資金を相談する、買い手からグループ内の貸付を受ける。
ここで支払いが遅れると、状況が悪化します。「やはり信用できない」となり、他の取引先にも伝わります。最優先で手当てしてください。
代替の調達先を確保しておく
交渉が長引く場合に備えます。
同じ品目を扱う他の仕入先を、買い手のグループ内も含めて探しておく。実際に切り替えるかは別として、選択肢があること自体が交渉力になります。
ただし、切り替えをちらつかせる交渉は勧めません。長年の関係を壊します。
あくまで、万一の場合に事業を止めないための備えです。品質や納期の確認だけ、静かに進めておいてください。
信用調査への対応
与信の見直しは、信用調査会社の情報をもとに行われることがあります。
資本構成の変更後、調査会社から取材の依頼が来ることがあります。応じるかは任意ですが、応じないと情報が古いまま残ります。
対応する場合、開示する範囲を先に決めて臨んでください。譲渡価格や契約の詳細は不要です。資本構成が変わったこと、事業は継続すること、買い手の概要、今後の方針で足ります。
買い手の情報も併せて提供すると、グループとしての評価につながります。
実績で戻す
最も確実な方法です。与信は、説明ではなく実績で戻ります。
支払いを一度も遅らせない。発注量を維持する。担当者との連絡を密にする。
半年から1年、これを続ければ、多くの場合は元の条件に戻ります。相手の与信も、定期的に見直されるからです。
そして、こちらから見直しを申し入れてください。「半年間、問題なく取引させていただきました。条件の見直しをご検討いただけませんか」。待っているだけでは戻りません。
先に伝えれば、起きにくい
最後に、予防の話です。この問題は、伝える順序で大きく変わります。
相手が登記や噂で知ると、警戒から入ります。こちらから先に、前経営者と買い手が揃って伝えると、話が違います。
したがって、譲渡の公表計画に主要な仕入先を明示的に入れてください。販売先への挨拶は計画するのに、仕入先が抜けている——これは実際によくあります。
与信枠を使っている先ほど、早く、直接。これだけで、多くは防げます。取引先はどう反応するかも併せてご覧ください。