「会社は子どもに継がせたい」——そうお考えの経営者様にとって、親族内承継は最も自然な選択肢に映るはずです。しかし実際に進めようとすると、株式をどうやって移すのか、贈与と相続と売買のどれが良いのか、他のご家族との公平をどう保つのか、考えるべきことが次々と出てきます。本稿では、親族内承継における株式の移転方法とそれぞれの特徴、承継までに準備しておきたいこと、そして相続の場面で揉めやすいポイントとその備えについて、順を追ってご説明します。
親族内承継の現状|いまも事業承継の有力な選択肢
事業承継の方法は、大きく分けて三つあります。お子様など親族に引き継ぐ「親族内承継」、役員や従業員に引き継ぐ「社内承継(従業員承継)」、そしてM&Aによって第三者に引き継ぐ「第三者承継」です。
帝国データバンクの2025年調査によれば、国内企業の後継者不在率は50.1%と、およそ半数の企業で後継者が決まっていません。かつては「会社は長男が継ぐもの」という考え方が一般的でしたが、お子様が別の道に進んでいたり、承継を望まなかったりするケースが増え、承継の選択肢は多様化しています。
とはいえ、親族に承継の意思と適性のある方がいらっしゃるなら、親族内承継はいまも有力な選択肢です。一般に、次のような利点があるとされています。
- 従業員・取引先・金融機関など関係者の心理的な受け入れが得られやすい
- 後継者を早くから決めて、時間をかけた育成・引き継ぎができる
- 所有(株式)と経営を一体のまま次世代に引き継ぎやすい
一方で、株式の移転に伴う税負担、後継者の適性や本人の意思、他の相続人との公平といった、親族内承継ならではの課題もあります。以下で順に見ていきましょう。
株式の移し方は3つ|贈与・相続・売買の特徴
親族内承継の中心となるのが、自社株式を後継者へ移転する手続きです。移転の方法は「生前贈与」「相続」「売買(有償譲渡)」の三つに大別され、どの方法を選ぶかによって、かかる税金の種類も、移転のタイミングも変わります。
| 移転方法 | 主な特徴 | 関係する主な税 |
|---|---|---|
| 生前贈与 | 経営者の意思でタイミングを選べる。計画的に少しずつ移すことも可能 | 贈与税 |
| 相続 | 経営者の逝去に伴い移転。準備がないと株式が分散するおそれ | 相続税 |
| 売買(有償譲渡) | 後継者が対価を支払って取得。経営者には売却代金が入る | 譲渡所得課税 |
生前贈与|暦年贈与と相続時精算課税
贈与には、年110万円の基礎控除の範囲で毎年少しずつ贈与していく「暦年贈与」と、累計2,500万円までの特別控除を使ってまとまった財産を先に移す「相続時精算課税制度」(2024年からは別途年110万円の基礎控除も設けられています)という二つの課税方式があります。自社株の評価額や今後の値上がり見込みによって有利不利が変わるため、どちらを選ぶかは税理士等の専門家との検討が欠かせません。
相続|準備がないと株式が分散しやすい
相続による移転は、遺言等の準備がない場合、遺産分割協議の結果しだいで株式が複数の相続人に分散するおそれがあります。経営に関与しない親族が株主となると、その後の意思決定に支障が生じかねません。親族内承継を予定するなら、遺言の作成など「株式を後継者に集める」ための備えが重要です。
売買|対価が入る一方、後継者に資金が必要
後継者が株式を買い取る方法です。経営者には売却代金が入り、老後資金に充てられる一方、後継者側には買取資金が必要になります。個人間の株式譲渡では、譲渡益に対して20.315%の税率で課税されるのが原則です。また、時価と比べて著しく低い価格での売買は、差額について贈与とみなされ課税が生じ得るため、適正な株価の算定が前提となります。自社株のおおよその価値を知りたい方は、企業価値算定シミュレーターもご活用ください。
実務では、これら三つのいずれか一つだけではなく、「一部を生前贈与し、残りは遺言で相続させる」といった組み合わせで設計されることも少なくありません。
準備すべきこと|後継者教育・株式の集約・個人保証
株式の移転方法と並んで大切なのが、承継までの「準備」です。代表的な三つを挙げます。
後継者教育
経営の引き継ぎは、株式の名義変更だけでは完結しません。現場や複数部門の経験、取引先・金融機関への紹介、経営判断の伴走など、後継者が経営者として独り立ちするまでには相応の期間が必要とされます。一般に、承継の完了までには数年単位の時間を見込んでおくべきといわれており、だからこそ早めの着手が重要になります。
株式の集約
過去の相続や設立時の名義株などにより、株式が親族や第三者に分散している会社は少なくありません。分散したまま承継すると、後継者が安定した経営権を確保できないおそれがあります。承継の前に、分散した株式を経営者または後継者のもとへ集約しておくことが望ましいでしょう。
個人保証(経営者保証)の扱い
経営者個人が会社の借入に連帯保証をしている場合、その保証を後継者がそのまま引き継ぐのかは大きな論点です。近年は経営者保証に依存しない融資慣行への見直しが進んでおり、金融庁の公表によれば、2024年度上期には新規融資の52%が経営者保証に依存しないものとなっています。承継のタイミングは保証の解除や見直しを金融機関に相談する好機でもあります。詳しくは「経営者保証はどうなる?」の記事をご参照ください。
揉めやすいポイント|遺留分と他の相続人との公平
親族内承継で最も注意したいのが、後継者以外のご家族との公平をめぐる問題です。
中小企業の経営者様の場合、個人財産に占める自社株式の割合が大きいことが珍しくありません。株式を後継者に集中させると、他の相続人が受け取る財産が相対的に少なくなり、不公平感が生まれやすくなります。
ここで問題になり得るのが「遺留分」です。遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に法律上保障された、遺産の最低限の取り分をいいます。遺言で株式のすべてを後継者に相続させるとしても、他の相続人の遺留分を侵害している場合には、後継者が金銭の支払いを求められる(遺留分侵害額請求)可能性があるのです。生前贈与した株式が遺留分の算定に含まれるケースもあり、「早めに贈与したから安心」とは言い切れません。
こうしたトラブルを防ぐために、一般に次のような備えが検討されます。
- 遺言の作成により、誰に何を引き継ぐかを明確にしておく
- 後継者以外の相続人には株式以外の財産(不動産・保険金等)を充て、バランスを取る
- 家族間で承継方針を早めに共有し、経営者ご自身の言葉で説明しておく
- 遺留分に関する民法特例など、事業承継を支援する制度の活用を専門家に相談する
制度の選択や法的な設計は個別性が高いため、弁護士・税理士等の専門家を交えて進めることをおすすめします。
親族内承継が難しい場合の選択肢|M&Aとの比較
「子どもに継ぐ意思がない」「適性の面で難しい」「税負担や保証の引き継ぎがネックになった」——検討の結果、親族内承継を断念されるケースも現実には少なくありません。その場合も、廃業を選ぶ前に、役員・従業員への承継(MBO・EBO)や、M&Aによる第三者承継という道があります。
親族内承継とM&Aの主な違いを整理すると、次のようになります。
- 後継者:親族内承継は親族に限られるのに対し、M&Aは広く社外から相手を探せる
- オーナー様の手取り:親族内承継(贈与・相続)では対価が入らないのに対し、M&Aでは株式の譲渡対価を受け取れる
- 個人保証:M&Aでは譲受企業への引き継ぎや解除が交渉の中で整理されるのが一般的
- 準備期間:親族内承継は育成に長い時間を要するのに対し、M&Aは相手が見つかれば比較的短期間で成約に至ることもある
どちらが優れているというものではなく、会社の状況とご家族のお考えによって適する道は異なります。三つの承継方法の比較は「後継者不在の解決策としてのM&A」で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
まとめ|早めの着手が、選べる道を残す
親族内承継は、株式の移転(贈与・相続・売買)、後継者の育成、株式の集約、個人保証の整理、そして他の相続人への配慮と、検討すべき要素が多岐にわたります。いずれも短期間で片づくものではなく、時間をかけるほど選択肢が広がる性質のものです。
逆に、準備のないまま相続が発生すると、株式の分散や遺留分をめぐる争いなど、会社の存続そのものを揺るがす事態になりかねません。「まだ先の話」と思えるうちに検討を始めることが、結果としてご家族と会社の双方を守ることにつながります。
当社プラチナパートナーズは、M&A仲介を本業とするファームですが、だからこそ「親族内承継とM&A、どちらが適しているか」を比較の視点からご一緒に整理できます。親族内承継を軸に考えつつ他の道も知っておきたいという段階のご相談も歓迎です。事業承継をお考えの方へのご案内もあわせてご覧ください。
よくあるご質問
Free Consultation
親族内承継とM&A、どちらが適しているか迷ったら。
承継の選択肢を並べて比較するところから、無料でご相談いただけます。
メール(info@platinumpartners.jp)でも承ります。