M&Aの税金というと、多くの経営者様がまず思い浮かべるのは、株式譲渡益にかかる所得税・住民税ではないでしょうか。しかし実務では、もうひとつ見落とされがちな税金があります。それが消費税です。消費税の扱いは、株式譲渡と事業譲渡というスキームの違いによって大きく変わり、事業譲渡では取引金額の総額や買い手の資金負担に無視できない影響を及ぼします。本稿では、株式譲渡に消費税がかからない理由、事業譲渡で課税される資産と非課税の資産の区分、仮設例による計算イメージ、そして買い手・売り手それぞれの実務上の注意点まで、順を追ってご説明します。

見落とされがちな「M&Aと消費税」という論点

消費税は、国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡等に課される税金です。標準税率は10%。日々の商品仕入や設備購入で常に接している税金ですが、「会社を譲渡する」という一生に一度の場面で消費税を意識される方は、実はそれほど多くありません。

ところが、M&Aは法的に見れば「資産の譲渡」を含む取引です。何を、どのような形で譲渡するかによって、消費税が「まったくかからない」場合と、「対価の相当部分に10%が上乗せされる」場合とに分かれます。その分かれ目が、スキームの選択、すなわち株式譲渡か事業譲渡かという違いです。

消費税は金額のインパクトが大きいだけでなく、「誰が負担し、誰が納付するのか」という実務の設計にも関わります。基本合意の前の段階で全体像を押さえておくことで、価格交渉や契約書のチェックが格段にスムーズになります。

株式譲渡に消費税がかからない理由

結論から申し上げると、株式譲渡によるM&Aには消費税がかかりません。

消費税法は、消費という行為になじまない取引や政策的な配慮が必要な取引を「非課税取引」として定めており、株式をはじめとする有価証券の譲渡はこの非課税取引に含まれています。株式の譲渡は、会社の支配権(株主の地位)の移転であって、モノやサービスの消費ではない、という整理です。

したがって、オーナー様が保有株式を買い手に譲渡する株式譲渡スキームでは、譲渡対価に消費税が上乗せされることはなく、「譲渡価格3億円」であればそのまま3億円が授受されます。中小企業のM&Aで株式譲渡が広く使われる理由のひとつは、この税務上のシンプルさにあります。

ただし、消費税がかからないことと、税金が一切かからないことは別の話です。個人株主の場合、株式の譲渡益に対して所得税・住民税あわせて20.315%の税金がかかります。株式譲渡全体の税金については「会社売却にかかる税金」で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

事業譲渡では課税資産に消費税がかかる|課税・非課税の区分

一方、事業譲渡は、会社が保有する事業用の資産や負債、契約関係などを個別に選んで譲渡するスキームです。法的には「資産の譲渡」そのものですから、譲渡する資産のうち課税資産に該当する部分には消費税がかかります。

どの資産が課税で、どの資産が非課税か。代表的な区分は次のとおりです。

区分代表的な資産
課税資産
(消費税がかかる)
建物、機械設備、車両、器具備品、棚卸資産(在庫)、のれん(営業権)、特許権・商標権などの無形固定資産 等
非課税資産
(消費税がかからない)
土地、売掛金・貸付金などの金銭債権、有価証券 等

ここで特に注意していただきたいのが、のれん(営業権)の扱いです。のれんとは、譲渡対価のうち、個々の資産・負債の時価純額を上回る部分、いわば事業の収益力やブランド、取引関係といった目に見えない価値への対価です。感覚的には「モノの譲渡」とは言いにくいのですが、消費税法上は課税資産に該当し、のれん部分にも10%の消費税がかかります。事業の価値が大きい譲渡ほど、のれんに対応する消費税も大きくなるため、見積もりの段階から織り込んでおく必要があります。

なお、株式譲渡と事業譲渡のスキームとしての違い(譲渡の対象、契約の巻き直し、許認可の扱いなど)については「株式譲渡と事業譲渡の違い」で整理しています。

計算イメージ|仮設例で見る事業譲渡の消費税

イメージをつかんでいただくため、あくまで説明のための仮設例で計算してみましょう。実際の案件では資産の時価評価やのれんの算定によって数字は大きく変わりますので、目安としてご覧ください。

例:譲渡対価2億円の事業譲渡(内訳は仮定)

  • 土地:8,000万円 → 非課税
  • 建物:4,000万円 → 課税(消費税400万円)
  • 機械設備・備品:2,000万円 → 課税(消費税200万円)
  • 棚卸資産:1,000万円 → 課税(消費税100万円)
  • のれん(営業権):5,000万円 → 課税(消費税500万円)

この例では、譲渡対価2億円のうち課税資産は1億2,000万円で、消費税は合計1,200万円。買い手が支払う総額は2億1,200万円となります。同じ2億円の取引でも、株式譲渡であれば消費税はゼロですから、消費税だけを切り出せば1,200万円の差が生じる計算です。

また、この例からわかるとおり、消費税額は「対価の総額」ではなく「内訳」で決まります。土地の比重が大きい事業なら消費税は小さくなり、のれんや設備の比重が大きい事業なら大きくなります。事業譲渡の契約書では、譲渡対価の内訳(資産ごとの振り分け)をどう定めるかが、消費税額に直結する重要なポイントになるのです。

買い手・売り手それぞれの実務上の注意点

買い手側|一時的な資金負担と仕入税額控除

消費税の経済的な負担者は買い手です。買い手は、課税資産の対価に消費税を上乗せして支払うため、その分の資金を決済時に用意しておく必要があります。もっとも、買い手が消費税の課税事業者であれば、支払った消費税は要件を満たすことで仕入税額控除の対象となり、自社の消費税申告のなかで控除できるのが一般的な取り扱いです。つまり、多くの場合、最終的なコストというより「一時的な立て替え」に近い性質を持ちます。ただし、控除のタイミングや買い手側の課税状況によって影響は異なるため、資金繰り計画には織り込んでおくべきです。

売り手側|預かって納付する義務

売り手は、消費税を負担するわけではありませんが、買い手から預かった消費税を国に納付する義務を負います。事業譲渡による課税売上は金額が大きくなりがちで、翌期の納税額や課税事業者としての判定にも影響し得ます。受け取った消費税分を運転資金に回してしまい、納付時に慌てることのないよう、決済のときから納税分を区分して管理しておくことが大切です。

契約書での明確化

「譲渡対価は消費税込みか、別か」「対価の内訳をどう定めるか」は、後日の紛争を避けるために契約書で明確にしておくべき事項です。内訳の定め方には税務上の合理性も求められますので、税理士等の専門家を交えて検討することをおすすめします。

まとめ|スキーム選択を消費税だけで決めない

本稿の要点を整理します。

  • 株式譲渡:有価証券の譲渡として消費税は非課税。譲渡益への所得税・住民税(20.315%)は別途
  • 事業譲渡:建物・機械設備・棚卸資産・のれん等の課税資産に消費税10%。土地・債権は非課税
  • 負担者は買い手、納付者は売り手。買い手は仕入税額控除、売り手は納税資金の管理が実務のポイント

ここまで消費税の違いをご説明してきましたが、最後に強調したいのは、スキームは消費税だけで決めるものではないということです。株式譲渡と事業譲渡では、譲渡益への課税の仕組み、簿外債務の遮断、許認可や契約・雇用の引き継ぎ、手続きの負担など、比較すべき軸がいくつもあります。消費税はそのうちのひとつに過ぎず、全体を並べて初めて「自社にとって有利な形」が見えてきます。

当社プラチナパートナーズは、スキーム比較の段階から税理士等の専門家と連携してご支援しています。相談料・着手金・月額報酬は0円です。「うちの場合はどちらが向いているのか」という段階のご相談も歓迎です。無料相談よりお気軽にお声がけください。

本稿の税制・法務に関する記載は2026年9月時点の制度に基づく一般的な解説です。個別の適用については、必ず税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.かかりません。株式などの有価証券の譲渡は消費税の非課税取引とされているため、株式譲渡の対価に消費税は課されません。譲渡対価がそのまま税抜・税込の区別なく授受されます。ただし、株式譲渡益に対する所得税・住民税(税率20.315%)は別途かかる点にご注意ください。
A.かかります。のれん(営業権)は消費税法上の課税資産に該当するため、事業譲渡でのれんの対価を授受する場合、その部分にも消費税(標準税率10%)が課されます。建物・機械設備・棚卸資産なども同様に課税対象で、土地や売掛金などの債権は非課税です。
A.経済的な負担者は買い手です。買い手は譲渡対価のうち課税資産に対応する部分の消費税を上乗せして支払い、売り手はこれを預かって国に納付します。買い手側では、要件を満たせば支払った消費税を仕入税額控除の対象にできるのが一般的な取り扱いです。

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相談料・着手金・月額報酬は0円です。基本合意時の中間金と成功報酬については料金体系をご覧ください。ご相談に費用はかかりません。
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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら