会社売却で得られる株式の譲渡益には、金額の大小にかかわらず20.315%の税率が適用される——これが長く続いてきた基本ですが、近年この前提に一部変更が加わりました。「ミニマムタックス」と呼ばれる、極めて高い水準の所得に対する負担措置が2025年分の所得から適用され、譲渡益が非常に大きい場合には追加の税負担が生じ得るようになったのです。さらに2027年分からは、この措置の強化が予定されています。本稿では、制度の仕組みと影響を受けるケースの考え方、そして売却時期を検討するうえでの視点を整理してご説明します。
ミニマムタックスとは|制度の概要
ミニマムタックスは、正式には「極めて高い水準の所得に対する負担措置」と呼ばれる所得税の制度で、2025年分の所得から適用されています。
背景にあるのは、所得の構成によって実質的な税負担率に差が生じるという問題意識です。給与や事業の所得には累進税率が適用される一方、株式の譲渡益は所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%の合計20.315%の申告分離課税で完結します(基本的な仕組みは「会社売却にかかる税金|株式譲渡益課税と手取り額の考え方」をご覧ください)。このため、株式譲渡益のような所得が極めて大きい方は、所得全体に対する税負担率がむしろ低くなる傾向があり、そこに一定の追加負担を求めるのがこの措置です。
重要なのは、この措置が対象とするのは「極めて高い水準」の所得であり、一般的な規模の会社売却の多くには影響しないという点です。どの程度の水準から影響し得るのかを、次章から具体的に見ていきます。
計算の仕組み|3.3億円控除・22.5%との比較
現行のミニマムタックスの仕組みは、次の二つの金額を比較する形になっています。
- ①その年の基準所得金額から3.3億円を控除した金額の22.5%
- ②通常どおり計算したその年の所得税額
①が②を上回る場合に、その上回る部分を追加で納付する、という仕組みです。①が②を下回るなら追加負担はなく、従来どおりの税額で完結します。
ポイントを整理すると、次のようになります。
- 基準所得金額には、株式譲渡益などの分離課税の所得も含めて集計される
- 3.3億円という大きな控除があるため、基準所得金額がそれ以下であれば追加負担は生じない
- 基準所得金額が3.3億円を超えても、直ちに追加負担が生じるわけではなく、あくまで「①と②の比較」で決まる
株式譲渡益に対する通常の所得税(15%)は比較的低い税率であるため、譲渡益が大きくなるほど①が②を上回りやすくなる——これが、大型の株式譲渡がこの措置の影響を受けやすいと言われる理由です。
どんな会社売却が影響を受けるか|仮設例で考える
では、どの程度の譲渡益から影響が生じ得るのでしょうか。ここでは、その年の所得が株式譲渡益のみと仮定し、通常の所得税額を譲渡益×15%(復興特別所得税・住民税を除く)として比較する簡略計算で考えてみます。以下はあくまで仕組みを理解するための仮設例であり、実際の税額計算はより複雑です。
| 譲渡益(仮設例) | ①(譲渡益−3.3億円)×22.5% | ②通常の所得税額(15%) | 追加負担 |
|---|---|---|---|
| 3億円 | 0円(控除額以下) | 4,500万円 | なし |
| 5億円 | 3,825万円 | 7,500万円 | なし |
| 8億円 | 1億575万円 | 1億2,000万円 | なし |
| 12億円 | 1億9,575万円 | 1億8,000万円 | ①−②=1,575万円 |
この簡略計算では、譲渡益がおおむね10億円程度を超えるあたりから①が②を上回り、追加負担が生じ始めます。逆に言えば、譲渡益が数億円規模にとどまる会社売却であれば、現行制度のもとでは影響を受けないケースが多いと考えられます。
ただし、実際には役員退職金など他の所得の状況、各種控除の内容によって計算結果は変わります。譲渡益が数億円を超える規模の売却を検討される場合は、早い段階で税理士等に個別の試算を依頼されることをおすすめします。
2027年分からの強化予定|2026年中の譲渡契約なら現行制度
このミニマムタックスは、2027年分の所得から強化されることが予定されています。強化の内容は、控除額が3.3億円から1.65億円へ引き下げられ、税率が22.5%から30%へ引き上げられるというものです。
| 項目 | 現行(2025年分〜) | 強化後(2027年分〜予定) |
|---|---|---|
| 控除額 | 3.3億円 | 1.65億円 |
| 税率 | 22.5% | 30% |
控除額の引き下げと税率の引き上げが同時に行われるため、影響を受け始める譲渡益の水準は現行より大きく下がり、追加負担の金額も増える方向です。前章と同じ簡略計算(所得が株式譲渡益のみの仮設例)を強化後の数値で行うと、譲渡益が3億円台の半ばを超えるあたりから影響が生じ始める計算になり、譲渡益が数億円規模の会社売却でも無関係とは言えなくなってきます。
一方で、経過的な取り扱いとして、2026年12月31日までに譲渡契約を締結すれば現行制度(3.3億円控除・22.5%)の範囲とされています。大型の譲渡を検討中の方にとって、契約時期が税負担に影響し得る局面と言えます。
売却時期を考えるうえでの視点|税だけで決めない
「それなら2026年中に売却したほうがよいのでは」と思われるかもしれません。たしかに、譲渡益が大きくなることが見込まれる売却では、契約時期は検討すべき要素です。しかし、税負担だけを理由に売却時期を決めることには慎重であるべきだと当社は考えています。理由は三つあります。
①M&Aは相手があってはじめて成立する
会社売却は、条件の合う買い手と出会い、交渉と調査を経てはじめて成立します。準備から成約までには相応の期間を要するのが通常で、期限を切って交渉を急ぐと、価格や従業員の処遇といった本質的な条件で譲歩を迫られかねません。
②影響額と譲渡条件のバランス
ミニマムタックスの追加負担額と、交渉を急ぐことで生じ得る譲渡価格の差は、必ず比較して考えるべきです。売却の対価水準の考え方は「会社売却の相場」でも解説していますが、焦りは足元を見られる要因になります。
③会社売却の目的は手取り額だけではない
従業員の雇用、取引先との関係、会社の将来の発展——売却の成否は税引後の手取り額だけでは測れません。税は重要な考慮要素の一つですが、あくまで全体の一部として位置づけるのが健全です。売却時期の総合的な考え方は「会社売却のタイミング」をご参照ください。
まとめ|大型の譲渡ほど、早めの税務検討を
本稿の内容を整理します。
- ミニマムタックスは2025年分から適用されている追加負担の措置で、基準所得金額から3.3億円を控除した額の22.5%が通常の所得税額を上回る場合に、その差額を追加負担する
- 所得が譲渡益のみの簡略計算では、譲渡益がおおむね10億円程度を超えるあたりから影響が生じ始める(仮設例)
- 2027年分からは控除額1.65億円・税率30%への強化が予定されており、影響を受ける水準は下がる見込み。2026年12月31日までに譲渡契約を締結すれば現行制度の範囲
- ただし、売却時期は税負担だけでなく、譲渡条件や会社の将来を含めた全体で判断する
譲渡益が大きくなり得る会社ほど、税務の検討を含めた売却準備には時間がかかります。当社プラチナパートナーズは、税理士等の専門家とも連携しながら、売却時期の検討段階からご一緒しています。相談料・着手金・月額報酬は0円です。まずは自社の価値の目安を知りたいという方は、企業価値算定シミュレーターもご活用ください。