譲渡を考えていると顧問税理士に話したら、あまり良い顔をされなかった。これも珍しくありません。背景にはいくつかの事情があり、その多くは先生の側の合理的な理由です。どう向き合うかを整理します。
背景にあるもの
難色の理由は、おおむね次のどれかです。
① 顧問契約を失う。買い手に既存の顧問税理士がいれば、譲渡後に契約が切り替わる可能性があります。長年の関与先を失うことになります。
② M&Aが専門外。税務顧問の実務とM&Aの実務は重なりません。「わからないものは勧めにくい」というのは、誠実な姿勢でもあります。
③ 経営者への思い入れ。創業から見てきた会社を手放すことに、率直に反対されることがあります。
どれも人として自然な反応です。敵視して話を進めると、必要な協力が得られなくなります。
顧問契約は必ずしも切れない
①について、実務の実感を申し上げます。譲渡後も顧問契約が続くケースは、決して少なくありません。
買い手にとって、譲り受けた会社の税務を長年見てきた先生は貴重な存在です。過去の経緯を知っている人がいなくなると、引き継ぎの負担が増えます。
とくに、買い手が遠方の企業である場合、地元の顧問税理士が残ることは実務上の利点になります。「継続してほしい」と買い手に伝えること自体、売り手からの申し入れとして自然です。最終契約の交渉の中で扱える論点です。
当社は税務顧問業務を行わない
ここは当社の立場として明確に申し上げます。当社は税務顧問業務を行いません。M&Aの仲介が業務であり、成約後に顧問の座を引き継ぐことはありません。
したがって、先生と当社は競合しません。顧問先の承継を支援し、先生には顧問先として残っていただく、というのが当社の考え方です。
この点は士業・金融機関の皆様へに詳しく書いています。先生に直接ご覧いただくのが早いかもしれません。
先生にお願いしたいこと
M&Aの実務で、顧問税理士の協力が欠かせない場面があります。
決算書と申告書の提供。買い手のデューデリジェンスで、過去3〜5期分が求められます。
税務上の論点の説明。過去の処理について質問が出たとき、経緯を説明できるのは先生だけです。
株価の考え方。相続税評価と、M&Aでの価格は別の概念ですが、先生の算定が判断の出発点になります。
敵対的に進めると、これらが滞ります。結果として損をするのは会社です。
どう相談するか
伝え方で反応が変わります。実務での型を挙げます。
決定事項として通告しない。「売ることにしました」ではなく「こういう事情で検討しています。先生のご意見を伺いたい」と切り出します。
理由を具体的に話す。後継者がいない、体力の問題、事業の将来性。理由がわかれば、反対の姿勢は和らぐことが多いのが実感です。
役割をお願いする。「税務の面で見ていただきたい」と伝えれば、蚊帳の外に置かれる懸念が消えます。排除されると感じたときに、人は反対に回ります。
専門外と言われた場合
「M&Aはよくわからない」と率直に言われることがあります。これは正直な回答であり、むしろ信頼できる態度です。
その場合、税務顧問としての役割と、M&Aの実務の役割を分けるのが自然です。先生には決算・申告・税務の相談を続けていただき、M&Aの進行は別に担当を置く。
当社は、工程ごとの役割分担を書面でお示しします。先生に何をお願いし、当社が何を担うのかを先に決めておけば、重複も抜けも起きません。
先生に伝える順番
実務では、誰にいつ伝えるかで反応が変わります。顧問税理士は、かなり早い段階に置くのが通常です。
理由は二つあります。決算書と申告書がなければ、何も始まらないこと。そして、後から知ると「信頼されていなかった」と受け取られることです。
一方で、最初の一人にする必要はありません。ご自身の中で方針が固まっていない段階で相談すると、迷いがそのまま伝わり、反対の余地を広げます。
順番としては、①ご家族 ②仲介会社(方針の整理) ③顧問税理士 ④金融機関 ⑤従業員 ⑥取引先が一つの型です。会社の事情で前後しますが、税理士が金融機関より後になることは、あまりありません。
それでも反対が続く場合
どうしても賛同が得られない場合もあります。会社を手放すこと自体に反対、という立場です。
このとき、決めるのは経営者です。顧問税理士に決定権はありません。従業員の雇用、自身の年齢、家族の生活。判断の材料を一番多く持っているのは経営者本人です。
ただし、先生の指摘の中身は聞いてください。反対の理由が「顧問契約が惜しい」ではなく「この条件は会社にとって不利だ」であれば、それは貴重な意見です。立場からの反対と、中身への指摘を切り分けてください。
先生にとっても悪い話ではない
最後に、視点を変えます。
顧問先の経営者が高齢で後継者がいない。このまま行けば、いずれ廃業です。廃業すれば顧問契約は終わります。
譲渡が成立すれば、会社は存続します。買い手のもとで成長すれば、関与先としての規模はむしろ大きくなる可能性もあります。
「顧問先を失う」という見方だけでなく、「顧問先を存続させる」という見方もある。先生とお話しするとき、当社はこの点をお伝えしています。