事業承継の相談は、たいてい「誰に継がせるか」から始まります。選択肢は大きく三つ。親族に継がせる、社内の人に継がせる、第三者に譲る。それぞれに向き不向きがあり、資金の作り方も税金の扱いも違います。まずは三つを並べて比べるところから始めます。

三つの類型を並べて見る

親族内承継は、子や配偶者、兄弟姉妹に継がせる形です。関係者の理解を得やすく、時間をかけた準備ができます。従業員承継は、役員や社員に継がせる形です。事業を熟知した人が継ぐため、現場の混乱が少なくて済みます。第三者承継は、社外の企業や個人に譲る形で、いわゆるM&Aです。

帝国データバンクの2025年の調査では、後継者不在率は50.1%とされています。かつて主流だった親族内承継だけでは、日本の中小企業の承継は成り立たなくなっています。

重要なのは、三つは排他的ではないということです。親族内で検討したうえで難しいと分かれば従業員へ、それも難しければ第三者へ。順に検討していくのが実務の流れです。

親族内承継 — 時間はあるが、お金の問題が残る

親族内承継の利点は、準備に時間をかけられることです。10年かけて経験を積ませ、取引先や金融機関に顔をつなぎ、段階的に権限を移していく。この時間が取れるのは、親族内承継ならではです。

難しさは二つあります。一つは自社株の移転にかかる税金と資金です。贈与でも相続でも、株価が高ければ多額の税負担が生じます。事業承継税制(特例措置)を使えば納税を猶予できますが、特例承継計画の提出期限は2027年9月30日、適用期限は2027年12月31日とされており、期限があります。

もう一つは本人の意思です。継ぐつもりのない子に継がせようとして、時間だけが過ぎるという例は少なくありません。早い段階で、本音を聞く場を持つことをお勧めします。

従業員承継 — 意欲はあるが、資金がない

役員や幹部社員への承継は、事業への理解という点でもっとも安心できる形です。従業員も取引先も受け入れやすく、社名も方針も変わりません。

最大の壁は資金です。株式を買い取るだけの資金を個人で用意できる従業員は多くありません。金融機関からの借入、持株会社を設立してのMBO、段階的な買い取りといった方法が検討されますが、いずれも設計が要ります。

もう一つの壁が個人保証です。オーナーの保証を引き継ぐことに、家族が反対して話が止まることがあります。経営者保証に依存しない融資の割合は2024年度上期で52%(金融庁)まで来ており、環境は改善していますが、事前に金融機関と話しておくべき論点です。

第三者承継 — 資金と税金の問題は小さい

第三者への譲渡では、買い手が対価を支払うため、後継者側の資金調達という問題が生じません。オーナーは株式の対価を受け取り、譲渡益に対して所得税・住民税を合わせて20.315%が課されます(復興特別所得税を含む)。

個人保証についても、買い手が引き受けるか借り換えるかによって、解除の交渉ができます。親族内・従業員承継で壁になる二つの問題が、構造的に小さくなるのが第三者承継です。

一方で、相手を選べるかどうかが結果を左右します。事業を続けてくれるのか、従業員を守ってくれるのか。条件の金額だけで決めると、後から後悔することになります。

選ぶ順番と、並行して進めること

実務では、次の順で検討することが多くあります。第一に、親族に継ぐ意思があるかを確認する。第二に、社内に候補がいるか、資金の手当てができるかを検討する。第三に、第三者への譲渡を含めて選択肢を広げる。

ただし、順番に一つずつ試して失敗してから次に行くのは、時間を失います。親族への打診と並行して、第三者に譲るとしたらどういう相手が考えられるかを把握しておく。この程度の並行は、判断の質を上げます。

当社へのご相談でも、まずは親族内の可能性を整理するところから始めることがあります。M&Aありきでご提案することはありません。

どの類型でも共通してやるべき準備

類型が決まる前でも、着手できる準備があります。

株式の集約。分散した株をまとめる作業は、どの類型でも必要です。会社と個人の分離。役員貸付金、個人名義の事業用不動産、私的な経費。これらの整理は、評価にも交渉にも効きます。数字の見える化。月次で業績が把握できる状態にすることは、後継者にとっても買い手にとっても価値になります。

これらは、承継の相手が誰であっても無駄になりません。「誰に継がせるか」が決まらないから準備が進まない、という状態をつくらないことが大切です。

期限のある制度を意識する

事業承継に関わる制度には、期限のあるものがあります。事業承継税制の特例措置は、特例承継計画の提出期限が2027年9月30日、適用期限が2027年12月31日とされています。

また、株式の譲渡益に関わる課税の枠組みも、いわゆるミニマムタックスの導入により、高額の所得が生じる年について取り扱いが変わります。2025年分から適用が始まり、2027年分からは基準が強化される予定です。2026年12月31日までに譲渡契約を締結した場合は現行の制度によることとされています

制度の内容は改正されることがあります。判断の時期が制度の期限に近い場合は、必ず税理士に最新の取り扱いをご確認ください。

※ 本稿は一般的な考え方をご紹介するものであり、個別の法務・税務アドバイスではありません。実際の手続や課税関係は、会社の状況や契約の定めによって異なります。弁護士・税理士等の専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.改まった場で一度だけ聞くのではなく、時間をかけて何度か話す機会を持つことをお勧めしています。一度目は遠慮して答えが変わることがあるためです。会社の数字や課題を共有したうえで聞くと、現実的な答えが返ってきやすくなります。
A.金融機関からの借入、持株会社を設立してのMBO、段階的な買い取りといった方法があります。いずれも設計が必要で、金融機関の理解が前提になります。後継者候補と一緒に、早い段階で金融機関に相談することをお勧めします。
A.構いません。むしろ、一つずつ試して失敗してから次に移ると時間を失います。親族への打診と並行して、第三者に譲る場合の相手像を把握しておく程度の並行は、判断の質を上げます。
A.そのようなことはありません。親族内の可能性を整理するところから始めるご相談もお受けしています。株式の集約や会社と個人の分離といった準備は、承継の相手が誰であっても必要になるものです。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら