「事業承継対策」という言葉は、税金の話として語られることが多くあります。ただ実際に必要なのは、誰に継ぐかを決め、経営を引き継ぎ、株式を移し、保証と資金を整えるという一連の作業です。本稿では全体像を時間軸で整理し、それぞれの詳細を扱った記事へご案内します。この記事を読んでから、必要なところだけ深く読んでいただく形を想定しています。
対策は、5つの領域に分かれる
事業承継で考えるべきことは、次の5つに整理できます。
| 領域 | 決めること | 目安の期間 |
|---|---|---|
| ①誰に継ぐか | 親族・従業員・第三者・廃業の比較 | 数か月〜数年 |
| ②経営を渡す | 権限移譲、後継者の育成、社内外への周知 | 3〜5年 |
| ③株式を移す | 贈与・売買・相続。税制の選択 | 1〜10年 |
| ④保証と担保 | 個人保証の解除、担保に入れた個人資産 | 交渉次第 |
| ⑤資金の備え | 納税資金、退職金、遺産分割の原資 | 数年 |
税金は③と⑤の一部にすぎません。①が決まらないまま税金の話だけ進めても、前提が変われば組み直しになります。順序としては、まず①です。
①誰に継ぐか|選択肢を並べて比べる
最初に決めるのは承継の相手です。選択肢は4つあります。
- 親族内承継——お子様やご親族に継いでもらう(「親族内承継の進め方」)
- 従業員承継——役員や従業員に引き継ぐ。MBO・EBO(「従業員承継(MBO・EBO)とは」)
- 第三者承継——他社や個人に譲渡する(「第三者承継とは」)
- 廃業——事業をたたむ(「廃業とM&Aはどちらを選ぶべきか」)
帝国データバンクの2025年調査によれば、後継者不在率は50.1%です。約半数の会社で、親族や社内に継ぐ人が決まっていないという状況があります。
大切なのは、一つに決め打ちせず、並べて比べることです。会社・従業員・ご家族それぞれにとって何がどう変わるかを並べたうえで選べば、どれを選んでも納得が残ります。
比べるときの観点を挙げておきます。会社が続くか。従業員の雇用が守られるか。取引先との関係が残るか。ご自身と家族に何が残るか。そして、いつまでに決着するか。この5つで並べると、選択肢ごとの違いがはっきりします。金額だけで比べると、後から後悔が残りやすいところです。
②経営を渡す|いちばん時間がかかる
株式は書類で移せますが、経営は人が身につけるものなので時間がかかります。数字の読み方、取引先との関係、従業員との信頼、金融機関との付き合い。これらは引き継ぎに数年を要します。
実務では、後継者を役員に就けて段階的に権限を移し、先代は会長として一定期間残る形がよく取られます。先代がいつ完全に退くかを、あらかじめ決めておくことが重要です。決めずにいると、いつまでも二重構造が残ります。
詳しくは「後継者育成の進め方」「先代はいつ会長になるか」をご覧ください。
③④⑤|株式・保証・資金は、並行して進める
残る3つは、①②と並行して準備します。
株式の移転は、株価の水準と後継者の資金力で方法が変わります。事業承継税制(納税猶予)を使う場合、特例承継計画の提出期限は2027年9月30日、適用期限は2027年12月31日とされています。制度の利用を検討するなら、時間の余裕を見ておいてください(「事業承継税制(特例措置)とは」)。
個人保証は、後継者に引き継ぐのか、解除を目指すのかを決めます。金融庁の公表によれば、経営者保証に依存しない新規融資の割合は2024年度上期で52%となっており、環境は変わりつつあります(「個人保証を後継者に引き継ぐか」)。
資金の備えは、納税資金、先代の退職金、他の相続人への配分原資が主な論点です。生命保険を使う方法もあります(「先代の役員退職金」)。
いつから始めるか
一般的には、引退を考える時期の5年から10年前とされます。ただ、そこまで時間がない方が大半だと思います。
時間が限られている場合でも、順序は変わりません。まず①を決める。誰に継ぐかが決まれば、残りは走りながら組めます。逆に①が決まらないまま税制や保険の検討を進めても、前提が変われば作り直しです。
また、ご健康上の理由などで急ぐ場合には、取れる手が限られます。判断能力があるうちにしかできないことがあるためです(「経営者が病気になったら会社はどうなる」)。時間があるうちに、方向だけでも決めておくことをおすすめします。
もうひとつ、「まだ元気だから」は理由になりません。元気なうちにしかできないのが、経営の引き継ぎです。数字の読み方や取引先との関係は、隣で見せながらでないと伝わりません。体調を崩してからでは、書類の手続きはできても、この部分は渡せなくなります。
まとめ|決めることから始める
要点を整理します。
- 事業承継対策は5領域。税金はその一部にすぎない
- 順序は①誰に継ぐか → ②経営を渡す。③株式・④保証・⑤資金は並行
- いちばん時間がかかるのは経営の引き継ぎ(3〜5年)
- 選択肢を並べて比べる。決め打ちしない
- 時間がなくても順序は同じ。まず①を決める
当社は相談料・着手金・月額報酬0円で、承継の選択肢の整理からご相談を承っています。譲渡ありきのご提案はいたしません。親族内承継や従業員承継が適していると判断すれば、そのようにお伝えします。計画の立て方は「事業承継計画書の作り方」もご覧ください。