先代経営者の急逝などにより、ご遺族が自社株式を相続する——事業承継の準備が整う前に、こうした事態は突然訪れます。残されたご家族は、会社の経営をどうするかという問題と、相続税の納税という問題に同時に向き合わなければなりません。その解決策のひとつが、相続した株式を第三者に譲渡するM&Aです。本稿では、相続した株式を売却する場合の課税の基本から、税負担を軽減できる「相続税の取得費加算の特例」、発行会社への譲渡(いわゆる金庫株)の特例、そして売却タイミングの考え方まで、順を追ってご説明します。

先代の急逝で株式を相続したとき、何が起こるのか

オーナー経営者が亡くなると、その保有していた自社株式は相続財産となり、ご遺族に引き継がれます。このとき、ご遺族は大きく二つの課題に直面します。

課題1:会社の経営を誰が担うのか

後継者が決まっていた場合はともかく、準備が整わないまま相続が発生すると、経営の担い手が不在のまま会社だけが残ることになります。ご遺族が経営に携わってこなかった場合、事業の継続そのものが困難になりかねません。従業員の雇用、取引先との関係、金融機関との折衝など、判断を待ってくれない問題が次々と押し寄せます。

課題2:相続税の納税資金をどう確保するのか

非上場株式は相続財産として評価され、相続税の課税対象となります。業績のよい会社ほど株式の評価額は高くなる傾向がありますが、株式は上場株のように市場で簡単に換金できません。「財産の大半が自社株式なのに、納税は現金で」という構造的なミスマッチが、ご遺族を悩ませることになります。

この二つの課題を同時に解決し得る選択肢が、相続した株式を第三者へ譲渡するM&Aです。信頼できる買い手に会社を引き継いでもらうことで事業と雇用を守りつつ、株式が現金化されることで納税資金も確保できます。そして、相続後の売却には、知っておくべき税制上の特例が用意されています。

相続した株式を売却する場合の課税|20.315%と取得費の引き継ぎ

相続した非上場株式を第三者に譲渡した場合、その譲渡益(譲渡所得)には原則として20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)の税率で課税されます。給与や事業所得とは合算されない申告分離課税であり、譲渡益がどれだけ大きくても税率は一定です。

譲渡益は、次の算式で計算されます。

  • 譲渡益 = 譲渡価格 −(取得費 + 譲渡費用)

ここで重要なのが「取得費」の扱いです。相続により取得した株式の取得費は、相続時の評価額ではなく、被相続人(先代)の取得費をそのまま引き継ぎます。先代が会社を創業した場合、取得費は設立時の出資額であることが多く、長年の経営で企業価値が高まった会社ほど、譲渡価格と取得費の差、すなわち譲渡益が大きくなります。結果として、譲渡対価の大部分が課税対象になるケースも珍しくありません。

「相続税を払ったうえに、売却時にも譲渡益課税がかかるのか」と疑問に思われるかもしれません。この二重の負担を調整するために設けられているのが、次にご説明する「相続税の取得費加算の特例」です。株式譲渡益課税の基本的な仕組みについては「会社売却にかかる税金|株式譲渡益課税と手取り額の考え方」でも詳しく解説しています。

相続税の取得費加算の特例|3年以内の譲渡で税負担を軽減

相続税の取得費加算の特例とは、相続または遺贈により取得した財産を、相続開始日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡した場合、支払った相続税額のうち譲渡した財産に対応する部分を取得費に加算できるという制度です。

特例の仕組み

先ほどの算式に当てはめると、取得費に「譲渡した株式に対応する相続税額」が上乗せされるため、その分だけ譲渡益が圧縮されます。譲渡益が小さくなれば、20.315%を掛けた税額も小さくなる——つまり、相続税として納めた金額の一部が、譲渡所得の計算上「取り戻せる」イメージです。

  • 通常:譲渡益 = 譲渡価格 −(取得費 + 譲渡費用)
  • 特例適用時:譲渡益 = 譲渡価格 −(取得費 + 譲渡した株式に対応する相続税額 + 譲渡費用)

適用のポイント

  • 期限は「相続開始日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで」の譲渡であること
  • 相続税を実際に納付していることが前提となること(相続税がかからなかった場合は加算する税額がない)
  • 加算できるのは、譲渡した財産(株式)に対応する部分の相続税額であること
  • 適用には確定申告での手続きが必要であること

相続税の負担が大きかったご遺族ほど、この特例による軽減効果は大きくなり得ます。自社株式の相続税評価額が高く、多額の相続税を納めたケースでは、売却の際に必ず検討すべき特例といえます。具体的な適用可否や加算額の計算は、相続税申告を担当した税理士に確認しながら進めることをおすすめします。

発行会社への譲渡(金庫株)にも特例がある

相続した株式の現金化には、第三者へのM&Aのほかに、株式を発行会社そのものに買い取ってもらう方法(いわゆる金庫株)もあります。会社に資金の余裕がある場合、ご遺族の納税資金確保の手段として使われることがあります。

税務上の注意点として、非上場株式を発行会社に譲渡した場合、対価のうち資本金等の額を超える部分は原則として「みなし配当」とされ、配当所得として総合課税の対象になります。総合課税では他の所得と合算のうえ累進税率が適用されるため、所得水準によっては申告分離課税の20.315%より重い負担となることがあります。

ただし、相続により取得した株式を一定期間内に発行会社へ譲渡する場合には、みなし配当課税を適用せず、譲渡所得として20.315%の課税で完結させる特例が設けられています。前述の取得費加算の特例と併せて使える場合もあり、相続後の株式の現金化を税務面で後押しする制度といえます。適用には期限や手続きの要件があるため、実行前に必ず税理士へご確認ください。

もっとも、金庫株は会社の資金が社外に流出する方法であり、事業承継そのものの解決にはなりません。経営の担い手がいないという課題も残ります。納税資金の確保だけでなく会社の将来まで含めて考えるなら、第三者への譲渡(M&A)と金庫株のどちらが適しているか、両にらみで検討する価値があります。

売却タイミングの考え方|期限に追われて安売りしない

取得費加算の特例には「相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで」という期限があります。この期限を意識すると、「早く売らなければ」という心理が働きがちですが、ここで冷静に考えたいのは、特例による税負担の軽減額と、譲渡価格そのものの多寡は別の問題だということです。

「期限内の売却」と「納得できる価格」のバランス

特例で軽減できるのは、あくまで譲渡した株式に対応する相続税額の範囲です。一方、期限に追われて買い手探しや交渉を急ぎ、譲渡価格を大きく妥協してしまえば、失う金額が特例の効果を上回ることも十分あり得ます。手取り額は「譲渡価格 − 税金」で決まる以上、税金だけを見て価格を犠牲にするのは本末転倒です。

逆算のスケジュールを早めに描く

M&Aは、相手探し・交渉・デューデリジェンス・契約と段階を踏むため、着手から成約まで相応の期間を要します。特例の期限を活かしたいのであれば、期限間際に動き出すのではなく、相続後できるだけ早い段階で専門家に相談し、「いつまでに何を終えるか」を逆算したスケジュールを描いておくことが大切です。時間の余裕は、そのまま交渉力の余裕につながります。

  • 特例の期限から逆算して、早めに検討・着手する
  • 税負担の軽減額は税理士に試算してもらい、判断材料として「見える化」する
  • 期限を理由に価格や条件を過度に妥協しない
  • 期限内の成約が難しい場合も、特例を諦めた前提での最善策を並行して考える

相続が起こる前に|生前のM&A検討という選択肢

ここまで相続が発生した後のお話をしてきましたが、視点を変えると、相続が起こる前に会社の出口を決めておくことこそが、最も確実な備えです。オーナー経営者がご健在のうちにM&Aで会社を譲渡しておけば、ご遺族が経営と納税の二重の課題を背負うことはありませんし、株式はすでに現金化されているため、遺産分割もしやすくなります。

親族内に後継者候補がいる場合の承継の進め方は「親族内承継の進め方|株式の移し方と揉めないための準備」で解説していますが、後継者が見つからない、あるいはご本人が承継を望まないケースでは、第三者へのM&Aが有力な選択肢となります。ご自身の年齢や健康に不安を感じ始めたときが、検討を始めるひとつのタイミングです。

当社プラチナパートナーズは、相続後の株式売却のご相談にも、相続対策としての生前のM&A検討にも、相談料・着手金・月額報酬0円で対応しています。税務面は相続税申告を担当された税理士等の専門家と連携しながら進めますので、「まだ売ると決めたわけではない」という段階でも、無料相談からお気軽にお声がけください。

本稿の税制・法務に関する記載は2026年8月時点の制度に基づく一般的な解説です。個別の適用については、必ず税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.相続した非上場株式を第三者に譲渡した場合、譲渡益に対して原則20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)の申告分離課税が適用されます。取得費は被相続人(先代)の取得費を引き継ぐため、先代が創業した会社では取得費が小さく、譲渡対価の大部分が譲渡益となるケースが少なくありません。
A.相続または遺贈により取得した財産を、相続開始日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡した場合、支払った相続税額のうち譲渡した財産に対応する部分を取得費に加算できる特例です。取得費が増える分だけ譲渡益が圧縮され、株式売却時の税負担を軽減できる可能性があります。
A.期限だけを理由に売却を急ぎ、譲渡価格を大きく妥協してしまっては本末転倒です。特例による税負担の軽減額と、じっくり買い手を探すことで得られる譲渡条件の改善は、両方を天秤にかけて判断する必要があります。相続が視野に入った段階で早めに専門家へ相談し、時間の余裕をもって進めることが大切です。

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経営と納税、二つの課題に同時に向き合うご遺族の方へ。税理士等の専門家と連携しながら、最善の道を丁寧にご提案します。基本合意時の中間金と成功報酬については料金体系をご覧ください。
メール(info@platinumpartners.jp)でも承ります。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら