分散した株式をまとめる方法の一つが、会社が自社の株を買い取ることです。オーナー個人の資金を使わずに済む一方、会社法の制約があり、売る側には思わぬ税負担が生じます。仕組みを整理します。
会社が自社の株を買えるのか
買えます。自己株式の取得といい、会社法で認められています。ただし自由にできるわけではなく、手続きと財源の両面で制約があります。
手続きとしては、原則として株主総会の決議が必要です。特定の株主から取得する場合は、他の株主に「自分も売りたい」と申し出る機会(売主追加請求権)を与えるのが原則です。この点は定款で排除できる場合があります。
財源としては、分配可能額の範囲内でなければなりません。剰余金の配当と同じ規制です。赤字続きで分配可能額が乏しい会社では、そもそも実行できません。
取得と消却は別のもの
混同されやすいのですが、取得と消却は別の手続きです。
取得は、会社が株主から株式を買い取ること。取得した株式は金庫株として会社が保有し続けることができます。議決権はありません。
消却は、保有している自己株式をなくしてしまうこと。取締役会等の決議で行い、発行済株式総数が減ります。
事業承継の場面では、取得したまま保有しておくことも、消却して発行済株式総数を減らすことも選べます。後継者の持株比率を高めたいのであれば、消却すると比率が上がります。
売る株主には、みなし配当が生じる
ここがもっとも重要です。株主が会社に株式を売却した場合、通常の株式譲渡とは課税関係が異なります。
売却代金のうち、資本金等の額に対応する部分を超える金額は「みなし配当」として扱われます。みなし配当は配当所得であり、総合課税の対象です。給与など他の所得と合算され、累進税率が適用されます。
第三者に株式を売れば譲渡所得として20.315%(復興特別所得税を含む)の分離課税ですが、会社に売ると税率の考え方が変わります。金額が大きいほど、この差は効きます。みなし配当とはで詳しく扱っています。
相続で取得した株式には特例がある
例外があります。相続により取得した非上場株式を、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに発行会社に譲渡した場合、みなし配当課税を行わず、全額を株式の譲渡所得として扱う特例があります。
あわせて、相続税額のうち一定額を株式の取得費に加算できる特例(取得費加算)も使える場合があります。
この二つを組み合わせると、相続税の納税資金を、自社株を会社に買い取らせて用意するという設計が成り立ちます。期限があるため、相続が発生したら早い段階で税理士に相談してください。
M&A前の株式集約に使えるか
分散した株式をまとめる場面で、自己株式の取得は有力な選択肢です。オーナー個人が買い取る資金を用意しなくて済むからです。
ただし、売る側の少数株主にみなし配当が生じます。税負担が重くなることを知らずに応じてもらうと、後から不満が出ます。事前に説明してください。
また、買い手がどう見るかという論点もあります。会社の資金で株を買えば、それだけ現預金が減ります。企業価値の評価に直接影響するため、集約のタイミングは価格交渉との関係でも検討が要ります。分散した自社株を集めるも併せてご覧ください。
価格をどう決めるか
会社が株式を買い取る価格は、税務上の適正な価額との関係で問題になります。
著しく低い価額で取得すれば、売った株主から他の株主への利益移転とみなされる可能性があります。逆に高すぎれば、その株主への利益供与と見られます。
実務では、税理士に株価の算定を依頼し、根拠を書面で残します。相続税評価額、時価純資産、類似業種比準といった方法のうち、どれをどう使ったかを説明できる状態にしてください。
実行の順序
手順をまとめます。
第一に、分配可能額を確認する。直近の決算に基づき、いくらまで買えるのかを税理士に計算してもらいます。第二に、株価を算定し、根拠を残す。第三に、売却する株主に税負担を説明する。第四に、株主総会の決議を行い、議事録を整える。第五に、代金の支払いと株主名簿の書換え。
消却する場合は、さらに取締役会等の決議と、発行済株式総数の変更登記が必要です。登記には期限があります。
使える場面と、使えない場面
自己株式の取得が向くのは、会社に資金があり、分散した株式をまとめたい場面です。相続で取得した株式の買い取りは、特例があるため特に有効です。
向かないのは、分配可能額が乏しい会社、M&Aの直前で現預金を減らしたくない場面、売る株主の所得が高く、みなし配当の負担が重くなる場面です。
オーナー個人が買う、持株会社を使う、といった代替案もあります。どれが適するかは、会社の財務状況と株主の事情で変わります。必ず税理士と一緒に検討してください。