「先代が亡くなったとき、株を兄弟で分けた」「創業時に世話になった人に持ってもらったまま」。自社株は、相続のたびに静かに分散します。承継を考える段になって、自分が何パーセント持っているのか分からないことに気づく経営者は少なくありません。集約は時間のかかる仕事です。だからこそ早く始める価値があります。
まず、いまの株主を確定させる
作業の出発点は、現在の株主を書面で確定させることです。株主名簿、法人税申告書の別表二、設立時の定款と発起人の記録、過去の増資や譲渡の議事録。これらを突き合わせます。
名簿が長年更新されていない会社では、名簿上の株主がすでに亡くなっていることがあります。その場合、株式は相続人の共有になっており、相続人が誰かを戸籍で確認するところから始まります。相続人が複数いれば、その全員が関係者です。
ここで分かるのは、多くの場合「思っていたより関係者が多い」という事実です。一世代進むごとに関係者は増えます。先送りするほど難しくなる類の問題です。
誰から先に話すかを決める
関係者が把握できたら、順番を決めます。実務では、持株比率が大きく、関係の良好な相手から始めることが多くあります。
最初に応じてもらえた事実は、次の相手への説明材料になります。逆に、いちばん難しい相手から始めて断られると、その情報が他の株主に伝わり、全体が止まることがあります。
また、高齢の株主を優先するという観点もあります。その方が亡くなれば、相続によって関係者がさらに増えるためです。緊急度と難易度の両方を見ながら順番を組みます。
買い取りの主体と資金
買い取る主体は、オーナー個人か、会社(自己株式)か、あるいは持株会社かのいずれかになります。
オーナー個人が買えば手続きは単純ですが、個人で資金を用意する必要があります。会社が自己株式として取得すれば会社の資金を使えますが、分配可能額の範囲内であること、原則として株主総会の決議が必要であることなど会社法上の制約があり、売却する側にみなし配当の課税が生じる可能性があります。
資金が一度に用意できない場合、分割払いや、数年にわたる段階的な取得という設計もあります。集約は数年がかりの仕事になることを前提に、資金計画を立ててください。
価格の根拠を残す
価格は、もっとも揉めやすい部分です。同族株主間の売買では、税務上の適正な価額から大きく離れると、贈与とみなされる可能性があります。
実務では、税理士に株価の算定を依頼し、その根拠を書面で残します。相続税評価額、時価純資産、類似業種比準といった考え方のうち、どれを使ったのかを説明できる状態にしておきます。
相手に対しても、「言い値」ではなく「根拠のある額」として示すほうが、話は早く進みます。後日、譲渡の話が出たときに「あのとき安く買われた」という不満が出ないよう、丁寧に説明しておくことが長い目で見て得策です。
話の持ちかけ方
株式の買い取りを申し入れるとき、相手が最初に感じるのは「なぜ今なのか」という疑問です。
ここで承継の準備という文脈で説明することをお勧めしています。「将来、会社を次にわたすとき、株が分かれていると手続きが止まる」「ご迷惑をおかけしないうちに整理しておきたい」。事実として正しく、相手にも理解しやすい説明です。
逆に、譲渡の話が具体化してから急に買い取りを申し入れると、「何かあるのでは」と警戒されます。案件が動く前に着手するほうが、価格も話の通りもよくなるのは、この理由によります。
まとまらない株が残る場合
交渉しても応じない株主、所在が分からない株主が残ることがあります。
所在不明の株主については、会社法197条の売却手続があり、経営承継円滑化法の特例により都道府県知事の認定を受ければ、要件の期間を5年から1年に短縮できます。詳しくは所在不明株主の整理をご覧ください。
応じない株主については、株式の併合によって端数にする方法がありますが、特別決議と反対株主の買取請求への対応が必要です。いずれも時間がかかるため、早い段階で弁護士に相談し、見通しを立てておいてください。
集約は、承継の相手が誰でも必要になる
最後に強調しておきたいのは、株式の集約は、承継の相手が誰であっても必要な準備だということです。
親族に継がせるなら、分散した株は次の世代でさらに分かれます。従業員に継がせるなら、少数株主の存在が意思決定の足かせになります。第三者に譲るなら、買い手は全株の取得を前提に検討します。
「承継の相手が決まってから考える」のではなく、決まる前から着手できる、数少ない準備の一つです。何年かかっても構わないという気持ちで、今日から始める価値があります。