M&Aの検討で「のれん」という言葉を耳にする場面は多いのですが、実は会計上ののれんと、税務上の取扱いは別の話です。同じ会社を同じ金額で買っても、株式を取得するのか、事業を譲り受けるのかによって、税務上の効果はまったく変わります。買い手が「償却で税負担が軽くなる」と見込んでいた効果が、スキーム次第で存在しないこともあります。本稿では、この会計と税務のずれを整理します。

のれんとは何か|会計上の位置づけ

のれんは、買収の対価が、取得した純資産の時価を上回る部分を指します。ブランド、顧客との関係、技術、従業員の力といった、貸借対照表に表れない価値に対して支払われた金額と理解されています。のれんの基本的な考え方は「のれんとは」で解説しています。

会計上、のれんは資産として計上され、日本の会計基準では一定の期間にわたって規則的に償却されるのが一般的です。株式取得の場合、買い手が連結財務諸表を作成する際に、連結上ののれんとして認識されます。

ただし、ここで生じる償却費は、あくまで会計上の費用です。税務上の所得計算において損金となるかどうかは、別の問題です。ここが混同されやすい点です。

税務上の「資産調整勘定」は事業譲渡などで生じる

税務の世界には、のれんに相当する概念として資産調整勘定があります。事業譲渡や非適格の組織再編などによって事業そのものを取得した場合に、対価が受け入れた資産・負債の純額を上回る部分として認識され、一定の期間にわたって損金に算入されていく仕組みです。

つまり、事業譲渡の形で取得した場合には、買い手は税務上の償却によって課税所得を減らす効果を見込めます。法人実効税率の目安は約30%とされていますので、この効果は買収の意思決定に影響する規模になり得ます。仕組みの詳細は「事業譲渡と税務上ののれん(資産調整勘定)」をご覧ください。

これに対して、株式を取得する形の買収では、買い手が取得したのは「株式」という資産です。対象会社の資産・負債を直接受け入れたわけではないため、税務上の資産調整勘定は生じません。連結会計上はのれんが計上され償却されても、税務上その償却費が損金になることはないのです。

本稿は一般的な税制の仕組みのご紹介であり、特定の取引に関する税務アドバイスではありません。実際の適用可否や税額は、会社の状況や取引の内容によって異なります。必ず税理士等の専門家にご確認ください。

スキームによる違いを整理する

ここまでを表にまとめます。

取得の形会計上ののれん税務上の効果
株式取得連結上で計上・償却資産調整勘定は生じない
事業譲渡個別上で計上・償却資産調整勘定として損金算入され得る

この違いから、買い手が事業譲渡を選好する場面が生まれます。ただし事業譲渡には、資産の移転に伴う消費税(標準税率10%)、許認可の取り直し、契約や従業員との関係の個別の承継といった実務上の負担が伴います。税務上の効果だけでスキームを決めることはできません。

また、売り手の立場から見ると、事業譲渡は会社に対価が入り、その利益に法人税等が課されたうえで、オーナー様が資金を受け取る段階でさらに課税されるという構造になります。株式譲渡であれば個人株主の譲渡益に20.315%が課されて完結しますので、売り手にとっては株式譲渡のほうが手取りの面で有利になりやすい、という整理です。スキームごとの違いは「株式譲渡と事業譲渡の税金の違い」で詳しく比較しています。

つまり、買い手に有利なスキームが売り手に不利になることがあり、ここは交渉の対象になります。中小企業のM&Aで株式譲渡が多く用いられるのは、手続きの簡便さに加えて、この点も背景にあります。

買収後に合併すれば効果は得られるのか

「株式を取得した後に、その会社を自社に合併させれば、税務上の効果が得られるのではないか」という発想があります。確かに、非適格の合併に該当する場合には資産調整勘定が生じ得ます。

しかし、合併が税務上の適格要件を満たすかどうかによって取扱いは大きく変わり、また買収と合併を一体として評価される場面もあります。想定していた効果が得られないばかりか、思わぬ課税が生じることもありますので、事前の検討が不可欠です。合併の税務については「買収後に合併する場合の税務」で整理しています。

加えて、合併は組織の統合そのものです。人事制度、システム、取引先との契約をすべて一つにまとめる作業を伴い、統合の負担は決して小さくありません。税務上の効果を目的に合併を急ぐことは、PMIの観点からはおすすめできません。

のれんの減損という別のリスク

会計上ののれんには、もう一つ意識すべき論点があります。買収後に対象会社の業績が計画を下回ると、のれんの価値が見込めないと判断され、減損損失を計上することになる場合があります。

減損は会計上の損失であり、上場企業であれば業績発表を通じて市場の評価にも影響します。「高値で買いすぎた」という評価につながることもあり、買収価格の妥当性を厳しく問われる場面です。のれんの減損については「のれんの減損とは」をご覧ください。

なお、のれんの償却期間の設定も、買収後の損益に影響します。短い期間で償却すれば毎期の負担は重くなり、長く設定すれば減損のリスクを長く抱えることになります。いずれにせよ会計上の話であり、税務上の所得計算とは切り離して考える必要があります。

税務上の効果が見込めないうえに、会計上は減損のリスクを負う。株式取得による買収では、この構造を理解したうえで、買収価格と事業計画の妥当性を丁寧に検討する必要があります。デューデリジェンスで何を確かめるかが、結局はここに効いてきます。

まとめ|会計と税務を混同しない

本稿の要点です。

  • 会計上ののれんと、税務上の資産調整勘定は別の概念
  • 株式取得では、連結上のれんが計上されても税務上の資産調整勘定は生じない
  • 事業譲渡などで事業そのものを取得した場合には、資産調整勘定として損金算入され得る
  • 買い手に有利なスキームが売り手に不利になることがあり、スキームは交渉事項になる
  • 買収後の合併で効果を狙う場合は、適格要件などの検討が不可欠
  • 会計上は、業績が計画を下回った場合にのれんの減損というリスクがある

当社プラチナパートナーズは、買い手企業様のスキーム検討から交渉・クロージングまでをご支援しています。相談料・着手金・月額報酬は0円です。税務の効果と実務の負担を並べて比較したうえで判断できるよう、専門家と連携しながらお手伝いします。

よくあるご質問

A.連結財務諸表上は会計基準に従って償却されますが、税務上の所得計算では損金になりません。税務上ののれんに相当する資産調整勘定は、事業譲渡など事業そのものを取得した場合に生じるものです。
A.効果だけで決めることはできません。事業譲渡には資産の移転に伴う消費税、許認可の取り直し、契約や従業員の個別の承継といった負担が伴い、売り手側の手取りも変わります。総合的に比較して選択してください。
A.合併が税務上の適格要件を満たすかどうかで取扱いが変わり、買収と合併が一体として評価される場面もあります。想定した効果が得られないこともありますので、実行前に必ず税理士にご確認ください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら