買い手企業が自己資金だけで買収を行うケースは多くありません。多くの案件では、金融機関からの借入が資金計画の中心になります。ここで意識しておきたいのが、「借入をした法人」と「利益を生む法人」が別になる場合があるという点です。株式を取得する形の買収では、この構造が返済計画に影響します。本稿では、利息の税務上の扱いと、返済原資をどう確保するかという論点を整理します。

買収資金の借入と利息の基本的な扱い

事業に関連して生じた借入金の利息は、原則として支払った法人の損金になります。買収のための借入であっても、事業目的で行われたものであれば同様です。したがって、利息の分だけ課税所得が減り、法人税等の負担が軽くなります。法人実効税率の目安は約30%とされています。

ただし、借入に伴って支払う手数料や保証料などの費用については、支出した時点で全額が損金となるものと、期間に応じて配分されるものがあります。会計・税務の処理が分かれることもありますので、契約の内容に応じて確認が必要です。M&Aに関連する費用の扱いは「M&A関連費用の税務上の扱い」で整理しています。

また、株式の取得のために要した費用(仲介手数料など)は、株式の取得価額に含められる場合があり、支出時に損金とならないことがあります。この点も資金計画に影響しますので、早めに税理士に確認しておくことをおすすめします。

「借りた法人」と「稼ぐ法人」が分かれる問題

株式取得によるM&Aでは、買い手法人が借入をして対象会社の株式を取得します。この結果、借入金の返済義務は買い手法人が負い、利益を生み出すのは子会社となった対象会社、という構造になります。

買い手法人に十分な事業収益があれば問題は生じません。しかし、買収のために設立した会社(受け皿会社)が借入を行うような場合、その会社自体には事業がなく、返済原資がありません。また、利息の損金が生じても、相殺する所得がなければ税務上の効果も得られないことになります。

そのため、買収後にどうやって資金と損益を結びつけるかが、資金計画の要になります。買収資金の計画全般については「買収資金の調達」もご参照ください。

本稿は一般的な税制の仕組みのご紹介であり、特定の取引に関する税務アドバイスではありません。実際の適用可否や税額は、会社の状況や取引の内容によって異なります。必ず税理士等の専門家にご確認ください。

返済原資を確保する三つの経路

実務でとられる方法は、おおむね次の三つに整理できます。

  • 配当:子会社から親会社へ配当を行い、その資金を返済に充てる
  • 合併:子会社を親会社に合併させ、事業と借入を同じ法人に集める
  • 役員報酬・経営指導料:親会社の役員が子会社の役員を兼ねる、経営指導の対価を受け取るなど

配当については、法人が受け取る配当には受取配当等の益金不算入の仕組みがあり、持株割合などの要件に応じて課税所得に含まれない部分が生じます。返済原資を確保しやすい経路といえます。ただし、子会社に分配可能額がなければ配当は出せませんし、子会社の資金繰りを圧迫しない範囲で行う必要があります。

合併については、事業と借入が同じ法人に集まるため、利息の損金と事業の所得が対応するという整理になります。ただし適格要件の判定や欠損金の扱いなど検討事項が多く、「買収後に合併する場合の税務」で述べるとおり、慎重な検討が必要です。

三つ目については、実態を伴わない支払いは税務上問題になります。経営指導料などの名目で子会社から資金を吸い上げる形は、役務の提供の実態と対価の妥当性が問われますので、根拠資料を整えておく必要があります。

対象会社の借入をどう扱うか

もう一つ、忘れてはならないのが、対象会社自身が抱えている借入です。株式譲渡では会社ごと引き継ぎますので、対象会社の借入金もそのまま残ります。

ここで問題になるのが、経営者保証と、契約に定められた条項です。多くの融資契約には、主要株主の変更や経営権の移転があった場合に金融機関の承諾を要する趣旨の条項が置かれています。無断で株式を譲渡すると、期限の利益を失い、一括返済を求められるおそれがあります。

また、オーナー様個人が連帯保証をしている場合、その保証を解除してもらう交渉が必要です。金融庁の公表によれば、経営者保証に依存しない融資の割合は2024年度上期で52%とされており、環境は変わりつつありますが、個別の交渉が要ることに変わりはありません。保証の引継ぎについては「経営者保証の引継ぎ」をご覧ください。

さらに、役員借入金(オーナー様から会社への貸付)が残っている場合、その扱いも決めなければなりません。詳しくは「役員借入金がある会社の売却」をご参照ください。

検討段階で確認しておきたいこと

資金計画を立てる際は、次を確認しておくと後の想定外を減らせます。

  • どの法人が借入をするのか。その法人に返済原資と課税所得があるか
  • 返済原資をどの経路で確保するのか(配当・合併・役務の対価)
  • 仲介手数料などの費用が、損金となるのか取得価額に含まれるのか
  • 対象会社の既存借入について、金融機関の承諾と保証の扱いをどうするか
  • 2026年4月以後に開始する事業年度からの防衛特別法人税を含め、税負担の見通しを立てているか

特に一つ目と二つ目は、金融機関との協議でも必ず問われる点です。返済計画の前提が曖昧なままでは、融資の条件が厳しくなります。買収の検討と並行して、資金の流れを描いておくことをおすすめします。

なお、当社の報酬体系は、相談料・着手金・月額報酬が0円、成功報酬は移動総資産レーマン方式(最低2,000万円・税別)です。基本合意の時点で成功報酬額の10%を中間金としてお預かりし、成功報酬から全額を差し引きます(基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません)。なお、基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません。

まとめ|借入は「誰が借りて、どう返すか」で設計する

要点を整理します。

  • 買収のための借入金の利息は、原則として損金になる
  • 株式取得では「借りた法人」と「稼ぐ法人」が分かれるため、返済原資の確保が論点になる
  • 配当・合併・役務の対価という経路があり、それぞれに税務上の検討事項がある
  • 仲介手数料などは、損金となるか株式の取得価額に含まれるかで資金計画への影響が変わる
  • 対象会社の既存借入について、金融機関の承諾と経営者保証の扱いを早めに整理する

当社プラチナパートナーズでは、買い手企業様の案件検討から、金融機関との調整を含むクロージングまでをご支援しています。資金計画は早い段階で描いておくほど交渉が安定しますので、検討の初期からご相談ください。

よくあるご質問

A.事業目的の借入であれば、原則として支払った法人の損金になります。ただし借入に伴う手数料や保証料は、支出時に全額が損金となるものと期間に応じて配分されるものがありますので、契約内容に応じて税理士にご確認ください。
A.株式の取得のために要した費用は、株式の取得価額に含められる場合があり、支出時に損金とならないことがあります。費目や取引の形態によって扱いが変わりますので、資金計画を立てる前に税理士にご確認ください。
A.会社ごと引き継がれるため、そのまま残ります。多くの融資契約には経営権の移転に金融機関の承諾を要する趣旨の条項があり、無断の譲渡は一括返済を求められるおそれがあります。オーナー様個人の連帯保証の解除とあわせて、早めに金融機関と協議してください。

Free Consultation

買収の検討段階から、無料でご相談いただけます

相談料・着手金・月額報酬は0円。基本合意時の中間金と成功報酬については料金体系をご覧ください。案件のご紹介から交渉・クロージングまで一貫してお手伝いします。

無料相談を申し込む

Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら