M&Aを進めると、仲介手数料のほかにもデューデリジェンス(DD)費用、弁護士・税理士への報酬、株価算定費用、登記費用など、さまざまな支出が発生します。これらは「どれも経費で落ちる」とは限りません。誰が負担したか、何のための費用か、いつ支払ったかによって、税務上の扱いが変わります。
本稿では、M&A関連費用の税務上の位置づけを、売り手(個人株主)・費用を負担した会社・買い手の三つの視点から整理します。費用の種類そのものについては「M&Aで仲介手数料以外にかかる費用」もあわせてご覧ください。
M&Aで生じる費用にはどんなものがあるか
まず、実際に発生し得る費用を並べてみます。案件の規模やスキームによって要否は変わりますが、おおむね次のようなものです。
- 仲介・アドバイザリー報酬:着手金、月額報酬、中間金、成功報酬など(会社によって体系が異なります)。
- デューデリジェンス費用:財務・税務・法務・労務などの調査費用。原則として調査を依頼する買い手の負担です。
- 専門家報酬:契約書のレビューを依頼する弁護士、株価算定を依頼する専門家、税務相談を受ける税理士への報酬。
- 手続き系の実費:登記費用、許認可の変更手続き、印紙税、証明書の取得費用など。
- 売り手側の準備費用:資料の整備、必要に応じて実施するセラーズDD、株式の集約に伴う費用など。
問題は、これらを「誰が負担し、どう処理するか」です。同じ請求書でも、宛先が会社か個人かで税務上の扱いが変わることがあります。
売り手が個人株主の場合|譲渡費用になるもの・ならないもの
個人株主が株式を譲渡した場合の譲渡所得は、「譲渡価格 −(取得費 + 譲渡費用)」で計算されます。ここでいう譲渡費用は、その株式を譲渡するために直接要した費用を指すと理解されています。譲渡費用として控除できれば、その分だけ課税対象が減り、20.315%相当の税負担が軽くなる計算になります。
譲渡費用に当たり得るもの
- その譲渡のために株主個人が負担した仲介手数料
- その譲渡のために個人が依頼した契約書レビュー等の専門家報酬
- 譲渡に直接必要となった書類の取得費用など
譲渡費用に当たりにくいもの
- M&Aを実行するかどうかを判断する前の、一般的な相談・情報収集にかかる費用
- 会社の業務改善や管理体制の整備そのものにかかった費用(結果としてM&Aに役立ったとしても、譲渡に直接要した費用とはいえないことがあります)
- 会社が負担した費用(そもそも個人の支出ではありません)
境界は必ずしも明快ではなく、実際の判断は契約内容と支出の実態に即して行われます。控除できるかどうかは必ず税理士にご確認ください。確定申告の手順は「株式売却後の確定申告」で解説しています。
費用を会社が負担した場合|損金になるか、役員給与とみなされるか
実務でよくあるのが、株式譲渡なのに費用を会社が支払ってしまうケースです。株式譲渡は株主個人の取引ですから、本来は株主が負担すべき費用を会社が肩代わりすると、その部分が役員給与等として扱われる余地が生じます。役員給与とされれば、会社側では損金算入が制限され、個人側では給与課税という二重に不利な結果になりかねません。
一方、会社自身の取引にかかる費用は、会社の費用として整理できるのが原則です。たとえば次のようなものです。
- 事業譲渡や会社分割のように、会社が当事者となる取引に関して会社が負担した仲介報酬・専門家報酬
- 会社が自らの必要から行った内部管理体制の整備、資料の作成にかかる費用
- 会社に課される登録免許税等
つまり、「その取引の当事者は誰か」と「費用の負担者は誰か」が一致しているかどうかが、最初のチェックポイントになります。株式譲渡なのに費用の請求書がすべて会社宛になっている、という状態は見直しの対象です。
買い手の場合|取得価額に含めるか、その期の損金にするか
買い手側では、支払った費用が「その期の損金」になるのか「取得した資産の価額に含める(資産計上する)」のかが分かれます。ここは金額が大きくなりやすく、買収後のキャッシュフロー計画にも影響します。
株式を取得する場合
株式の取得のために直接要した費用は、原則としてその株式の取得価額に含めると整理されます。取得価額に含まれた部分は、株式を保有している限り損金にはならず、将来その株式を売却したときなどにはじめて損益に反映されます。仲介報酬やDD費用のうち、取得と直接結びつく部分がここに含まれ得ます。
他方、買収するかどうかを判断するための一般的な調査費用など、特定の株式の取得に直接結びつかない支出は、支出時の費用として扱われる余地があります。区分は事実関係次第であり、案件が途中で中止になった場合の扱いも含めて、税理士の判断を仰ぐべき領域です。
事業を取得する場合
事業譲渡で資産を受け入れる場合は、個々の資産の取得価額に付随費用を配分していく考え方になります。受け入れ資産の時価を対価が上回る部分は、税務上の資産調整勘定として扱われ、一定期間にわたって損金に算入されるのが原則です。のれんの会計・税務については「のれんとは」でも触れています。
実務で押さえたい整え方|契約書・請求書・支払時期
税務上の扱いは、後から説明を作るより、はじめから事実を整えておくほうが確実です。実務では次の点を確認しておくことをおすすめします。
- 契約の当事者を明確にする:仲介契約・アドバイザリー契約を、株主個人と結ぶのか、会社と結ぶのか。スキームと整合させます。
- 請求書の宛先と摘要を合わせる:宛先が実際の負担者になっているか、摘要が何に対する報酬かを示しているか。
- 支払の口座を分ける:個人が負担すべき費用を会社口座から出さない。やむを得ず立て替えた場合は精算の記録を残します。
- 支払時期を記録する:着手金・中間金・成功報酬など、支払時期が分かれる場合はどの事業年度・どの年分に属するかを整理しておきます。
- 破談になった場合の扱いを想定しておく:成約に至らなかった場合、すでに支払った費用がどう扱われるかを事前に税理士と確認しておくと、判断が早くなります。
当社は相談料・着手金・月額報酬0円で、費用が発生するのは基本合意時の中間金(成功報酬額の10%)と成約時の成功報酬です。契約の当事者や請求の宛先についても、スキームに合わせてご相談のうえ決めています。
まとめ|「誰の費用か」を先に決めておく
M&A関連費用の税務は、費目の名前ではなく「誰の、何のための支出か」で決まります。個人株主の譲渡費用になるもの、会社の損金になるもの、買い手が取得価額に含めるべきもの——この三つの入り口を意識するだけで、後の混乱はかなり減ります。
逆に、契約の当事者と費用の負担者がずれたまま進めると、役員給与とみなされる、損金算入が認められない、といった思わぬ結果につながることがあります。具体的な適用は必ず税理士にご確認ください。当社では、スキームに合わせた契約の組み方や費用の見通しの整理をお手伝いしています。まずは無料相談からお気軽にどうぞ。