事業譲渡を選んだ場合、見落とされやすいのが消費税です。株式譲渡では原則として生じませんが、事業譲渡では譲渡する資産ごとに扱いが変わり、のれん(営業権)は課税の対象になります。価格の内訳の決め方によって、納める税額が変わります。
株式譲渡と事業譲渡で、扱いがまったく違う
株式の譲渡は、消費税法上、非課税とされています。したがって、株式譲渡で会社を譲る場合、譲渡代金に消費税は生じません。
これに対して事業譲渡は、個々の資産を売買する取引として扱われます。売り手である法人は課税事業者であることが多く、譲渡する資産のうち課税対象となるものについて、消費税を預かって納めることになります。
「同じ会社を譲るのに、方法が違うだけで消費税が生じる」。この差は、手取りの計算に直接効いてきます。方法を比較する段階で、必ず織り込んでおくべき論点です。
課税されるもの、されないもの
事業譲渡で移す資産は、消費税の扱いによって三つに分かれます。
課税されるもの。棚卸資産(商品・製品・原材料)、建物、機械装置、車両運搬具、工具器具備品、そしてのれん(営業権)です。
非課税のもの。土地、有価証券、金銭債権(売掛金など)。土地は消費されるものではないという考え方から非課税とされています。
対象外のもの。現金や預金の移転など。なお、譲渡に伴って買い手が引き受ける負債は、対価の調整として扱われる部分があり、整理が必要です。
のれんは課税対象になる
のれん(営業権)とは、譲渡代金のうち、個々の資産の時価の合計を超える部分です。ブランド、顧客との関係、従業員の技能、立地といった目に見えない価値がここに含まれます。
こののれんは、消費税法上の課税資産の譲渡等にあたります。事業譲渡において価格の大部分がのれんとなる案件では、消費税額も相応の金額になります。
実務では、売り手が買い手から消費税を預かり、申告して納付します。預かった消費税をそのまま手取りだと考えていると、納付の段階で資金が足りなくなります。譲渡代金の入金と納付の時期がずれるため、資金繰り表に必ず反映してください。
価格の内訳をどう決めるか
事業譲渡契約では、総額だけでなく資産ごとの内訳を定めるのが通例です。この内訳の置き方で、消費税額も、双方の税務上の取り扱いも変わります。
売り手は、土地など非課税の資産に多く配分すれば預かる消費税が減ります。買い手は、のれんや償却資産に多く配分すれば将来の損金が増えます。利害が逆になる場面です。
ただし、恣意的な配分は税務上認められません。各資産の時価に基づく合理的な配分であることが求められます。不動産については鑑定評価を取る、機械は査定を取るなど、根拠を残したうえで内訳を決めてください。
買い手側の扱い
買い手にとって、支払った消費税は原則として仕入税額控除の対象になります。ただし、課税売上割合や事業者の区分によって控除できる範囲が変わるため、買い手側でも事前の確認が必要です。
また、買い手が取得したのれんは、税務上資産調整勘定として扱われ、原則として5年間で均等に損金算入されます。会計上の「のれん」の償却期間とは考え方が異なります。
この扱いは、買い手が事業譲渡を好む理由の一つでもあります。のれんの税務も併せてご覧ください。
届出と納付の実務
事業譲渡を行った課税期間について、売り手は通常どおり消費税の申告・納付を行います。譲渡代金が大きい場合、翌期の中間申告の金額にも影響することがあります。
また、事業譲渡によって課税売上高が大きく変動すると、翌々期の納税義務の判定や簡易課税の適用可否が変わることがあります。事業を譲渡した後に会社を継続する場合は、この点も確認しておいてください。
インボイス制度のもとでは、買い手が仕入税額控除を受けるために適格請求書が必要です。譲渡に伴う請求書の様式についても、事前に税理士と確認しておくと安全です。
方法を決める前に、手取りで比べる
事業譲渡と株式譲渡では、消費税だけでなく、法人税・所得税の扱いも違います。事業譲渡では対価が会社に入って法人税が課され、そこからオーナー個人に移すためにもう一段の設計が要ります。株式譲渡では個人に直接入り、譲渡益に20.315%が課されます。
総額の提示額が同じでも、手取りはまったく違う金額になります。方法を決める前に、税理士に両方の手取りを試算してもらってください。
当社では、方法の比較の段階から税理士の先生と一緒に検討を進めることをお勧めしています。M&Aの方法の選び方も併せてご覧ください。