「節税のために入った保険が何本かある」。中小企業では非常によくあるお話です。この保険は、譲渡の場面で必ず論点になります。解約返戻金は会社の含み資産であり、同時に解約すれば益金になる。扱い方で手取りが変わります。
保険は「隠れた資産」として見られる
法人契約の生命保険で、保険料の一部または全部を損金として処理してきた場合、貸借対照表に計上されている資産計上額は、解約返戻金の額より小さいことがあります。この差額が含み益です。
買い手はデューデリジェンスで、契約している保険の一覧、保険種類、保険料、解約返戻金の推移を確認します。含み益があれば、それは企業価値を押し上げる要素として評価されます。
逆に、解約返戻金がピークを過ぎて下降している契約は、放置すると価値が目減りします。譲渡を意識する段階で、契約ごとの返戻金の推移を一覧にしておくことをお勧めします。
解約すると、益金が出る
保険を解約すると、受け取った解約返戻金と、資産計上額との差額が益金になります。損金処理してきた分だけ、解約時にまとめて利益が出るという構造です。
この益金に対しては法人税が課されます。つまり、「節税」と言われてきたものの多くは、課税の繰り延べだったということになります。
したがって、何の対策もなく解約すると、その期の法人税額が大きく膨らみます。実務では、役員退職金の支給と同じ期に解約することで、益金と損金をぶつける設計が広く行われています。
役員退職金との組み合わせ
オーナーが退任する際の役員退職金は、会社にとって損金、受け取る個人にとっては退職所得です。退職所得は、退職所得控除を差し引いた残額の2分の1が課税対象となるため(勤続年数等の要件により異なる場合があります)、給与や配当に比べて税負担が軽くなるのが一般的です。
この退職金の原資として保険の解約返戻金を充て、同じ期に解約益と退職金の損金を相殺する。これが、事業承継やM&Aの場面で保険が活用される典型的な形です。
ただし、役員退職金の額が不相当に高額と判断されれば、その部分は損金になりません。功績倍率法などによる合理的な算定と、株主総会の決議、議事録の整備が前提になります。役員退職金の限度も併せてご覧ください。
買い手が引き継ぐ場合
株式譲渡では、会社が契約者である保険はそのまま会社に残ります。買い手が引き継ぐことになるため、引き継ぐかどうか、引き継ぐならどう扱うかが交渉の対象になります。
買い手にとって、前オーナーを被保険者とする保険は、引き継いでも意味が薄いことがあります。その場合、クロージング前に解約する、あるいは名義を変更して前オーナーに移すという整理が行われます。
いずれにしても、誰の判断で、いつ、どう処理するかを最終契約に書いておくことが重要です。曖昧なまま引き渡すと、譲渡後に揉めます。
名義変更という選択
被保険者がオーナー本人である契約について、契約者を会社から個人に変更し、個人が引き継ぐという整理があります。
このとき、会社から個人へ契約を譲渡する形になるため、その時点の評価額に基づく対価のやり取りが必要です。評価額の考え方については、保険の種類や契約内容によって取り扱いが定められており、過去に改正も行われています。
低い価額で個人に移せば、差額が役員給与や賞与として課税される可能性があります。「安く個人に移せる」という前提での設計は避けてください。必ず税理士に、現在の取り扱いを確認してもらってください。
いつ、どう整理するか
実務の順番としては、まず契約の棚卸しです。保険会社、契約者、被保険者、受取人、保険種類、保険料、資産計上額、現在の解約返戻金、返戻率のピーク時期。これを一覧にします。
次に、それぞれをどうするかを決めます。解約するのか、引き継ぐのか、名義を変えるのか。判断の基準は、被保険者が誰か、会社に残る意味があるか、返戻金のピークがいつかです。
そして、実行の時期を退職金や譲渡の日程と合わせます。ここがずれると、相殺できたはずの益金に課税が生じます。税理士と工程表を共有してください。
保険を「節税」として増やさない
最後に、これから契約を検討される方へ。承継や譲渡が視野に入っている段階で、新たに節税目的の保険に入ることは慎重に判断されたほうがよいと考えています。
課税の繰り延べである以上、いつかは益金が出ます。そのタイミングを退職金などでうまく相殺できなければ、単に資金を寝かせただけになります。保険料の支払いで手元資金が減れば、譲渡までの経営の自由度も下がります。
すでに契約があるものを活かす設計は有効です。しかし、これから増やす判断は、譲渡の設計と一体で考えるべきです。