実行した後で、金額の誤記や手続きの抜けが見つかる。慌てて隠すのが最も悪い対応です。何が直せて、何が直せないのかを整理します。

まず、誤りの種類を分ける

対応が変わるため、最初に分類してください。

① 表記の誤り。金額の桁、日付、氏名、住所の誤記。当事者の意思は一致しているが、書面が間違っている。

② 手続きの漏れ。必要な決議を経ていない、届出をしていない。

③ 前提の誤り。計算の基礎となる数字が違っていた、対象に含めるはずの資産が漏れていた。

④ 事実の相違。表明保証した内容と実際が違っていた。

①②は比較的直しやすく、③④は交渉になります。

表記の誤りは覚書で直す

①の場合、実務では覚書(変更契約書)を作成します。

「◯年◯月◯日付株式譲渡契約書第◯条の『◯◯』は『◯◯』の誤記であり、以下のとおり訂正する」という形です。

双方が署名・押印し、原本を各1通保管します。

元の契約書を修正液で直したり、差し替えたりしないでください。改ざんを疑われます。

誤記であることが明らかな場合ほど、早く直すのが簡単です。時間が経つと、「本当に誤記だったのか」という議論になります。

登記の誤りは更正できる

役員変更などの登記に誤りがあった場合、更正の登記という手続きがあります。

登記した内容が事実と異なる場合に、正しい内容に直すものです。司法書士に相談してください。

ただし、誤りの原因によって手続きが変わります。申請書の記載ミスなのか、そもそも決議の内容が違っていたのか。

後者の場合、改めて決議をやり直す必要があることがあります。

登記は公示されるものです。放置すると、取引先や金融機関が誤った情報で判断することになります。早く直してください。

決議の漏れが見つかった場合

②の典型です。株式の譲渡承認の決議を経ていなかった、といったケース。

譲渡制限株式の譲渡について会社の承認を得ていない場合、会社との関係で効力を主張できないことになります。

対応としては、速やかに承認の手続きを行うことが考えられますが、事後の承認で足りるか、遡って有効になるかは、法的な評価を要します。

必ず弁護士に相談してください。「後から議事録を作れば済む」という処理は、別の問題を生みます。

価格の前提が違っていた場合

③のケースです。これは交渉になります。

まず、契約に価格調整の条項があるかを確認してください。クロージング時の純資産に基づく調整が定められていれば、その手続きで処理できます。

条項が無い場合、当事者間の話し合いになります。

誤りの原因が誰にあるかで、進み方が変わります。売り手が提供した資料に誤りがあったのか、買い手の計算ミスか、双方の認識の齟齬か。

感情的にならず、事実を並べてください。記録を突き合わせれば、多くは原因が特定できます。

表明保証違反の場合

④は、契約が想定している事態です。補償条項に従って処理します。

確認すべきは、請求できる期間金額の下限と上限請求の手続きです。

期間の管理を怠らないでください。調査や交渉に時間をかけているうちに期限を過ぎることがあります。期限内に、書面で通知だけはしておくという手当てが要ります。

ただし、請求するかは経営判断です。関係の継続、回収の可能性、金額の大きさを考えて決めてください。帳簿の不一致が出たときも併せてご覧ください。

税務申告への影響を確認する

見落とされやすい点です。誤りの内容によっては、税務申告に影響します。

譲渡価格が変わる、対象資産が変わる、退職金の額が変わる。いずれも課税関係に影響し得ます。

すでに申告している場合、修正申告や更正の請求が必要になることがあります。期限や手続きが定められているため、早く税理士に相談してください。

「金額が変わったが、申告はそのまま」は通りません。後の税務調査で指摘されます。

関係者への伝え方

実務的な配慮です。誤りが見つかったら、相手に早く伝えてください。

伝え方は、事実と、こちらの対応案をセットで示します。「◯◯に誤りがありました。原因は◯◯です。◯◯という方法で訂正したいのですが、いかがでしょうか」。

謝罪だけでは前に進みません。逆に、相手を責める形で伝えると、話がこじれます。

そして、仲介したアドバイザーに相談してください。当事者だけで話すより、間に入る者がいたほうが早く収まることが多くあります。

防ぐには、最終確認の手順を作る

最後に、予防の話です。誤りの多くは、確認の手順が無いことから生じます。

署名前に行うべき確認を挙げます。

金額。桁と単位を、声に出して読み合わせる。

日付。契約日、効力発生日、クロージング日。

当事者の表示。商号、住所、代表者名を、登記事項証明書と照合する。

別紙・添付資料。本文から参照されているものが、すべて添付されているか。

この確認を、当事者以外の第三者にも行ってもらってください。作った人は、自分の誤りに気づきません。

※ 本稿は一般的な考え方をご紹介するものであり、個別の法務・税務アドバイスではありません。実際の取り扱いは会社の状況や契約の定めによって異なります。専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.当事者の意思が一致していて書面が間違っているだけなら、覚書(変更契約書)を作成して訂正します。元の契約書を修正液で直したり差し替えたりしないでください。改ざんを疑われます。誤記であることが明らかなうちに早く直すのが簡単です。
A.更正の登記という手続きがあります。ただし、申請書の記載ミスなのか決議の内容が違っていたのかで手続きが変わり、後者では改めて決議をやり直す必要があることもあります。登記は公示されるため、放置せず司法書士に相談してください。
A.譲渡制限株式の譲渡について会社の承認を得ていない場合、会社との関係で効力を主張できないことになります。事後の承認で足りるか、遡って有効になるかは法的な評価を要するため、必ず弁護士に相談してください。
A.まず契約に価格調整の条項があるかを確認してください。無い場合は当事者間の話し合いになります。誤りの原因が売り手の資料にあるのか、買い手の計算ミスか、認識の齟齬かで進み方が変わります。記録を突き合わせれば多くは原因が特定できます。
A.譲渡価格や対象資産、退職金の額が変わる場合、課税関係に影響し得ます。すでに申告していれば修正申告や更正の請求が必要になることがあり、期限や手続きが定められています。早く税理士に相談してください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら