最終契約に署名し、代金が動く日。やることは決まっていますが、順番を誤ると止まります。当日の流れと、起きやすい問題を整理します。

前日までに終えておくこと

当日を混乱させないために、前日までに次を確定させてください。

出席者と時間・場所。売り手、買い手、仲介、必要に応じて司法書士。オンラインで行う場合も、誰がどこにいるかを決めます。

書類の一覧と、誰が何を持参するか。これを表にして共有します。

送金の手順。振込か、小切手か。振込なら、当日の着金確認をどうするか。

クロージング条件が満たされたかの確認。金融機関の承諾、取引先の同意、許認可の手続き。未了のものが残っていないか。

当日の基本的な順序

実務での標準的な流れです。

① クロージング条件の充足を相互に確認する。契約に定めた前提条件が満たされているか。

② 書類を授受する。売り手から買い手へ、買い手から売り手へ。

③ 送金する。買い手が代金を振り込みます。

④ 着金を確認する。売り手が口座を確認します。

⑤ 株主名簿を書き換える。会社が名義を変更し、記載事項証明書を交付します。

⑥ 役員の変更を決議する。臨時株主総会と取締役会を開催します。

この順序が重要です。着金の前に支配権を渡さない、というのが原則です。

売り手が持参するもの

典型的な書類です。契約の内容によって変わるため、必ず事前に一覧で確認してください。

株券。株券発行会社の場合。紛失していることがあります。早めに確認してください。

株主名簿。

印鑑証明書。発行から3か月以内などの期限が定められていることがあります。

定款、登記事項証明書。

会社の実印、銀行印、代表者印。

通帳、キャッシュカード、ネットバンキングのID。

重要な契約書の原本、許認可証、不動産の権利証。

買い手が持参するもの

譲渡代金。振込の場合は、振込を実行できる体制。

新任役員の就任承諾書と印鑑証明書。登記に必要です。

買い手側の押印書類。

そして、司法書士との連携です。役員変更の登記は、就任日から2週間以内に申請する必要があります。当日に書類を揃えて、司法書士に渡す段取りにしておくと確実です。

送金で起きる問題

実務で最も多いトラブルがここです。

振込限度額。ネットバンキングには1日あたりの上限があります。数億円を送る場合、事前に限度額の引き上げを申請しておく必要があります。

取扱時間。大口の振込は、銀行の窓口対応が必要な場合があります。15時を過ぎると翌営業日になることもあります。

着金の確認。他行宛では、反映に時間がかかることがあります。

対策は、午前中に始めること。そして、事前に双方の銀行に段取りを相談しておくこと。これだけで、ほとんどの問題は防げます。

役員変更の実務

当日に行う会議体の手続きです。

臨時株主総会。新しい株主(買い手)が、役員を選任します。旧役員の辞任届も受け取ります。

取締役会。取締役会設置会社では、代表取締役を選定します。

議事録を作成し、署名・押印します。登記に使うため、押印する印鑑の種類に注意してください。

前経営者が引き続き役員として残る場合も、その旨を決議します。

司法書士に事前に確認して、必要な書類を用意しておいてください。当日に不備が見つかると、登記が遅れます。

印章と通帳の引き渡し

実務で見落とされやすい点です。渡すものと、渡さないものを整理してください。

渡すもの。会社の実印、銀行印、角印、ゴム印。会社名義の通帳とカード。

渡さないもの。前経営者個人の実印、個人名義の通帳。

そして、ネットバンキングと各種システムのID・パスワード。これは書面で引き渡し、クロージング後すぐに変更してください。

引き渡した物の一覧に、双方が署名しておくと、後から「渡した・渡していない」の話になりません。

当日に起きやすい問題

経験上、次のことが起こります。

株券が見つからない。株券発行会社の場合、対応に時間がかかります。事前に確認してください。

印鑑証明書の期限切れ。取り直しに半日かかります。

クロージング条件が未了。金融機関の承諾が間に合わない、といった事態。

直前の価格調整の主張。当日に条件を持ち出されることがあります。応じる義務はありません。契約に定めた手続き以外の変更は、その場で決めないでください。

迷ったら、日を改める。当日の勢いで署名するより、はるかに良い結果になります。

終わった後にやること

クロージングは終点ではなく、手続きの起点です。当日または翌営業日から着手するものを挙げます。

役員変更の登記。2週間以内。

銀行口座の代表者変更。届出印の変更も。

税務・社会保険の各種届出。

許認可の変更届。期限があるものから。

各種システムの権限変更。

従業員・取引先への公表。計画した順序で。

この一覧を、クロージングの前に作って担当者を決めておいてください。当日は消耗します。翌日から動ける状態にしておくことが大事です。

※ 本稿は一般的な考え方をご紹介するものであり、個別の法務・税務アドバイスではありません。実際の取り扱いは会社の状況や契約の定めによって異なります。専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.①クロージング条件の充足を相互に確認 ②書類の授受 ③送金 ④着金の確認 ⑤株主名簿の書換え ⑥役員変更の決議、という順です。着金の前に支配権を渡さない、というのが原則です。
A.株券(発行会社の場合)、株主名簿、印鑑証明書、定款、登記事項証明書、会社の実印・銀行印、通帳とカード、ネットバンキングのID、重要な契約書の原本、許認可証、不動産の権利証などです。契約により異なるため、必ず事前に一覧で確認してください。
A.ネットバンキングの1日あたりの振込限度額(事前に引き上げ申請が必要)、大口振込の窓口対応と取扱時間(15時を過ぎると翌営業日になることも)、他行宛の着金反映の時間です。午前中に始め、事前に双方の銀行に段取りを相談してください。
A.応じる義務はありません。契約に定めた手続き以外の変更は、その場で決めないでください。迷ったら日を改めるほうが、当日の勢いで署名するよりはるかに良い結果になります。
A.役員変更の登記(2週間以内)、銀行口座の代表者と届出印の変更、税務・社会保険の各種届出、許認可の変更届、各種システムの権限変更、従業員・取引先への公表です。この一覧をクロージング前に作り、担当者を決めておいてください。

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当日までに何が要るかを、一覧でお渡しします。
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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら