帳簿に載っていない取引が見つかった。現物と在庫が合わない。買収後に出てくることがあります。慌てて結論を出す前に、確かめる順序があります。

まず、不正と誤りを分けて考える

不一致が見つかったとき、最初から不正を疑わないでください。実務上、多くは処理の誤りや慣行の問題です。

期ずれ。売上や仕入の計上時期が実態とずれている。

棚卸の方法。実地棚卸をしていない、預け在庫を数えていない。

個人と会社の混同。社長個人の支出が会社の経費に入っている、あるいは逆。

記録の不備。そもそも伝票が起きていない取引がある。

結論を先に置くと、事実が見えなくなります。まず、何が起きているのかを確定させてください。

金額と範囲を確定させる

調査の第一歩は、大きさを測ることです。

いくらか。単発なのか、継続的なのか。

いつからか。何期分に及ぶか。

どの範囲か。特定の部署か、特定の取引先か、全社か。

誰が関与したか。これは最後に確認します。先に人を特定しようとすると、調査が感情的になります。

金額が小さく単発なら、修正して終わりにできることもあります。範囲を測らずに大事にすると、現場が萎縮します。

影響が及ぶ先を考える

帳簿の不一致は、他の領域に波及します。早い段階で整理してください。

税務。過年度の申告に誤りがあれば、修正申告が必要になる場合があります。加算税や延滞税が生じ得ます。

会計。買収時の純資産が実態と違っていたことになります。

取引先。相手方の帳簿とも食い違っている可能性があります。

金融機関。提出した決算書に誤りがあったことになります。

いずれも、税理士・会計士と相談しながら進めてください。自社だけで判断すると、対応を誤ります。

売り手に確認する前に、事実を固める

売り手への連絡は、事実がある程度固まってからにしてください。

推測の段階で連絡すると、相手は身構えます。その後の協力が得られなくなります。

固めるべきは、何が、いつ、いくら。そして裏付けとなる資料です。

連絡の仕方も重要です。「不正がありました」ではなく「帳簿と実態に差異が見つかったので、経緯を教えてほしい」と伝える。

説明を聞くことが目的です。実際、売り手の説明で解決することは少なくありません。

表明保証と補償の条項を確認する

並行して、最終契約を読み直してください。

表明保証に該当するか。「財務諸表は一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従って作成されている」「簿外債務は存在しない」といった条項に反する事実か。

補償の請求期間。いつまでに請求できるか。期間を過ぎると請求できません。

補償の下限と上限。一定額を下回る損害は請求できない(デミニミス)という定めがあることがあります。

請求の手続き。書面での通知が必要か、期限はあるか。

期間の管理は重要です。調査に時間をかけているうちに期限を過ぎる、ということが起こります。

補償を請求するかは、別の判断

条項に該当するとしても、請求するかどうかは経営判断です。

考慮すべき点があります。売り手が引き継ぎ期間中に残っている場合、請求は関係を決定的に損ないます。キーマンが売り手の縁故である場合、離職につながることもあります。

また、金額の回収可能性も見ます。売り手に支払能力がなければ、請求しても回収できません。

実務では、まず話し合いで解決を図ることが多くなります。修正の費用を負担してもらう、将来の支払いから相殺する、といった形です。

ただし、期間の管理だけは怠らないでください。話し合いが長引く場合、期限内に書面で通知だけはしておくという手当てが要ります。

社内での扱いを決める

従業員に関わる場合、対応が難しくなります。

誰まで知らせるか。調査中は、範囲を絞ってください。

当事者への対応。前経営者の指示で行っていた、という説明が出ることがあります。本人を責める前に、経緯を聞いてください。

再発防止。仕組みで防げるものは仕組みで防ぐ。個人の責任にすると、同じことが繰り返されます。

処分の判断は、事実確認が完全に終わってから。急いで処分すると、後から事実が違ったときに取り返しがつきません。

記録を残す

調査の過程は、必ず書面に残してください。

いつ、誰が、何を確認したか。どの資料を見たか。誰に何を聞き、どう答えたか。

これは、補償を請求する場合の証拠になります。また、税務調査で説明を求められた場合の資料にもなります。

そして、社内での説明にも要ります。「調査の結果、こうだった」という結論だけでは、後から検証できません。

防ぐには、買う前と直後に手を打つ

最後に、予防の話です。

買う前。デューデリジェンスで、現預金の実在、借入の網羅性、在庫の実地確認を押さえる。とくに網羅性は、決算書を見ても分かりません。金融機関の残高証明、保証の一覧、登記の担保設定を突き合わせてください。

買った直後。在庫の実地棚卸、固定資産の現物確認、銀行口座と印章の管理の掌握。この3つを最初の1か月で行うと、その後に出てくる不一致の範囲を限定できます。

「いつからの分か」が分かる状態を作っておくことが、後の対応を大きく楽にします。在庫の実地棚卸も併せてご覧ください。

※ 本稿は一般的な考え方をご紹介するものであり、個別の法務・税務アドバイスではありません。実際の取り扱いは会社の状況や契約の定めによって異なります。専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.不正と誤りを分けて考えてください。多くは期ずれ、棚卸の方法、個人と会社の混同、記録の不備といった処理の問題です。結論を先に置くと事実が見えなくなります。まず金額・期間・範囲を確定させてください。
A.事実がある程度固まってからです。推測の段階で連絡すると相手は身構え、その後の協力が得られなくなります。「不正がありました」ではなく「帳簿と実態に差異が見つかったので経緯を教えてほしい」と伝えてください。
A.表明保証に該当するか、補償の請求期間(過ぎると請求できません)、補償の下限と上限、請求の手続きです。調査に時間をかけているうちに期限を過ぎることがあるため、期間の管理を怠らないでください。
A.条項に該当しても、請求するかは経営判断です。売り手が引き継ぎ期間中に残っている場合は関係を損ない、キーマンが売り手の縁故なら離職につながることもあります。回収可能性も見てください。話し合いが長引く場合でも、期限内に書面で通知だけはしておいてください。
A.買う前はデューデリジェンスで現預金の実在・借入の網羅性・在庫の実地確認を押さえること。買った直後は在庫の実地棚卸、固定資産の現物確認、銀行口座と印章の管理の掌握を最初の1か月で行うことです。「いつからの分か」が分かる状態を作ると、後の対応が楽になります。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら