M&Aの最終契約として交わされるのが、株式譲渡契約書(SPA:Share Purchase Agreement)です。数十ページに及ぶことも珍しくなく、法律用語も多いため、はじめて目にする経営者様には読み通すだけでも負担があります。しかし、条項の並びには一定の型があり、それぞれが何を決めているのかを知っていれば、どこを重点的に読むべきかが分かります。本稿では、その全体構成を売り手の視点で解説します。契約書の具体的な内容や修正の要否については、必ず弁護士にご確認ください。
株式譲渡契約書(SPA)とは|何を決める書面か
SPAは、売り手が保有する株式を買い手に譲渡することを法的に確定させる契約です。基本合意書が「この方向で進めましょう」という中間的な合意であるのに対し、SPAは実際に権利と義務を発生させる最終の書面です。両者の違いは「基本合意書(LOI)と最終契約書(SPA)の違いと注意点」で整理しています。
SPAが決めているのは、突き詰めれば次の三つです。第一に、何を、いくらで、いつ渡すのか。第二に、渡すまでに双方が何をするのか。第三に、渡した後に問題が判明したら、誰がどこまで責任を負うのか。条項の数は多くとも、この三つの骨格を意識すると読みやすくなります。
前半の条項|譲渡の対象・対価・実行
| 条項 | 定めている内容 |
|---|---|
| 定義 | 契約書中で繰り返し使う用語の意味。「重要な」「知る限り」といった限定語の定義は、後の条項の効き方を左右する |
| 株式の譲渡 | 誰が誰に、どの株式を何株譲渡するか。株主が複数いる場合は各人の持分を明記する |
| 譲渡価額 | 総額と1株当たりの金額。価格調整の仕組みがある場合はその算定方法と時期 |
| 支払方法 | 支払の時期、振込先、分割払いの有無、条件付対価(アーンアウト)がある場合はその条件 |
| クロージング | 実行日、実行場所、当日に交付する書類、株主名簿の書換えなど、当日行う手続 |
売り手が特に確認したいのは、価格調整の仕組みです。契約時点の想定純資産とクロージング時点の実際の純資産の差を後から精算する方式が採られることがあり、その場合、最終的な手取り額は契約書の金額そのままにはなりません。算定の基準日、対象となる項目、確定までの手続と期限を確認してください。
もう一つは、条件付対価です。成約後の業績に応じて追加の対価を支払う仕組み(アーンアウト)が入る場合、達成条件の判定方法、判定に必要な情報の入手方法、買い手が経営方針を変えた場合の扱いまで見ておく必要があります。
前提条件と誓約事項|クロージングまでの約束
クロージングの前提条件
契約締結からクロージングまでに満たされていなければ、実行を求められない(あるいは実行しなくてよい)事項を並べた条項です。売り手側の条件としては、株主総会や取締役会の承認、必要な許認可の維持、重要な契約先からの同意取得、係争の解消、特定の是正措置の完了などが挙げられます。
ここで確認したいのは、「自分の努力で満たせる条件か」という点です。第三者の同意が必要な条件は、こちらの努力だけでは達成できません。取得が難しい見込みであれば、条件から外す、あるいは努力義務にとどめるといった調整を協議します。
誓約事項(コベナンツ)
契約締結からクロージングまでの間、売り手が守るべき行動を定めます。通常の事業運営を継続すること、重要な資産を処分しないこと、多額の借入や新規の長期契約を行わないこと、役員報酬や配当を勝手に変更しないこと、といった内容が一般的です。会社の状態を契約時から大きく変えないための取り決めです。
成約後についての誓約が置かれることもあります。引継ぎへの協力、一定期間の役職への就任、従業員の引き抜き禁止などです。自分が実際に守れる内容かを、期間まで含めて確認してください。
表明保証と補償|リスクをどちらが負うか
SPAの中で、売り手にとって最も重い条項がここです。
表明保証
一定の事項が真実かつ正確であることを、売り手が買い手に対して表明し、保証する条項です。株式が有効に発行され売り手が適法に保有していること、決算書が正確であること、簿外債務がないこと、未払賃金がないこと、重要な契約に違反がないこと、係争がないこと、法令を遵守していること、といった項目が並びます。
確認すべきは、次の点です。
- 「知る限り」「重要な」といった限定が付いているか。無限定の表明は責任範囲が広くなる
- DDで開示した事項が「開示別紙」として例外に整理されているか
- 実際には確認しようのない事項まで保証させられていないか
補償
表明保証に違反があった場合や、誓約に違反した場合の金銭的な手当てを定めます。売り手として確認したいのは、補償の上限額、一定額に満たない請求は行わない旨の下限、請求できる期間、税務に関する事項など期間を別に定める項目の有無です。上限も期間も定めがなければ、成約後も長く不安定な状態が続くことになります。
特定のリスクについて、通常の補償とは別に「特別補償」を設けることもあります。DDで判明した具体的な懸念に対して、その事項に限って売り手が責任を負う建て付けです。表明保証と補償の詳細は「表明保証とは」をご覧ください。
解除・秘密保持・競業避止など後半の条項
- 解除:クロージング前に、どのような場合に契約を解除できるか。解除された場合の費用負担や違約金の扱い
- 競業避止義務:売り手が譲渡後、同種の事業を行わない義務。対象となる事業の範囲、地域、期間を必ず確認する。生活設計に直結するため、実態に合わない広い定めは修正を求める
- 秘密保持:本件の内容と、知り得た相手方の情報を守る義務。存続期間を確認する
- 公表:M&Aの事実をいつ、どのような形で公表するか。従業員や取引先への説明の順序とも関係する
- 費用負担:各自の専門家費用を各自が負担するのが通例。仲介手数料の負担者も確認する
- 準拠法・管轄:争いになった場合の適用法と裁判所
- 通知・完全合意・分離可能性など:一般条項。ここも読み飛ばさず、通知先の住所が正しいかは確認する
競業避止義務については、退任後に別の仕事をお考えの経営者様に影響が大きい条項です。「同種の事業」の範囲が広すぎないか、地域と期間が合理的か、顧問や取締役への就任まで禁じられていないかを見てください。詳しくは「競業避止義務とは」で解説しています。
まとめ|読むべき順序と、弁護士に聞くべきこと
SPAをはじめて読むときは、①譲渡価額と支払方法、②表明保証の項目と限定、③補償の上限・期間、④競業避止の範囲と期間、⑤クロージングの前提条件、という順序で目を通すと、自分に関わる部分から把握できます。そのうえで、法的な効果や文言の当否については弁護士にご確認ください。「この条項があると、具体的に何が起きるのか」を尋ねる形で相談すると、実務的な回答が得られます。
当社プラチナパートナーズでは、契約書のドラフトを受け取った段階で、条項の意味と交渉上の位置づけを平易にご説明し、確認すべき点を整理してお渡ししています。弁護士等の専門家との連携も含め、締結までを伴走しますので、まずは無料相談からご相談ください。