ホームセンターは、日用品からDIY用品、園芸、資材、そして工具まで、暮らしと現場の両方を支える品揃えで拡大してきた業態です。しかしいま、家庭向けの需要は伸び悩む一方、プロ向けの需要には手応えがあるという、ふたつの流れが同時に走っています。本稿では、公表統計で現在地を確認したうえで、経営環境の変化と事業承継の論点を整理します。
業界の現在地|販売額は減少、店舗数は5,000店超
経済産業省「商業動態統計」によれば、2025年の小売業販売額は157兆5,080億円で前年比1.4%の増加でしたが、業態別に見ると明暗が分かれました。ドラッグストア、スーパー、家電大型専門店、コンビニエンスストアは前年より販売額が増加した一方、百貨店とホームセンターは減少したとされています。
店舗数については、日本DIY・ホームセンター協会の公表によれば、2024年度末の店舗数は前年度末より50店舗増えて5,020店舗となり、5,000店舗を超えたとされています。市場規模については同協会が概ね3.4兆円としています。
つまり、店舗数は微増しているのに販売額は減少しているという状況です。1店舗あたりの売上が下がっていることを意味しますから、既存店の生産性をどう高めるかが業界共通の課題になっています。
加えて、リフォーム分野への展開も進んでいます。同協会の公表によれば、2025年3月31日現在でリフォーム取り扱い店舗として掲載されているのは33社1,537店舗とされています。
需要側の変化|家庭向けとプロ向け
ホームセンターの需要は、大きく家庭向け(DIY・園芸・日用品)とプロ向け(建設・工事・農業などの事業者)に分かれます。
家庭向けについては、人口減少の影響を受けます。総務省「人口推計」によれば、2025年10月1日現在の総人口(概算値)は1億2,321万人で、前年同月に比べ59万人(0.48%)の減少とされています。世帯構成も変化しており、持ち家で庭を持つ世帯を主な顧客としてきた業態にとっては、商圏の質そのものが変わりつつあります。
また、日用品カテゴリーではドラッグストアとの競合が強まっています。日本チェーンドラッグストア協会の実態調査によれば、2024年度のドラッグストアの店舗数は2万3,723店舗、総売上高は10兆307億円とされており、日用品を安く売る店として広く定着しています。
一方、プロ向けについては手応えがあります。日本DIY・ホームセンター協会の公表では、プロ向け業態の店舗数が順調に伸びており、増勢が続いているとされています。工務店や職人にとって、必要な資材をその場で調達できる店舗は、時間の節約という明確な価値を持ちます。建設業では2024年4月から時間外労働の上限規制が適用されており、現場の時間当たり生産性への意識は高まっています。
コスト側の変化|人件費、在庫、物流
ホームセンターは売場面積が広く、扱う商品が重量物・かさ高品を多く含むため、人と物流の負担が大きい業態です。
人件費については、厚生労働省の公表によれば令和7年度の地域別最低賃金は全国加重平均で1,121円となり、前年度から66円の引上げで、初めて全都道府県で1,000円を超えました。令和8年度も、目安どおりに改定されれば全国加重平均は1,176円になるとされています。
在庫の負担も重くなります。品目数が多く、季節性の高い商品(園芸、暖房、レジャー用品など)を扱うため、売れ残りが値下げロスとして現れます。売場面積あたりの在庫効率をどう管理するかが、収益の分かれ目になります。
物流面では、改正物流効率化法が2025年4月に施行され、2026年4月には特定事業者の指定、中長期計画の提出、物流統括管理者(CLO)の選任などの規定が施行される予定とされています。重量物・かさ高品を扱うホームセンターにとって、配送効率の見直しは避けられないテーマです。
価格転嫁については、中小企業庁「価格交渉促進月間(2025年9月)フォローアップ調査」(2025年11月公表)で、価格転嫁率は53.5%とされています。資材価格の上昇を売価に反映できるかどうかが、粗利を左右します。
事業承継の観点|地域ホームセンターの論点
帝国データバンクの2025年調査では、国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。ホームセンター業界では、地域に根ざした中小規模のチェーンが各地に存在しており、これらの事業者にとって承継は現実的な課題です。
承継を検討する際に整理しておきたい点を挙げます。
- 店舗別の売上・粗利・営業利益と、カテゴリー別の構成比
- プロ向け売上の比率と、法人顧客(工務店・農家など)との取引実績
- 店舗用地・建物の権利関係(所有か賃借か、賃貸借の残存期間)
- 在庫の実態(季節品の残高、滞留の状況、値下げロスの実績)
- 資材・木材のカット等、加工サービスの体制
- 危険物・毒物劇物・農薬などの取扱いに関する許可・届出と有資格者
とくにプロ向けの法人顧客は、この業態の価値の中核になり得ます。掛売の実績、配送対応、専用の窓口——こうした機能が整っていれば、それは新規に構築するのが難しい資産として評価されます。顧客基盤の説明のしかたについては「顧客基盤の価値をどう説明するか|取引先の集中度とストック性」もご参照ください。
M&Aで引き継ぐときに整理しておきたいこと
ホームセンターのM&Aでは、不動産と在庫という二つの大きな資産の扱いが焦点になります。
| 領域 | 整理しておきたい内容 |
|---|---|
| 不動産 | 自社所有の場合は土地建物の名義(法人か経営者個人か)、賃借の場合は残存期間・更新条件・原状回復義務。駐車場の台数と接道。 |
| 在庫 | カテゴリー別・季節別の在庫残高、滞留の区分、過去の廃棄・値下げの実績。 |
| プロ向け | 法人顧客の一覧、取引年数、掛売の与信管理と債権の年齢表。 |
| 許認可 | 危険物、毒物劇物、農薬、動物取扱業など、取扱商品に応じた許可・登録と有資格者の在籍。 |
| 設備 | 資材加工設備、フォークリフト、配送車両の状態と更新計画。 |
| 人材 | 売場責任者の層、有資格者の人数と年齢、離職率。 |
許認可については、株式譲渡であれば法人が存続するため一般に維持されますが、事業譲渡では譲受側の取得が前提になるのが通常です。取扱商品によって必要な許可が複数にわたるため、スキームの選択は早い段階で整理しておく必要があります。詳しくは「M&Aと許認可|株式譲渡と事業譲渡で異なる引き継ぎの考え方」をご覧ください。
まとめ|プロ向けの実績は、説明できる価値になる
ホームセンターは、販売額が減少した業態とされる一方(経済産業省「商業動態統計」2025年)、店舗数は5,020店舗まで増え(日本DIY・ホームセンター協会、2024年度末)、プロ向け業態の増勢が続いているとされています。家庭向けと事業者向けで、需要の方向が分かれているのが現在地です。
承継の局面で価値になるのは、この分岐のどちら側に立っているかを数字で説明できることです。プロ向けの売上比率、法人顧客の取引年数、加工サービスの実績——これらは新規参入では簡単に作れない資産です。
店舗の維持や設備更新に不安がある段階でも、まずは現状を整理するところからご相談いただけます。当社プラチナパートナーズは、成功報酬型のもと対応しています。
本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。制度・統計の解釈や個別の適用については、必ず所管官庁および専門家にご確認ください。