建設業、運送業、介護、調剤薬局、産業廃棄物処理、飲食業——多くの中小企業は、何らかの許認可(許可・認可・登録・届出など)のもとで事業を営んでいます。許認可があってはじめて成り立つ事業をM&Aで引き継ぐとき、避けて通れないのが「その許認可は買い手に引き継がれるのか」という論点です。答えはスキームによって大きく変わります。本稿では、株式譲渡と事業譲渡それぞれにおける許認可の扱いの基本、業種による例外の存在、そして実務での確認手順を、売り手・買い手双方の視点から解説します。
許認可とは|M&Aで必ず確認すべき理由
許認可とは、特定の事業を行うために行政から受ける必要のある許可・認可・免許・登録・届出などの総称です。事業の公共性や安全性を確保するため、業種ごとの根拠法令に基づいて、要件を満たした事業者にのみ営業が認められる仕組みになっています。
M&Aで許認可の確認が決定的に重要なのは、許認可が引き継がれなければ、買い手は譲り受けた事業をそもそも営めないからです。設備や従業員、取引先をすべて引き継いでも、許認可が欠けていれば事業は止まってしまいます。許認可の扱いはM&Aの成否そのものに関わる論点であり、スキーム(取引の形)の選択にも直結します。
そして、その扱いを分ける最大のポイントが「事業の主体である法人格が変わるかどうか」です。許認可は原則として「その法人(または個人)」に対して与えられるものだからです。以下、スキーム別に見ていきます。
株式譲渡の場合|法人格が変わらないため原則維持
株式譲渡は、売り手のオーナー(株主)が保有する株式を買い手に譲渡するスキームです。変わるのは「会社の株主」であって、会社そのもの(法人格)は同一のまま存続します。事業を営む主体が変わらない以上、その法人に与えられた許認可も、原則としてそのまま維持されます。中小企業のM&Aで株式譲渡が広く選ばれる理由のひとつが、この「許認可・契約・従業員との関係を包括的に引き継げる」という特長です。
ただし、「原則維持」であって「何の手続きも不要」ではない点に注意が必要です。業種によっては、次のような対応が求められる場合があります。
- 株主・役員の変更に伴う行政への届出や報告が必要とされる場合
- 経営陣の交代により、許認可の要件である有資格者や責任者の配置を満たし直す必要が生じる場合(退任する役員が要件上のキーパーソンだったケースなど)
- 支配株主の変動について行政の承認や事前手続きが求められる業種の場合
特に、オーナー経営者ご自身が資格者・責任者を兼ねている会社では、引退のタイミングと許認可要件の維持をどう両立するかが実務上の大きな論点になります。株式譲渡の全体の流れは「株式譲渡の手続き」で解説しています。
事業譲渡の場合|買い手による再取得が原則
事業譲渡は、会社が営む事業の全部または一部を、資産・負債・契約などを個別に選んで買い手に譲渡するスキームです。この場合、事業を受け取るのは売り手とは別の法人格を持つ買い手です。許認可は「その法人」に与えられたものですから、売り手の許認可が自動的に買い手へ移ることはなく、買い手が自ら許認可を新規に取得(再取得)するのが原則となります。
この原則から、事業譲渡では次のような実務上の留意点が生じます。
- 買い手が許認可の取得要件(人的要件・物的要件・財産的要件など)を満たせるかを、早期に確認する必要がある
- 許認可の取得には審査期間を要するため、クロージング(事業の引き渡し)のスケジュールに織り込む必要がある
- 許認可の取得が間に合わないと、事業を引き継いでも営業できない空白期間が生じかねない
そのため実務では、「買い手側の許認可取得の完了」を最終契約のクロージング条件(前提条件)として定めるなど、契約面での手当てを行うことが一般的です。なお、買い手がすでに同種の許認可を保有している場合は、新規取得ではなく事業所の追加等の手続きで足りることもあり、買い手の属性によっても難易度は変わります。
業種による例外|「原則」どおりにいかないケース
ここまでの「株式譲渡は維持・事業譲渡は再取得」は、あくまで基本の考え方です。実際の扱いは業種ごとの根拠法令によって異なり、例外や特則が存在します。方向性のイメージとして、次のようなパターンがあります。
| パターン | 考え方 |
|---|---|
| 原則どおりの業種 | 株式譲渡なら維持、事業譲渡なら買い手が新規に再取得する |
| 地位承継の制度がある業種 | 事業譲渡等の際に、行政の認可や届出により許認可上の地位を引き継げる制度が用意されている |
| 株式譲渡でも手続きが必要な業種 | 株主・役員の変更等について届出・報告・承認などが求められる |
| 属人性の強い許認可 | 個人の資格や経歴に紐づくため、経営者交代の影響を特に慎重に確認する必要がある |
どの業種がどのパターンに当たるか、必要な手続きや期間はどの程度かは、根拠法令とその運用によって決まります。本稿の内容は一般的な考え方の整理であり、個別の判断は行政書士・弁護士等の専門家に必ずご確認ください。要件の読み違いは、事業の停止という重大な結果につながりかねません。
実務での確認手順|スキーム検討からクロージングまで
許認可の論点は、M&Aのプロセス全体を通じて段階的に確認していきます。標準的な進め方は次のとおりです。
1. スキーム検討段階|許認可の棚卸し
まず、対象事業がどの許認可に基づいて営まれているかをすべて洗い出します。そのうえで、株式譲渡と事業譲渡のどちらを選ぶかを検討します。許認可の引き継ぎやすさはスキーム選択の重要な判断材料であり、「株式譲渡と事業譲渡の違い」で解説しているとおり、税務・簿外債務リスクなど他の要素と総合して決めることになります。
2. デューデリジェンス|許認可の現況精査
買い手側のデューデリジェンス(DD)では、許認可の有効期限、更新の状況、要件の充足状況(資格者の在籍・設備基準など)、行政指導や処分の有無などを精査します。売り手としては、許認可証や更新記録をあらかじめ整理しておくと、調査がスムーズに進みます。
3. 最終契約|条件と表明保証への織り込み
許認可の再取得や届出が必要な場合は、その完了をクロージングの前提条件に定めたり、許認可が有効に存続していることを売り手が表明保証したりと、最終契約に手当てを織り込みます。
4. クロージング前後|手続きの実行
行政への届出・申請・変更手続きを、必要なタイミングで漏れなく実行します。クロージング後に必要となる届出(役員変更に伴うものなど)もあるため、手続きのリストとスケジュールを事前に作成しておくことが大切です。
まとめ|許認可の確認は「早く・専門家と」が鉄則
M&Aにおける許認可の扱いは、「株式譲渡では法人格が変わらないため原則維持、事業譲渡では買い手による再取得が原則」というのが基本の考え方です。ただし、株式譲渡でも届出等が必要な業種、事業譲渡でも地位承継の制度がある業種など、例外は業種ごとの根拠法令次第です。確認が遅れるとスキームの組み直しやスケジュールの遅延、最悪の場合は営業できない空白期間につながります。
だからこそ、許認可の確認は「できるだけ早く、専門家とともに」が鉄則です。当社プラチナパートナーズは、許認可事業のM&Aについても、論点の整理からスキーム検討、専門家との連携までを一気通貫でサポートしています。相談料は無料ですので、初期段階のご相談からお気軽にお寄せください。