医療機器・ヘルスケア製品の製造は、高い技術力を求められる一方で、許認可と品質マネジメントの体制が事業の前提になるという、他の製造業とは異なる性格を持っています。承継の場面では、この「制度に埋め込まれた事業」という性格が、そのまま論点になります。本稿では公表資料をもとに整理します。
医療機器産業の現在地|生産より輸入が大きい構造
厚生労働省「令和6年(2024年) 薬事工業生産動態統計年報」によれば、2024年における医療機器の国内での生産金額は2兆6642億円、輸入金額は3兆4542億円で、合計は6兆1184億円でした。これに対し、国内への出荷金額は4兆7083億円、外国への輸出金額は1兆1445億円となっています。
この数字が示す最大の特徴は、輸入金額が国内生産金額を上回っているという点です。日本の医療機器市場は、輸入に相当程度依存した構造にあります。
生産金額の推移をみると、2024年は2兆6642億円で前年比0.4%減とほぼ横ばいでした。平成27年(2015年)を100とする指数では136.9であり、10年単位でみれば拡大してきた分野です。
なお、医療機器の製造は日本標準産業分類上、主に業務用機械器具製造業などに含まれます。総務省・経済産業省「2024年経済構造実態調査(製造業事業所調査)」では、業務用機械器具製造業の事業所数は4838事業所、従業者数は22万962人(2024年6月1日現在)、製造品出荷額等は7兆6293億円(2023年、前年比11.0%増)でした。
何がつくられているのか|品目別にみた国内生産
厚生労働省の前掲統計によれば、2024年に生産金額が大きかった医療機器の類別は、医療用鏡が2650億円(構成比9.9%)、内臓機能代用器が2618億円(同9.8%)、医療用エックス線装置及び同エックス線管が2260億円(同8.5%)、血液検査用器具が2253億円(同8.5%)、医療用嘴管及び体液誘導管が2183億円(同8.2%)の順でした。
一般的名称別では、全身用X線CT診断装置が881億円(構成比3.3%)で最大、次いでディスクリート方式臨床化学自動分析装置が856億円(同3.2%)、歯科鋳造用金銀パラジウム合金が799億円(同3.0%)となっています。
この内訳から分かるのは、画像診断装置や検査機器といった大型の分野がある一方で、カテーテル、注射針、歯科材料といった消耗品の分野も大きな比重を占めるということです。中小メーカーが関わっているのは、多くの場合こうした部材・消耗品・部品加工の領域です。
制度の動き|2025年の薬機法改正と品質・供給責任
制度面では、2025年に医薬品医療機器等法(薬機法)等の改正が行われました。改正法は2025年5月に成立し、同月21日に公布され、一部の経過措置等を除き同年11月20日以降、段階的に施行されています。
改正の趣旨は、不正事案の発生等に伴う医薬品の供給不足や創薬環境の変化に対応し、品質の確保された医薬品等を迅速かつ適正に提供していくこととされ、主な内容として、医薬品等の品質及び安全性の確保の強化、医療用医薬品等の安定供給体制の強化、創薬環境の整備、薬局機能の強化などが挙げられています。
医療機器の製造販売業者にとっては、品質管理監督システム(QMS)と製造販売後の安全管理(GVP)の運用が、これまで以上に厳格に問われることを意味します。承継の場面では、この体制が「文書として整っているか」だけでなく、「実際に運用されているか」まで確認されます。
薬機法に基づく許可・登録・認証の要否や、改正法の適用時期は、取り扱う製品のクラス分類や業態によって異なります。個別の判断は所管の行政窓口および薬事の専門家にご確認ください。
保険制度との関係|価格が公定される市場
医療機器のもうひとつの特徴は、多くの製品が公的医療保険の枠組みのなかで使われることです。保険適用される医療機器には償還価格が設定され、その価格は診療報酬改定にあわせて見直されます。
診療報酬改定は原則として2年に一度行われ、直近では2026年度の改定が実施されています。改定の内容は、医療機関の設備投資意欲や、消耗品の使用量にも影響します。つまり、医療機器メーカーの売上は、自社の努力だけでなく、制度の設計にも左右されるということです。
この構造は、事業の安定性という点では強みにもなります。需要が景気に左右されにくく、継続的な補充需要があるためです。一方で、価格の主導権を自社が握りにくいという弱みでもあります。承継の検討にあたっては、自社製品が保険償還の対象かどうか、価格改定の影響をどの程度受けてきたかを整理しておく必要があります。
事業承継の観点|許認可と品質マネジメントを引き継げるか
帝国データバンクの2025年調査によれば、国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。医療機器メーカーの承継で最大の論点は、許認可と品質体制です。
医療機器の製造販売業許可、製造業登録、そして品目ごとの承認・認証は、それぞれ主体と対象が異なります。株式譲渡であれば法人が存続するため許認可は一般に維持されると考えられていますが、事業譲渡や会社分割の場合は、手続の要否と時間を個別に確認する必要があります。この点は、手法の選択そのものに影響します(「株式譲渡と事業譲渡の違い」)。
また、総括製造販売責任者、品質保証責任者、安全管理責任者といった責任者の要件を満たす人材を確保できるかも、実務上の重要な論点です。小規模なメーカーでは、これらの役職を経営者様やごく限られた人数が兼務しているケースがあり、その方が退いた後の体制をどう組むかが交渉の焦点になります。
M&Aで引き継ぐときに整理しておきたいこと
買い手が確認する主な項目です。
| 領域 | 整理しておきたいこと |
|---|---|
| 許認可 | 製造販売業許可・製造業登録の内容と有効期限、品目ごとの承認・認証の一覧。 |
| 責任者 | 総括製造販売責任者等の選任状況と、要件を満たす後任候補の有無。 |
| 品質 | QMS省令への適合状況、内部監査と是正処置の記録、外部監査・査察の履歴。 |
| 安全管理 | 不具合報告の履歴と対応、回収の有無、苦情処理の記録。 |
| 製品 | 品目別の売上と粗利、保険償還の有無、価格改定の影響。 |
| 供給 | 部材の調達先と代替可能性、受託製造先の管理、在庫方針。 |
この分野では、許認可と品質体制が整っていること自体が高く評価されます。新規に許可を取得し、品目の承認を得るには相当の時間がかかるため、既存の体制を引き継げることに価値があるからです。逆に、記録の不備や是正未了の指摘が残っていると、それが交渉の障害になります。
歯科技工など周辺分野については「歯科技工所のM&A」でも取り上げています。当社プラチナパートナーズは、医療関連企業の事業承継をご支援しています。相談料・着手金・月額報酬は0円です。
本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。統計は調査時点・集計範囲により数値の定義が異なるため、個別の判断にあたっては原典および専門家へのご確認をお願いいたします。