電子部品・電子機器の分野は、生成AIやデータセンター向けの需要が世界的に拡大する一方で、国内の中小メーカーは設備投資の重さと部材調達の不確実性に直面しています。市場が伸びているのに自社の見通しが立たない——そうした状況をどう整理すべきか、公表資料をもとに考えます。
電子部品・電子機器産業の現在地
総務省・経済産業省「2024年経済構造実態調査(製造業事業所調査)」によると、電子部品・デバイス・電子回路製造業の事業所数は4504事業所で製造業全体の2.0%、従業者数は41万9731人(2024年6月1日現在)、製造品出荷額等は17兆3291億円(2023年)、付加価値額は6兆8139億円でした。
注目したいのは従業者数の動きです。同調査では、電子部品・デバイス・電子回路製造業の従業者数は前年比1.2%増と、製造業全体が0.2%減となるなかで増加しました。設備投資が続き、人員を増やしている企業があることがうかがえます。
一方、電気機械器具製造業は事業所数1万8事業所・従業者数50万578人で前年比2.5%減、情報通信機械器具製造業は事業所数1273事業所・従業者数10万5807人で前年比5.0%減と、いずれも減少しました。とくに情報通信機械器具製造業の減少幅は、製造業の産業中分類のなかで最も大きくなっています。
同じ「電子」の分野でも、部品・デバイスと完成機器では、まったく異なる方向に動いているということです。
世界の需要は拡大が続く見通し
世界の需要については、一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が毎年「電子情報産業の世界生産見通し」を公表しています。2025年12月に公表された2026年版によれば、2026年の電子情報産業の世界生産額は4兆5103億ドル(前年比10%増)となり、過去最高を更新する見通しです。
また、日系企業の世界生産額(海外生産分を含む)は2025年見込み比3%増の43兆1450億円、国内生産額は同3%増の11兆9116億円と見通されています。同協会は、生成AIをはじめとする先端技術の普及、AI搭載デバイスの拡大、クラウド・エッジコンピューティングの進化により、サーバ・ストレージ関連の需要が底堅く推移することを背景として挙げています。
ただし、この数字は世界全体と日系企業グループ全体のものです。国内で部品を加工する中小メーカーが、この成長をそのまま享受できるとは限りません。需要が伸びる領域と、国内の中小企業が担ってきた領域が一致するかどうかが分かれ目になります。
国内の生産現場に何が起きているか
国内の生産現場では、いくつかの変化が同時に進んでいます。
ひとつは、生産拠点の見直しです。地政学的なリスクや物流の不安定さを背景に、調達先を分散させる動きが続いています。国内回帰の動きも一部にありますが、その恩恵を受けるのは、一定の生産能力と品質保証体制を持つ企業に限られます。
もうひとつは、要求水準の上昇です。取引先からは、品質管理だけでなく、事業継続計画(BCP)、情報セキュリティ、紛争鉱物や化学物質に関する調査への回答、そして脱炭素への取り組みまで、幅広い対応が求められるようになりました。これらは規模の小さな会社ほど負担が重くのしかかります。
実際、「受注はあるが、取引先の要求に応える体制を単独では維持できない」という理由でご相談をいただくこともあります。M&Aが、経営難の解決策ではなく、体制強化の手段として選ばれる場面が増えています。
経営環境|設備投資の重さと、部材調達の不確実性
この分野の設備投資は、金額も更新頻度も重いものになります。実装機、検査装置、クリーンルーム設備——いずれも技術の進展にあわせて更新が必要で、償却が終わる前に次の投資判断が来ることも珍しくありません。
コストの転嫁については、中小企業庁「価格交渉促進月間(2025年9月)フォローアップ調査結果」(2025年11月28日公表)が、コスト全般の価格転嫁率を53.5%(原材料費55.0%、労務費50.0%、エネルギーコスト48.9%)としています。同調査の業種別集計では、電機・情報通信機器は上位に位置しています。
2026年1月1日から施行された「中小受託取引適正化法」(旧下請法)では、協議に応じない一方的な代金決定が禁止され、資本金基準に加えて従業員数基準(300人・100人)が追加されました(公正取引委員会・中小企業庁)。従来は対象外だった取引が新たに規律の対象となる場合があるため、自社の取引がどう位置づけられるかは確認しておく価値があります。
事業承継の観点|技術が特定の顧客に依存していないか
帝国データバンクの2025年調査によれば、国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。電子部品メーカーの承継でとくに問われるのは、「自社の技術が、特定の顧客・特定の製品に依存していないか」という点です。
ある顧客の一製品向けに最適化された工程は、その製品が世代交代した瞬間に価値を失う可能性があります。一方、複数の顧客・複数の用途に応用できる技術を持つ会社は、需要が入れ替わっても事業が続きます。買い手は、この違いを非常に注意深く見ます。
整理しておきたいのは次の点です。
- 顧客別・製品別の売上構成と、それぞれの製品ライフサイクルの段階
- 自社の工程・技術が他の用途に転用できるか、実績はあるか
- 設備の残存耐用年数と、次の更新に必要な金額
- 技術の中核を担う人材の年齢と、後任の育成状況
この整理は、承継のためだけでなく、自社の中期的な方向を考えるうえでも有効です。
M&Aで引き継ぐときに整理しておきたいこと
買い手が確認する主な項目です。
| 領域 | 整理しておきたいこと |
|---|---|
| 顧客 | 顧客別の売上構成と依存度、取引年数、製品ごとの終息予定。 |
| 技術 | 工程能力のデータ、対応できる仕様の範囲、他用途への転用実績。 |
| 設備 | 主要装置の設置年・稼働率・残存耐用年数、次期更新の見込額。 |
| 品質 | 品質マネジメントの認証、顧客監査の受審履歴、不良率と是正の記録。 |
| 調達 | 主要部材の調達先と在庫方針、供給が逼迫した際の実績。 |
| 知的財産・情報 | 特許・ノウハウの管理、図面やデータの持ち出し防止、情報セキュリティの体制。 |
この業界では、顧客との秘密保持義務の関係で、譲渡の検討そのものを伝えられる相手が限られることがあります。情報開示の順序と範囲は、仲介会社と設計したうえで進める必要があります(「競業避止義務と秘密保持」)。
当社プラチナパートナーズは、電子部品・電子機器関連企業の事業承継をご支援しています。相談料・着手金・月額報酬は0円です。守秘義務を徹底のうえ、現状の整理からお手伝いいたします。
本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。統計は調査時点・集計範囲により数値の定義が異なるため、個別の判断にあたっては原典および専門家へのご確認をお願いいたします。