住宅にかかわる事業は、いま二つの流れが同時に進んでいます。ひとつは新築の縮小、もうひとつは既存住宅の改修と性能向上です。加えて2025年4月からは、新築建築物に対する省エネ基準への適合が原則として義務づけられました。本稿では、公表されている統計と制度の動きから、住宅・リフォーム業界の現在地を整理します。
新設住宅着工の現在地|3年連続の減少
国土交通省「建築着工統計調査報告」(令和7年計)によれば、2025年の新設住宅着工戸数は740,667戸で、前年比6.5%減、3年連続の減少となりました。新設住宅着工床面積も56,885千平方メートル、前年比6.6%減で、4年連続の減少です。
利用関係別に見ると、内訳は次のとおりです。
| 区分 | 2025年の戸数 | 前年比 |
|---|---|---|
| 持家 | 201,285戸 | 7.7%減(4年連続の減少) |
| 貸家 | 324,991戸 | 5.0%減(3年連続の減少) |
| 分譲住宅 | 208,169戸 | 7.6%減(3年連続の減少) |
| うちマンション | 89,888戸 | 12.2%減(3年連続の減少) |
| うち一戸建住宅 | 115,935戸 | 4.3%減(3年連続の減少) |
持家・貸家・分譲のすべてが減少しており、地域別でも首都圏5.9%減、中部圏7.1%減、近畿圏1.6%減、その他地域9.2%減と、全国的な傾向になっています。とくに地方圏の落ち込みが大きい点は、地域の工務店にとって直接的な影響があります。
改修市場の規模|リフォーム・リニューアル受注高
一方で、既存建物の改修は別の動きをしています。国土交通省「建築物リフォーム・リニューアル調査報告」(令和6年度計)によれば、元請として受注したリフォーム・リニューアル工事の受注高は合計13兆8,303億円で、前年度比4.2%増でした。ただし内訳を見ると、住宅は4兆1,318億円で3.3%減、非住宅建築物が9兆6,984億円で7.7%増となっており、伸びているのは非住宅の側です。
住宅の内訳(令和6年度計)は、改装・改修工事3兆2,517億円(1.9%減)、維持・修理工事6,803億円(8.8%減)、増築工事554億円(7.9%増)、一部改築工事1,444億円(10.1%減)でした。住宅リフォームは、いまのところ大きく伸びている市場ではない、というのが統計上の姿です。
工事の中身も同調査から読み取れます。令和6年度第4四半期の工事目的別受注件数(複数回答)では、住宅は「劣化や壊れた部位の更新・修繕」が1,284,008件で最も多く、「省エネルギー対策」が72,290件でした。工事部位別では「給水給湯排水衛生器具設備」435,915件、「内装」288,508件の順です。発注者別では住宅の「個人」が5,399億円、「管理組合」が2,137億円(10.7%増)となっており、マンション管理組合からの発注が伸びている点も特徴です。
制度の動き|2025年4月からの省エネ基準適合義務化
制度面での最大の変化は、「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」(令和4年法律第69号)に基づき、2025年4月から原則としてすべての新築建築物に省エネ基準への適合が義務づけられたことです。同時に、建築基準法の審査省略制度(いわゆる4号特例)の対象範囲も見直され、木造・非木造を問わず2階建て以上または延べ面積200平方メートル超の建築物が審査省略の対象から外れました。
実務への影響は、設計・申請の工数が増えることに加え、設計図書の整備水準そのものが上がることです。断熱・気密の計算、設備仕様の選定、申請書類の作成といった業務を社内で完結できる会社と、外注に依存する会社とで、原価構造に差が出ます。小規模な工務店ほど、この体制整備が経営課題として重くのしかかっている、という声を伺います。
適用対象・経過措置は建物の用途、規模、着工時期によって異なります。個別の判断にあたっては、所管行政庁および専門家にご確認ください。
住宅ストックの姿|空き家900万戸と世帯数のピーク
需要の土台となる住宅ストックと世帯の姿も確認しておきます。総務省「住宅・土地統計調査」(2023年)によれば、2023年10月1日現在の総住宅数は6,504万7千戸(2018年比4.2%増)、総世帯数は5,621万5千世帯(同4.1%増)で、1世帯当たりの住宅数は1.16戸です。空き家は900万2千戸と過去最多、空き家率は13.8%で過去最高となりました。このうち「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」は385万6千戸(総住宅数の5.9%)です。
将来の世帯数については、国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)令和6(2024)年推計」が、世帯総数は2020年の5,570万世帯から増加して2030年の5,773万世帯でピークを迎え、その後減少に転じて2050年には5,261万世帯になると推計しています。平均世帯人員は2020年の2.21人から2033年に初めて2人を割り込み、2050年には1.92人になるとされています。
新築の総量が今後大きく戻ることを前提にした事業計画は立てにくい一方、既存住宅の維持・改修・解体という需要は残り続ける、という構図です。
事業承継の観点で何が論点になるか
工務店やリフォーム会社の承継では、次の点が論点になりやすいと考えられます。
第一に、受注が経営者様個人の関係に紐づいているかどうかです。地域の工務店では、受注の多くが過去の施主やその紹介から生まれています。この関係が会社に帰属しているのか、経営者様個人に帰属しているのかで、承継後の売上の見え方が変わります。顧客台帳、点検履歴、アフター対応の記録が整っていることは、そのまま「関係が会社にある」ことの証拠になります。
第二に、瑕疵・不具合に関する将来負担です。住宅は引き渡し後も長く責任が続きます。住宅瑕疵担保責任保険の加入状況、過去の不具合対応の履歴、係争の有無は必ず確認される事項です。
第三に、後継者です。帝国データバンクの2025年調査では国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。新築が縮小し、省エネ基準への対応で求められる技術水準が上がっているなかで、次の世代に引き継ぐ判断を先送りするほど、選択肢は狭まりやすくなります。
M&Aで引き継ぐときに整理しておきたいこと
一般に、次のような情報が整理されていると、話が進めやすくなります。
- 建設業許可・宅地建物取引業免許・建築士事務所登録などの有無と、要件を満たしている人物
- 売上の内訳(新築請負/リフォーム/不動産仲介/メンテナンス)と、それぞれの粗利率
- 受注経路の内訳(既存客・紹介・広告・見込み客リストの規模)
- 着工前の受注残と、契約から引き渡しまでの標準的な期間
- 省エネ計算・申請業務を内製しているか外注しているか
- 住宅瑕疵担保責任保険の加入状況、アフター点検の実施体制と履歴
- 協力業者(大工・設備・電気など)の一覧と、承継後も継続する見込み
とくに協力業者との関係は、決算書に表れない資産です。大工や職人を確保できていること自体が、いまの環境では希少性を持ちます。会社の状態を数字で把握したい段階では、企業価値算定シミュレーターもご利用ください。
当社は成功報酬型のもと、工務店・リフォーム会社を含む中小企業の事業承継・会社売却をご支援しています。守秘義務を徹底のうえ、初期の整理から対応いたします。
建材・設備の調達側の動きは「住宅設備・建材流通業界の動向|価格転嫁と物流の制約」でも整理しています。費用の考え方は料金体系のページに公開しています。
本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。