住宅設備や建材を扱う流通業は、川上のメーカーと川下の工務店・工事店をつなぐ位置にあります。自らは施工しないぶん、需要の変化と価格の変動、そして物流コストの三つを、そのまま損益で受け止める構造になっています。本稿では、公表統計と制度の動きから、この業界がいま置かれている状況を整理します。

需要の現在地|新築は縮小、改修は横ばい

まず川下の需要です。国土交通省「建築着工統計調査報告」(令和7年計)によれば、2025年の新設住宅着工戸数は740,667戸で、前年比6.5%減、3年連続の減少となりました。新設住宅着工床面積は56,885千平方メートルで6.6%減、こちらは4年連続の減少です。持家201,285戸(7.7%減)、貸家324,991戸(5.0%減)、分譲住宅208,169戸(7.6%減、うちマンション89,888戸で12.2%減)と、すべての区分が減少しています。

床面積の減少率(6.6%減)が戸数の減少率(6.5%減)とほぼ同じであることは、1戸あたりの規模が大きくは変わっていないことを示します。つまり、建材の必要量は着工戸数にほぼ比例して減ったということです。

一方、改修側はどうか。同省「建築物リフォーム・リニューアル調査報告」(令和6年度計)によれば、受注高の合計は13兆8,303億円で前年度比4.2%増でしたが、住宅は4兆1,318億円で3.3%減、伸びているのは非住宅建築物の9兆6,984億円(7.7%増)です。住宅向けの建材・設備を主力にしている流通業者にとって、需要は新築・改修の両面で緩やかに縮んでいる、というのが統計上の姿になります。

商品構成が変わる|省エネ規制が需要を動かす

量が減る一方で、中身は動いています。「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」(令和4年法律第69号)により、2025年4月から原則としてすべての新築建築物に省エネ基準への適合が義務づけられました。同時に、建築基準法の審査省略制度(いわゆる4号特例)の対象範囲も見直されています。

この制度変更は、断熱材、開口部(サッシ・ガラス)、給湯設備、換気設備といった商品の仕様を、下から底上げする方向に働きます。同じ1棟でも、より高性能な商品が選ばれるようになるということです。単価が上がる分、着工戸数の減少をある程度は吸収します。

改修工事の中身も、統計から読み取れます。国土交通省の同調査(令和6年度第4四半期)の工事部位別受注件数(複数回答)では、住宅で「給水給湯排水衛生器具設備」が435,915件と最多、次いで「内装」288,508件でした。工事目的別では住宅の「劣化や壊れた部位の更新・修繕」が1,284,008件で最も多く、「省エネルギー対策」が72,290件です。設備の更新が改修需要の中心にあることが分かります。

価格転嫁|制度が後押しする方向にはある

流通業にとって最大の論点は、仕入価格の変動を売価に反映できるかどうかです。この点については、制度の側からの後押しが生まれています。

2024年6月14日に公布された「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律」(令和6年法律第49号)では、国土交通省の説明によれば、資材価格が高騰した場合の「変更方法」を請負契約の法定記載事項とし、価格上昇のおそれがある情報について事前の通知を義務づける措置が盛り込まれました。これは工事請負契約に関するルールですが、その原資となる資材の仕入れ・販売にも間接的に影響します。

また、中央建設業審議会による「労務費に関する基準」が令和7年12月2日に勧告され、令和7年12月12日に施行されています(一般財団法人建設物価調査会の解説による)。労務費の水準が下支えされることで、工事全体の請負金額に対する見方も変わりつつあります。

ただし、制度が後押ししていることと、実際に転嫁できることは別です。得意先ごとの価格改定の履歴、値決めの方法(定価掛率か、都度見積か)、値引きの実態を把握しているかどうかで、会社の収益力に差が出ます。

物流の制約|届けるコストが商流を変える

もう一つの大きな変化は物流です。2024年4月からトラック運転者の時間外労働に上限(年960時間)が適用され、いわゆる「物流の2024年問題」が現実の制約になりました。さらに、2025年4月には改正物流効率化法が施行され、2026年4月からは一定規模以上の荷主等に対する物流統括管理者(CLO)の選任が義務づけられる予定です。

建材・住宅設備は、かさばる、重い、現場ごとに納品先が異なる、時間指定が多い、という物流泣かせの性質を持ちます。小口・多頻度の配送が原価を押し上げやすく、その負担を誰がどこまで負うのかが、あらためて問い直されています。

実務としては、配送の集約、納品時間帯の見直し、置き配・仮置きの活用、拠点配置の再設計といった対応が進んでいます。逆に言えば、自社配送網や倉庫拠点を持っていることが、これまで以上に価値として認識される局面でもあります。

事業承継の観点で何が論点になるか

建材・住宅設備の流通業では、次の点が承継の論点になりやすいと考えられます。

第一に、商流が個人に紐づいているかどうかです。長年の付き合いで成り立っている取引は、経営者様が退かれた途端に見直されることがあります。得意先ごとの取引年数、担当者、直近の取引推移が整理されていることは、関係が会社に帰属していることの裏づけになります。

第二に、在庫と与信です。在庫は評価の対象であると同時に、滞留すれば負担になります。長期滞留品、型落ち品、返品不能品の把握と、売掛金の年齢表(エイジング)の整備は、必ず求められる資料です。

第三に、仕入先との関係です。メーカーとの特約店契約や代理店契約には、支配株主の変更を通知事項や解除事由とする条項が置かれていることがあります。この条項の有無は、承継スキームの設計に直接影響します。

そして後継者です。帝国データバンクの2025年調査では国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。流通業は在庫と与信を抱える分、資金繰りの負担が大きく、個人保証の問題も絡みます。承継の道筋を早く立てておく実益が大きい業種です。

M&Aで引き継ぐときに整理しておきたいこと

一般に、次のような情報が確認されます。

  • 売上・粗利の得意先別内訳(上位20社の構成比、取引年数、直近3期の推移)
  • 商品カテゴリ別の売上・粗利率(建材/住宅設備/工具/その他)
  • 在庫の明細と回転期間、長期滞留在庫の金額と処分方針
  • 売掛金のエイジング、与信管理のルール、貸倒れの履歴
  • 仕入先との契約書(特約店契約・代理店契約)と、支配株主の変更に関する条項
  • 物流体制(自社便/委託便の比率、配送エリア、倉庫の所在と賃貸借条件)
  • 価格改定の履歴(いつ、どの商品を、何%改定したか)
  • 基幹システム・受発注システムの状況と、EDIの対応範囲

在庫の評価については「在庫の評価|M&Aで棚卸資産がどう見られるか」でも整理しています。数字が整っているほど、交渉の場で説明できることが増えます。

当社は成功報酬型のもと、建材・住宅設備の流通業を含む中小企業の事業承継・会社売却をご支援しています。守秘義務を徹底のうえ、初期の整理から対応いたします。

需要側の動きは「住宅・リフォーム業界の動向|新設住宅着工の変化と省エネ基準」でも整理しています。進め方の全体像はM&Aの流れをご覧ください。

本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。

よくあるご質問

A.統計上はほぼ比例しています。国土交通省「建築着工統計調査報告」(令和7年計)によれば、2025年の新設住宅着工戸数は740,667戸で前年比6.5%減、新設住宅着工床面積は56,885千平方メートルで6.6%減でした。床面積の減少率が戸数の減少率とほぼ同じであることは、1戸あたりの規模が大きくは変わっていないことを示し、建材の必要量は着工戸数にほぼ比例して減ったと読めます。ただし、省エネ基準の適合義務化により商品の仕様は底上げされる方向にあり、単価の上昇が数量の減少をある程度は吸収します。
A.評価されやすくなっている局面です。2024年4月からトラック運転者の時間外労働に上限(年960時間)が適用され、2025年4月には改正物流効率化法が施行、2026年4月からは一定規模以上の荷主等に対する物流統括管理者(CLO)の選任が義務づけられる予定です。建材・住宅設備は、かさばる、重い、現場ごとに納品先が異なる、時間指定が多いという性質を持ち、小口・多頻度の配送が原価を押し上げます。自社便と委託便の比率、配送エリア、倉庫の所在と賃貸借条件を整理して示してください。
A.確認が必要です。メーカーとの特約店契約や代理店契約には、支配株主の変更を通知事項や解除事由とする条項が置かれていることがあります。この条項の有無は承継スキームの設計に直接影響しますので、検討の初期に契約書を確認してください。あわせて、得意先ごとの取引年数、担当者、直近の取引推移を整理しておくと、商流が会社に帰属していることの裏づけになります。長年の付き合いで成り立っている取引は、経営者様が退かれた途端に見直されることがあるためです。
A.いずれも必ず求められる資料です。在庫は評価の対象であると同時に、滞留すれば負担になりますので、長期滞留品・型落ち品・返品不能品の把握と、在庫の明細・回転期間・処分方針を整理してください。売掛金については、年齢表(エイジング)の整備、与信管理のルール、貸倒れの履歴が確認されます。流通業は在庫と与信を抱えるぶん資金繰りの負担が大きく、個人保証の問題も絡みますので、承継の道筋を早く立てておく実益が大きい業種です。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら