バーやスナックは、店の価値がほぼ「人」に集まる業態です。しかも深夜に酒類を提供するため、届出や許可の確認が欠かせません。本稿では、届出の種別、常連という資産の引き継ぎ、小規模ゆえの実務という三つの軸で整理します。

承継の相談が出てくる背景

この業種の相談は、体力と後継の不在から出てきます。

  • 深夜の勤務を続けられない — 年齢や体調で、同じ時間帯の営業が難しくなった
  • 店を畳むのが惜しい — 常連がいて、場所も内装もあるので、誰かに続けてほしい
  • 家賃と内装の投資が残っている — 退店すると原状回復の費用だけがかかる
  • 後継者がいない — 帝国データバンクの2025年調査では、日本企業の後継者不在率は50.1%です

レコフデータによれば2025年のM&A件数は5,000件超で2年連続の過去最多です。第三者への承継は、以前より一般的な選択肢になっています。

届出と許可|接待があるかどうかで変わる

夜に酒類を提供する店は、営業の形で手続きが分かれます。

  • 深夜酒類提供飲食店営業の届出 — 深夜(午前0時以降)に酒類を提供する場合の届出です。接待を伴わない形が前提です
  • 風俗営業(接待飲食等営業)の許可 — 客に接待をする形の場合は、風営法の許可の対象です。許可があると、深夜の営業時間に制限がかかります

実務でよくあるのは、届出だけで営業しているが、実態は接待に近いという状態です。この場合、承継の検討の段階で実態と手続きの不一致が明らかになります。

届出・許可はいずれも営業所ごと・事業者ごとです。個人事業として営業している場合、譲渡では買い手が自ら届出・許可を取り直すことになります。所轄の警察署と専門家にご確認ください。

※ 税務・法務の取り扱いは個別の事情で結論が変わります。実行の前に、顧問税理士・弁護士にご確認ください。

常連という資産は、引き継げるのか

この業種で最も難しいのがここです。

常連は「店」ではなく「ママ・マスター」に付いていることが多く、人が替われば離れます。そのため承継では、一定期間、前の経営者が店に立つ形をとることが多いです。週に何日、どの時間帯に入るかまで決めます。

一方で、立地と内装と届出が揃っている物件そのものに価値を見る買い手もいます。その場合は常連の引き継ぎを前提にせず、造作と権利の譲渡として設計します。どちらを望むかで、相手も価格も変わります。

賃貸借と造作|小規模店舗の実務

個人事業で営業している店では、契約の名義が論点になります。

  • 賃貸借の名義 — 個人名義の場合、譲渡には貸主の承諾が必要です
  • 保証金・敷金 — 誰に返還されるか、承継でどう精算するか
  • 造作の扱い — カウンター・音響・照明を買い手が引き継ぐ形(造作譲渡)にするか
  • 原状回復 — 退店時の負担がどこまでか。これを避けられることが、譲渡の実質的な利点になることもあります

個人事業の場合、売買の対象は「会社」ではなく造作・権利・在庫の集まりになります。何を引き渡すのかを一覧にすることが、交渉の出発点です。

従業員・ヘルプの扱い

スタッフがいる場合、雇用の形を確認します。

日払いや業務委託の形で働いてもらっているケースがありますが、実態が雇用に近い場合は、社会保険や割増賃金の論点が生じます。承継の検討で明らかになると、買い手は将来の負担として見ます。

スタッフが常連を持っている場合、その人が残るかどうかが売上の継続に直結します。誰がどの客を持っているかを把握しているかどうかで、説明の質が変わります。

条件の議論で見られるもの

規模が小さいため、会社の評価というより事業と権利の値決めになります。

  1. 月次の売上と客数 — 記録が残っているか
  2. 家賃と固定費 — 売上に対する比率
  3. 造作の状態 — そのまま営業を続けられるか
  4. 届出・許可の状況 — 実態と手続きが合っているか

当社の報酬は移動総資産レーマン方式(基準額=株式価値+負債総額)で、最低報酬は2,000万円(税別)です。基本合意の時点で成功報酬額の10%を中間金としてお支払いいただき、成功報酬から全額差し引きます。基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません。

承継の前に整えられること

準備として効果が大きいのは次の三つです。

第一に、売上の記録です。現金商売で記録が残っていないと、買い手は数字を信じられません。レジのデータ、日々の売上の記録、預金への入金。この三つが突き合わせられる形になっているかを確認します。

第二に、届出・許可と実態の照合です。接待の有無と、取得している手続きが合っているか。不一致があれば、承継の前に整えるか、買い手と手続きの方針を決めておきます。

第三に、引き渡すものの一覧です。造作、音響機器、ボトル在庫、賃貸借の権利。何を渡して何を持ち出すかを先に決めておくと、交渉が短く済みます。

進め方の順番

検討の初期は、社名を出さずに進めることができます。

  1. 引き渡すもの(造作・在庫・権利)を一覧にする
  2. 賃貸借の名義と、貸主の承諾の見込みを確認する
  3. 届出・許可の状況と、買い手側の手続きの段取りを確かめる
  4. 条件を書面にし、引き継ぎの期間を決めて引き渡す

この業種では、前の経営者がどれだけ店に立てるかが条件の中心になります。体調や家庭の事情で難しい場合は、造作と権利の譲渡として設計します。

よくあるご質問

A.会社でなくても、造作・在庫・賃貸借の権利を譲る形で引き継ぐことができます。ただし届出や許可は買い手が自ら取り直す必要があり、賃貸借の名義変更には貸主の承諾が必要です。手続きの段取りを先に確認します。
A.前の経営者が一定期間店に立ち、常連に新しい経営者を紹介する形をとることが多いです。期間は数か月から1年程度で設計することがあります。どれだけ立てるかを先に決めておくと、相手の探し方が変わります。
A.客への接待を伴う形は風営法の許可の対象で、接待を伴わず深夜に酒類を提供する形は届出の対象です。実態と手続きが合っていないと、承継の検討で論点になります。所轄の警察署にご確認ください。
A.引き渡す資産として一覧にするのが通例です。客のキープボトルは客の所有物にあたるため、引き継ぎの際に扱いを明確にしておく必要があります。誰のボトルがどれだけあるかを整理しておきます。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役副社長。中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら