居酒屋の承継で見られるのは、店舗ごとに採算が違うことと、夜に働く人を確保できているかです。全体の数字だけでは、どちらも見えません。

居酒屋を取り巻く承継の環境

宴会の需要が戻りきらない一方、少人数での利用や、早い時間帯の需要が増えています。営業時間を前倒しする店、昼も開ける店が出てきました。夜だけで成り立たせる前提が変わりつつあります

加えて、人件費と食材費の上昇、そして深夜帯に働く人の確保の難しさ。数店舗を営む会社が、単独での運営を見直して同業やチェーンへ託す例が続いています。

店舗ごとの採算を、必ず分けて示す

複数店舗を持つ会社で最も重要な準備が店舗別の損益です。売上、原価率、人件費、賃料、そして店舗ごとの営業利益。

買い手は必ず店舗別に見ます。稼いでいる店と足を引っ張っている店を分けて示せれば、不採算店の扱いも含めて建設的な議論ができます。分けられないと、最も悪い店を基準に全体を見積もられかねません。

賃貸借と造作の権利

飲食店は内装への投資が大きく、退店時の原状回復の負担が重い業態です。確認すべきは、契約の期間、更新条件、中途解約時の違約金、原状回復の範囲、そして支配権が変動した場合に賃貸人の承諾を要する定めの有無です。

居抜きで入っている店舗では、造作の所有が誰にあるかが論点になります。前の借主から譲り受けた造作なのか、自社で施工したものなのか。ここが曖昧なまま進むと、買収前の調査で止まる原因になります。

許可・届出と、スキームの違い

飲食店営業の許可に加え、深夜に酒類を提供する場合は深夜における酒類提供飲食店営業の届出が必要です。

  • 法人・株式譲渡:許可・届出・賃貸借・雇用が、同じ法人に帰属したまま維持されるのが原則
  • 個人・事業譲渡:譲受側で許可を取り直し、賃貸借も名義を変更する。営業できない期間が生じ得る

多店舗の会社では株式譲渡、個人店では事業譲渡になることが多く、必要な段取りが変わります。手続きは所管の保健所・警察署にご確認ください。

夜に働く人を確保できているか

この業種で買い手が最も気にするのがです。厨房を任せられる方、フロアを回せる方、そして深夜帯のシフト。

人が足りずに営業時間を短縮していたり、席数を絞っていたりすれば、その回復にかかるコストが価格に織り込まれます。正社員とアルバイトの構成、勤続年数、直近の離職率、シフトの充足状況を整理しておくことが準備になります。株式譲渡であれば雇用契約は原則として継続します。

仕入と、原価の管理

酒類の仕入先、生鮮の仕入先、そして業務用食材の卸。どこからどう仕入れているかが、原価率をほぼ決めています。買い手が大手であれば、自社の仕入条件に乗せ替えて採算を改善できる場合があります。

あわせて、原価率を店舗別・月別に出せるかが確認されます。仕入額の推移と、メニュー価格の改定の履歴。値上げの交渉ができている会社は、外部環境が変わっても利益を守れる会社として評価されます。

業態と商圏の見られ方

駅前の繁華街か、住宅地か、オフィス街か。商圏によって、客層も来店の時間帯も変わります。オフィス街の店は宴会需要の回復に左右され、住宅地の店は常連の比率が高い。

買い手が確認するのは、曜日別・時間帯別の客数と客単価、宴会予約の件数、そして客層の構成です。宴会に依存している店ほど、需要の変化の影響を受けます。一方、少人数の利用や早い時間帯の需要を取り込めている店は、その事実自体が変化への対応力として評価されます。

メニューと、味の再現性

看板料理をどこまで再現できるか。レシピが記録されているか、仕込みの手順が共有されているかは、承継後に同じ店であり続けられるかに直結します。

料理長が一人で担っている場合、その方が残るかどうかが最大の論点になります。レシピと仕込みの手順を書き出す作業は、売却を決める前から着手でき、それ自体が店の価値を高めます。

価値を下げてしまう要因

  • 店舗別の損益が出せない
  • 造作の所有関係が不明
  • 原状回復の範囲が契約で明確になっていない
  • 深夜帯のシフトが埋まらず、営業を絞っている
  • 原価率を店舗別・月別に出せない

売却を考え始めたら、先に整えておきたいこと

  • 店舗別の損益を作る:直近3期分
  • 賃貸借契約の条項を確認する:承諾・原状回復・残期間
  • 造作の所有関係を整理する
  • 原価率を店舗別・月別に出す
  • 人員構成とシフトの充足状況をまとめる

飲食業全般は「飲食店・飲食企業の売却」もあわせてご覧ください。

まとめ

居酒屋の承継では、店舗別の採算・賃貸借と造作・人・仕入が柱になります。需要の形が変わっている業種だからこそ、いまの実態を数字で示せるかが価格を分けます。

赤字の店があること自体は、買い手にとって織り込み済みです。示せないことのほうが不利に働きます。

本稿の内容は執筆時点(2026年9月)の一般的な整理です。許認可・税務・法務の取り扱いは個別の事情により異なりますので、具体的な検討にあたっては所管官庁および税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.できます。買い手は店舗別に採算を見たうえで、閉店・業態転換・仕入条件の見直しといった選択肢を検討します。問題になるのは、店舗別の損益が出せず、どの店がどういう状態か説明できない場合です。そのときは最も悪い店を基準に全体を見積もられかねません。直近3期分の店舗別損益を整理しておくことを強くおすすめします。
A.規模が小さいことだけを理由に難しくなるわけではありません。立地、客層、常連の比率、そして造作の状態によっては、出店を考えている方や多店舗化を進める事業者にとって意味のある案件になります。ただし個人事業の場合は事業譲渡の形になり、譲受側で許可を取り直し、賃貸借も名義を変更する必要があります。賃貸人の承諾が要るかを早い段階で確認してください。
A.買い手は、営業時間の回復に必要な採用コストと期間を織り込んで評価します。逆に言えば、採用力のある事業者にとっては、立地と造作と許可を得たうえで稼働を戻せるという意味で検討しやすい案件になります。現在のシフトの充足状況、過去の採用実績、短縮前後の売上の差を整理してお示しいただければ、実現可能性を具体的にお伝えできます。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら