買収の検討で価格や業績に目が向くのは当然ですが、その事業を続けるための許認可が引き継げるかは、価格以前の問題です。引き継げなければ事業そのものが止まります。本稿では、買い手の立場で許認可をどう確認するかを整理します。基本的な考え方は「M&Aと許認可」もあわせてご覧ください。

スキームで扱いがまったく違う

最初に押さえるべきは、株式譲渡と事業譲渡で扱いが根本的に異なることです。

株式譲渡では、許認可を受けている法人格そのものが存続します。株主が変わるだけですので、原則として許認可はそのまま継続します。ただし後述するとおり、役員変更に伴う届出や、要件を満たす人の確保という論点は残ります。

事業譲渡では、許認可は原則として引き継がれません。譲受側が自ら新規に取得し直すことになります。取得までに数か月かかる許認可も多く、その間は営業できません。事業譲渡を選ぶ場合、許認可の取得スケジュールがクロージング日を規定します。

この一点だけでも、スキームの選択に影響します。「株式譲渡と事業譲渡どちらで買うか」もご参照ください。

株式譲渡でも安心できない場合

株式譲渡なら大丈夫、と単純化するのは危険です。次のような論点があります。

  • 人的要件:許認可の要件として、特定の資格者や経験者の在籍が求められるもの。その人が譲渡を機に退職すれば、要件を満たさなくなります
  • 役員の欠格事由:新しく就任する役員が欠格事由に該当すると、許認可の維持に影響します
  • 変更届出:役員・株主の変更について、期限内の届出が義務づけられているもの
  • 実質的支配者の変更:金融関連など、支配権の異動自体に認可を要するもの

とくに人的要件は実務上の急所です。建設業の経営業務管理責任者や専任技術者、宅建業の宅地建物取引士、介護事業の管理者や有資格職員など、その人がいなくなると事業が続けられなくなる構造の許認可は少なくありません。

確認の手順|書面と現物の両方を見る

デューデリジェンスでは、次の順で確認します。

確認するもの見るポイント
許認可の一覧種類・番号・取得日・有効期限。更新時期が近いものはないか
許可証・登録証の現物記載事項と実態が一致しているか(所在地、代表者、業種区分)
要件を満たす人誰が要件を担っているか。その人の雇用継続の見込み
直近の届出・報告期限内に提出されているか。行政指導や処分の履歴はないか
許可行政庁への確認支配権の異動に関する取り扱い。必要なら事前相談

一覧をもらって終わりにしないでください。実態と記載が食い違っている例、更新を失念していた例、届出漏れが累積している例は、実際に見つかります。現物と、直近の提出書類の控えを確認してください。

見落とされやすい許認可

主たる事業の許認可は誰でも確認します。抜けやすいのは、付随的な業務に関するものです。

  • 産業廃棄物の収集運搬(自社で運んでいる場合)
  • 古物商(下取り・中古品の売買がある場合)
  • 酒類販売業(飲食に併設して販売している場合)
  • 労働者派遣・有料職業紹介(一部の人材を融通している場合)
  • 電気工事業・消防設備士など、工事に付随する登録
  • 食品衛生法上の営業許可(施設ごとに必要なもの)

これらは売上規模が小さく、決算書からは見えません。現場でどんな業務を行っているかを聞き取って、そこから逆算して確認する必要があります。無許可で行われていた場合、買収後に発覚すれば買い手が責任を問われます。

もうひとつ、施設や車両に紐づくものも見落とされます。営業所ごとの登録、車両ごとの認可、機械ごとの検査記録。本社で一括管理されておらず、現場に紙で置かれたままになっていることがあります。拠点が複数ある会社では、拠点ごとに確認する手間を惜しまないでください。

契約でどう手当てするか

調査で把握したうえで、最終契約に反映させます。典型的には次の形です。

  • 表明保証:必要な許認可をすべて有効に保有し、法令を遵守していること
  • クロージング条件:必要な届出・認可が完了していること
  • 誓約事項:要件を満たす人材の一定期間の在籍、届出の実行
  • 補償:許認可に関する違反が判明した場合の取り扱い

ただし契約条項は、事後に金銭で解決するための備えにすぎません。許認可が失効して事業が止まれば、補償を受けても事業価値は戻りません。条項で守るより、クロージング前に実態を確かめるほうが、買い手にとってはるかに有利です。

あわせて、クロージング後の届出を誰がいつ行うかも決めておきます。役員変更の届出には期限があり、遅れると指導の対象になり得ます。売り手側の担当者が退任していると、必要な書類の所在すら分からなくなることがありますので、引き継ぎ計画に届出のスケジュールを組み込んでおくのが確実です。

まとめ|価格の前に、続けられるかを確かめる

要点を整理します。

  • 株式譲渡は原則継続、事業譲渡は原則取り直し。スキーム選択に直結する
  • 株式譲渡でも、人的要件・役員の欠格事由・変更届出は残る
  • 一覧だけでなく現物と直近の届出控えを見る
  • 付随業務の許認可(産廃・古物・酒類など)が抜けやすい
  • 契約条項は事後の備え。事前の確認に勝るものはない

許認可の確認は、業種によって勘所が大きく異なります。当社は業種ごとの論点を整理してご支援しています。買収のご検討は「買収をお考えの方へ」をご覧ください。ご相談は無料です。

よくあるご質問

A.不要ではありません。法人格が続くため許認可自体は継続しますが、要件を満たす人材の退職、役員変更に伴う届出、支配権の異動に認可を要する業種など、確認すべき点は残ります。業種ごとに扱いが異なりますので、個別に確認してください。
A.クロージング前に、後任の確保または本人の残留について具体的な手当てが必要です。一定期間の在籍を最終契約の誓約事項とする、後任者を採用してから引き継ぐ、といった対応が考えられます。要件を欠くと許認可の維持に影響しますので、価格交渉より先に確かめてください。
A.まず事実関係と規模を確認し、行政への対応方針を専門家と検討します。契約上は、表明保証違反として価格調整や補償の対象とする、あるいは是正をクロージング条件とすることが考えられます。重大な場合は、取引自体を見直す判断もあり得ます。

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許認可・労務・契約など、価格以外の論点も含めて確認しながら進めます。ご相談は無料です。
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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら