「成功報酬型なので、成約しなければ費用はかかりません」——M&A仲介の説明でよく使われる言い方です。間違いではありませんが、この説明だけでは「成功」がいつ成立するのかが分かりません。最終契約に署名した日なのか、株式と代金をやり取りした日なのか、対価が実際に口座に入った日なのか。契約書のどこかに必ず定義が書かれており、そこが売り手の資金繰りを左右します。本稿では、その一文の読み方を整理します。

「成功報酬型」という言葉だけでは、支払い時期は決まらない

成功報酬型とは、案件が成立したときに報酬の大部分が発生する仕組みのことです。相談の段階や交渉の途中では大きな費用が出ないため、中小企業のM&Aでは広く使われています。

ただし、ここでいう「成立」が何を指すかは、料金表には書かれていません。書いてあるのは料率と最低額で、発生条件は契約書の条文の中にあります。「本契約に基づく報酬は、譲渡契約の締結をもって発生する」なのか、「クロージングの完了をもって発生する」なのか。文言はわずかな差ですが、意味は大きく違います。

なぜ差が生まれるかというと、M&Aでは契約に署名する日と、株式と代金をやり取りする日が同じとは限らないからです。許認可の届出、金融機関の借り換え、取引先への説明などの準備があるため、署名から決済まで数週間から数か月あくことがあります(この点は「サイニングとクロージングを分ける理由」で詳しく扱っています)。この空白期間に手数料の支払期日が来る契約になっていると、入金前に手数料を工面することになりかねません。

確認すべきは料率ではなく、報酬発生条項と支払期日条項の二つです。

契約書でよく使われる三つの定義

実務で見かける定義は、おおむね次の三つに整理できます。どれが正しいということではなく、売り手にとっての意味が違うという話です。

定義報酬が発生する時点売り手にとっての意味
最終契約の締結株式譲渡契約などに署名した日決済が後日なら、対価が入る前に支払義務が生じ得る。支払期日の定め方で吸収できるかが決まる
クロージングの完了株式と代金を授受した日入金日と近く、資金繰りが合わせやすい。中小企業のM&Aで採られることが多い
対価の現実の受領対価が実際に入金された日分割払いや後払いがあるときに、売り手の負担が最も軽い

さらに、発生時点とは別に支払期日が定められています。「請求書の発行から◯営業日以内」「クロージング日当日」などです。つまり実際の負担は、発生時点+支払期日の組み合わせで決まります。発生時点が最終契約の締結であっても、支払期日がクロージング後に設定されていれば、資金繰り上の問題は起きません。

逆に言えば、「クロージング基準だから安心」と決めつけるのも早いということです。条文は二つセットで読んでください。

決済が一度で終わらないときに何が起きるか

対価が一度に全額入らない設計は、中小企業のM&Aでも珍しくありません。代表的なものを挙げます。

  • 分割払い——買い手の資金調達の都合で、対価を複数回に分けて支払う
  • 業績連動(アーンアウト)——譲渡後の業績に応じて追加の対価が発生する
  • 一部の留保——表明保証違反に備えて、対価の一部を一定期間預けておく
  • 役員退職金との組み合わせ——株式の対価と退職金の支給日が別になる

こうした設計のとき、報酬発生条項が「最終契約の締結」になっていると、まだ手元にない対価に対応する手数料を先に支払う形になり得ます。金額が大きいほど、この時間差は重くなります。

対処の方法はいくつかあります。支払期日を決済日または入金日に合わせる、対価の受領に連動して手数料も分割にする、確定している部分と未確定の部分を分けて計算する、といった整理です。いずれも契約前であれば話し合える論点ですが、署名した後では動かせません。対価の設計が見えた段階で、手数料の支払い方も一緒に確認しておくのが順序です。

成約に至らなかったときの線引き

成功報酬が発生しなかった場合でも、まったく費用が出ないとは限りません。整理しておきたい点が二つあります。

一つは中間金です。中間金は成功報酬とは発生時点が違い、基本合意の段階で発生します。当社の場合、中間金は成功報酬額の10%で、成功報酬から全額を差し引きますが、基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません。この点は契約前に必ずご確認いただいています。会社によって金額の決め方も返金の扱いも異なりますので、「中間金の有無」だけでなく「不成立時にどうなるか」まで読んでください。

もう一つはテール条項です。仲介契約が終了した後の一定期間内に、仲介を通じて知り合った相手と当事者間で直接成約した場合に、報酬が発生するという定めです。仲介側の労力が結果として使われることへの手当てですが、売り手の側から見ると、期間の長さと対象範囲が重要になります。「契約終了後◯年以内」「本契約に基づき当社が紹介した候補先」といった限定が付いているかを確認してください。対象が「当社が紹介した候補先」に限定されず、広く読めてしまう文言のときは、修正を求めるのが自然です。

破談したときに残る費用の全体像は「破談したときに残る費用」で整理しています。

契約前に確認しておく五つの文言

仲介契約書を受け取ったら、次の五点に線を引いて読んでください。いずれも一文で書かれており、探せば必ず見つかります。

  • 報酬の発生時点——最終契約の締結か、クロージングか、対価の受領か
  • 支払期日——発生からいつまでに支払うのか。入金日との前後関係はどうなるか
  • 対価が分割・後払いのときの扱い——一括で計算するのか、受領に合わせるのか
  • テール条項——期間と、対象となる相手方の範囲
  • 中間金——金額の決め方、成功報酬からの差引き、不成立時の返金の有無

読んで分からない箇所は、そのまま質問してください。質問に対して条文のどこを指して答えられるかどうかが、相手を見る材料にもなります。「実務上そうなっています」という説明だけで、条文の裏づけが出てこない場合は、書面での確認を求めてください。

当社は成功報酬型を採っており、成功報酬は移動総資産レーマン方式(基準額=株式価値+負債総額)で計算し、最低額を2,000万円(税別)としています。相談料・着手金・月額報酬はいただきません。発生時点と支払期日については、ご契約前に条文と、ご自身の案件に当てはめた想定スケジュールを合わせてご説明しています。支払い時期そのものの実務は「手数料はいつ払うのか」もあわせてご覧ください。

よくあるご質問

A.契約書の報酬発生条項の書き方によります。発生時点が「最終契約の締結」であれば、形式的には支払義務が生じ得ます。クロージングの完了を条件としていれば発生しません。中止の理由が誰にあるかで扱いを分けている契約もありますので、条文を確認し、不明確であれば契約前に明記を求めてください。なお中間金は基本合意の時点で発生するため、この場面とは別に整理して考える必要があります。
A.契約前であれば話し合える論点です。対価の受領に合わせて手数料を分割する、確定分と未確定分を分けて計算するなどの整理が考えられます。ただし仲介契約に署名した後では条件の変更は難しくなりますので、対価の設計が見えてきた段階で早めに相談してください。当社では、対価が分割になる見込みが立った時点で、支払い時期の想定を書面でご確認いただいています。
A.多くの仲介契約にはテール条項があり、契約終了後の一定期間内に、仲介を通じて知り合った相手と成約した場合には報酬が発生すると定められています。確認すべきは期間の長さと、対象となる相手方の範囲です。範囲が広く読める文言のときは、紹介を受けた候補先に限定するよう修正を求めるのが自然です。
A.同じではありません。着手金がなくても、月額報酬や中間金が設定されていることがあります。逆に着手金があっても成功報酬の料率が低く、総額では変わらない場合もあります。比べるときは項目の有無ではなく、成約した場合の総額と、成約しなかった場合に残る費用の二通りで並べてください。当社は相談料・着手金・月額報酬をいただかず、中間金(成功報酬額の10%)と成功報酬のみをいただく形です。

Free Consultation

「成功」の定義を、契約前に一緒に確認しませんか。

仲介契約書の報酬条項と、ご自身の案件に当てはめた支払い時期の見込みをご説明します。ご相談の段階で費用は発生しません。
フォームは24時間受け付けており、2営業日以内にご返信します。メール(info@platinumpartners.jp)でも承ります。

無料相談を申し込む

Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら