「うちはリピートのお客様が多いんです」——譲渡のご相談で、よくお聞きする言葉です。実際、繰り返し買ってもらえる売上は、一度きりの売上より評価されます。ただし、それが買い手に伝わるかどうかは、説明の仕方次第です。感覚としての「多い」ではなく、どの範囲を、どの期間で、どう数えたのかまで示せて初めて、将来の売上の確からしさを裏づける材料になります。本稿では、リピート率・継続率の考え方と、示し方の実務を整理します。

なぜ繰り返しの売上は評価されるのか

買い手が企業価値を判断するとき、見ているのは過去の売上そのものではなく、その売上が来期以降も立つかどうかです。新規獲得に頼る売上は、毎期ゼロから積み上げ直す必要があり、営業体制や社長個人の力に左右されます。一方、既存顧客が繰り返し購入する売上は、翌期の出発点が高い位置にあります。

この差は、収益の見積りに直結します。将来のキャッシュフローを基に価値を測る考え方では、見込みの確からしさが高いほど割引が小さくなります(DCF法とは)。実務では簡便な方法が使われることも多いのですが、いずれの方法でも「この利益が続くと見てよいか」という判断は避けて通れません。

加えて、継続的な取引は引き継ぎのしやすさにも関わります。社長が代わっても発注が続く関係なのか、社長との関係で続いている取引なのか。買い手はここを見ています。取引先との関係が個人に紐づいている場合の論点は「属人性が高い会社の評価」で扱っています。

リピート率には決まった定義がない

まず押さえておきたいのは、リピート率という言葉に業界横断の統一定義はないということです。同じ「リピート率70%」でも、次のように中身はまったく異なります。

  • 顧客数ベース:前期に取引のあった顧客のうち、当期も取引があった顧客の割合
  • 売上ベース:当期売上のうち、前期にも取引のあった顧客からの売上の割合
  • 件数ベース:全注文件数のうち、2回目以降の注文が占める割合
  • 期間の取り方:1年、2年、あるいは平均購買間隔に合わせた期間

買い手に示すときは、数字そのものより定義を先に書くことが重要です。定義が明示されていない数字は、確認のやり取りが増えるだけで、説明の材料になりません。逆に、定義が明確であれば、たとえ数字が高くなくても議論の土台になります。

複数の切り口で出せるのであれば、顧客数ベースと売上ベースの両方を示すのが実務的です。少数の大口が継続していて件数は入れ替わっている、という構造も、二つ並べれば一目で分かります。

どんな資料で示せばよいか

もっとも説得力があるのは、加工前の元データに近い形の資料です。具体的には、取引先別・月別の売上明細を3期分ほど用意し、そこから集計した表を添えます。買い手側は自分たちで再集計して確認できるため、数字の信頼性が上がります。

販売管理システムがない場合でも、請求書の控えや会計ソフトの補助元帳から取引先別の推移は作れます。手間はかかりますが、この作業自体が自社の顧客構造を把握し直す機会にもなります。

あわせて用意したいのが、離脱した顧客の情報です。取引が止まった先について、いつ・なぜ止まったのかを分かる範囲で整理しておきます。離脱の理由が価格なのか、品質なのか、先方の事業縮小なのかによって、評価への影響は変わります。良い数字だけを並べるより、離脱も含めて説明できる会社のほうが信頼されます。

顧客の集中度とあわせた見方については「顧客基盤の価値をどう説明するか」もご参照ください。

業種によって見るべき指標は違う

継続性の測り方は、事業の形によって変わります。保守契約やサブスクリプションのように契約が明示されている事業では、契約件数、契約残期間、解約率(チャーン)が中心的な指標になります。契約書という裏づけがあるため、説明はしやすい部類です。

一方、契約はないが慣行として発注が続いている事業——部品加工、建設の下請け、卸売などでは、契約ではなく実績の継続性で示すことになります。取引年数、年間の発注回数、直近3期の金額推移といった数字が材料です。取引基本契約を結んでいれば、それも継続性を支える要素になります。

消費者向けのサービスでは、会員数や来店頻度が使われますが、個人情報を含むため、開示の範囲と方法には注意が必要です。統計として集計した数値を示し、個別の顧客情報は最終段階まで開示しないのが通常の進め方です。情報の出し方については「秘密保持の重要性」をご確認ください。

数字を作りにいかない|説明できる状態を優先する

継続率の数字を良く見せようとして、期末に駆け込みで発注をお願いする、集計の期間を都合よく切る、離脱顧客を母数から外す——こうした操作は勧められません。元データを見れば分かることであり、発覚した時点で他の数字の信頼性まで疑われます。

実務でよくあるのは、意図せず定義がぶれているケースです。社内資料と買い手向け資料で集計方法が違う、年度によって対象範囲が変わっている、といった状態です。これも不信につながるため、いったん定義を決めたら全期間で統一します。

数字が期待したほど高くなかった場合も、隠す必要はありません。継続率が低い事業構造であれば、新規獲得の仕組みが強みになっているはずです。どちらの構造なのかを説明できることが、評価の出発点になります。

準備は早いほど選択肢が増える|まとめ

取引先別の売上推移を3期分整えるだけでも、リピートの実態は相当に見えるようになります。この作業は売却の意思が固まる前からでも進められますし、経営判断の材料としても役立ちます。

そのうえで、継続率が低い層が見つかれば、離脱の理由を確かめて手を打つ時間が生まれます。評価のためというより、事業として当然の改善ですが、結果として決算書に表れ、買い手にも伝わります。準備の時間軸については「企業価値を上げるために売却1年前からできること」も参考になります。

当社では、初回のご相談の段階で、どの資料をどの粒度で用意すべきかをお伝えしています。相談料・着手金・月額報酬は0円です。まだ売却を決めていない段階でも、自社の顧客構造の整理からお手伝いいたします。

よくあるご質問

A.業種や商材の購買サイクルによって水準がまったく異なるため、一律の目安はありません。買い手が見るのは水準そのものより、定義が明確であること、3期程度の推移が安定していること、変動があればその理由を説明できることです。
A.会計ソフトの補助元帳や請求書の控えから、取引先別・月別の売上は再構成できます。完全でなくても、主要な取引先について3期分の推移が示せれば十分に材料になります。まずは金額上位の先から着手されるとよいでしょう。
A.個社名を含むリストは、通常は秘密保持契約を締結し、検討が進んだ段階で開示します。初期の段階では、業種構成や金額の分布など、個別の顧客が特定できない形に集計した資料で説明するのが一般的です。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら