建設、農業関連、観光、教育、冷暖房設備、イベント関連など、季節によって売上が大きく変わる事業は数多くあります。こうした事業では、決算日という一点を切り取った貸借対照表も、決算期の区切り方も、実態の伝わり方に影響します。本稿では、季節変動のある事業がM&Aの場面でどう見られるのか、どのように説明を補えばよいのかを整理します。

季節性があること自体は、評価を下げない

はじめに申し上げておきたいのは、季節変動があること自体が評価上の弱点になるわけではないということです。買い手の多くは、業種ごとに繁閑があることを前提として理解しています。

むしろ、季節の波が毎年ほぼ同じ形で繰り返されているのであれば、それは事業の予測可能性が高いことを意味します。いつ資金が必要になり、いつ回収が進むのかが読めるのであれば、買い手は資金計画を立てやすくなります。

問題になるのは、波の形が年によって変わる場合や、波の理由が説明されないまま数字だけが動いている場合です。前者は事業の不安定さとして、後者は情報の不足として受け止められます。

したがって準備の方向は、季節性を隠すことではなく、波の形を示し、その理由を説明できるようにすることです。

決算期末が繁忙期か閑散期かで、見え方が変わる

貸借対照表は決算日という一点の姿を写します。その一点が繁忙期の直後か、閑散期の底かによって、同じ会社でもまったく違う印象になります。

繁忙期の直後に決算を迎える会社では、売掛金が膨らみ、在庫は減り、現預金はこれから増える局面にあります。逆に閑散期の底で決算を迎える会社では、売掛金が少なく、次の繁忙期に向けた在庫が積み上がり、現預金は薄くなっていることがあります。

買い手が決算書を最初に見た段階では、この違いが「運転資本が重い会社」「現預金が薄い会社」という印象につながることがあります。実態は毎年同じ循環を繰り返しているだけであっても、一点の情報からはそこまで読み取れません。

この誤解を解くのが、月次の資料です。運転資本の水準がどう評価されるかは「運転資本はなぜ価格に響くのか|「正常な水準」という考え方」で詳しく扱っています。

示すべきは「複数年の月次」

季節性のある事業で最も効果のある資料は、複数年にわたる月次の推移です。具体的には、次のような形で整理します。

  • 直近2〜3期分の、月次の売上高・売上総利益・営業利益
  • 同じ期間の、月末時点の売掛金・棚卸資産・買掛金・現預金の残高
  • 年度をまたいで同じ月同士を比べられる形(前年同月比)
  • 波の理由がわかる注記(繁忙期の時期、大型案件の有無、天候や制度改正の影響)

3期分を月次で並べると、波の形が毎年似ているかどうかが一目でわかります。似ていれば、それは事業の構造として説明がつきます。ずれていれば、その年に何があったのかを説明する材料が必要になります。

12か月の移動平均を添えると、季節の影響を均した水準の推移が見えます。売上が実質的に伸びているのか、横ばいなのか、落ちているのかが、季節の波に隠されずに伝わります。

月次資料の位置づけは「単月赤字と通期赤字は見られ方が違う|月次資料が求められる理由」もあわせてご覧ください。

本稿は一般的な考え方の説明です。会計・税務・法務上の取扱いは個別の事情によって判断が分かれるため、具体的な適用にあたっては公認会計士・税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。

資金の波を説明する

季節変動のある事業では、損益より先に資金の波が論点になります。繁忙期に向けて仕入や外注費が先に出ていき、回収は後から来るためです。

買い手が確認するのは、次のような点です。年間で資金が最も薄くなるのはいつか。その時期にどの程度の運転資金が必要か。その資金をどう調達しているか(季節資金の借入、当座貸越など)。金融機関との取引はどうなっているか。

これらに明快に答えられれば、買い手は買収後の資金計画を立てられます。答えられなければ、買い手は保守的に、つまり多めに資金を見積もることになり、その分は評価の議論に影響します。

準備としては、月末の預金残高の推移と、季節資金の借入・返済の時期を一覧にしておくだけでも十分に役立ちます。特別な資料を作る必要はありません。

決算期の変更と、譲渡の時期

ときどきご質問をいただくのが、「見え方が良くなるように決算期を変えたほうがよいか」という点です。

結論として、M&Aのために決算期を変更することはおすすめしていません。変更の事実そのものが買い手の目に留まり、理由を尋ねられます。また、変更の期は月数が変則になるため、かえって比較が難しくなります。

業務上の合理的な理由があって変更されるのであれば別ですが、見え方を整えるための変更は、得られるものより失うものが大きいと考えます。月次の資料を整えるほうが、はるかに確実です。

一方、譲渡の時期(クロージングの月)については、事業の都合を踏まえた検討に意味があります。繁忙期の真っ只中に経営体制が変わることは、現場にも取引先にも負担になります。引継ぎに時間をかけられる時期を選ぶという視点は、価格とは別に大切です。譲渡後の引継ぎについては「属人性が高い会社の評価|社長がいなくても回る仕組み」もご参照ください。

まとめ|波は隠さず、形で示す

季節変動のある事業でお伝えしたいことは、次の三点に集約されます。

  • 季節性それ自体は評価を下げない。毎年同じ形で繰り返されているなら、むしろ予測可能性の高さを示す
  • 決算書の一点だけでは波が伝わらないため、複数年の月次で形を示す
  • 損益だけでなく、資金が最も薄くなる時期と必要額を説明できるようにしておく

これらの資料は、M&Aのためだけのものではありません。自社の事業がどのような循環で回っているかを数字で捉え直す作業は、経営そのものに役立ちます。

当社にご相談いただく案件でも、まず月次の資料を拝見しながら、事業の循環を一緒に確認するところから始めています。まだ資料が整っていない段階でも構いません。何をどう整えればよいかからご説明します。

相談料・着手金・月額報酬は0円です。

よくあるご質問

A.業種ごとに繁閑があることは前提として理解されており、それ自体で敬遠されることは多くありません。むしろ、波の形が毎年安定していれば、資金計画が立てやすい事業として受け止められます。懸念されるのは、波の形が年によって大きく変わる場合や、変動の理由が説明されない場合です。複数年の月次推移を示し、波の理由を説明できるようにしておくことが有効です。
A.M&Aのための決算期変更はおすすめしていません。変更の事実は買い手の目に留まり、理由を尋ねられます。また、変更した期は月数が変則になるため、期ごとの比較がかえって難しくなります。見え方を整えたいのであれば、月次試算表を複数年分そろえ、季節の循環を示すほうが確実です。業務上の合理的な理由による変更はこの限りではありません。
A.在庫の計上を年1回しか行っていない場合など、月次の利益が実態とずれていることはよくあります。そのまま提出する場合は、どの部分が概算であるかをあらかじめ伝えておくことが大切です。可能であれば、月次で在庫や原価を計上する運用に切り替えると、説明の精度が上がります。切り替えの方法については顧問税理士にご相談ください。

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月次の資料から、事業の循環をご一緒に整理します。

相談料・着手金・月額報酬は0円です。基本合意時の中間金と成功報酬については料金体系をご覧ください。ご売却をお決めになる前の情報収集の段階でも構いません。
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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら