M&Aの交渉が始まると、決算書に加えて直近の月次試算表の提出を求められます。これは決算からの経過を確かめるための手続きですが、提出した月次で赤字の月があると、不安に思われる経営者様も少なくありません。実際には、単月の赤字と通期の赤字では、受け止められ方がまったく異なります。本稿では、その違いと、月次資料をどう整えておくべきかを整理します。

なぜ月次試算表を求められるのか

決算書は、早い会社でも決算日から2か月ほど、実務上は3か月近く経ってから確定します。そこからM&Aの検討が始まり、交渉が進むうちに、さらに数か月が過ぎていきます。

つまり買い手が決算書を見る時点で、その数字はすでに半年以上前の状態を示していることも珍しくありません。買い手が知りたいのは今の姿ですから、決算後の推移を確かめるために月次試算表が必要になります。

もう一つの理由は、決算書だけでは見えない事業の動きを確かめるためです。年間を通した合計では平準化されてしまう季節の波、特定の月に集中する費用、大型案件の出入りといった要素は、月次でなければ見えません。

したがって月次試算表の提出は、業績を疑われているから求められるのではなく、通常の手続きだとお考えください。

単月赤字が問題にならない場合

月次の損益は、さまざまな理由で凸凹します。単月の赤字が直ちに評価に響くわけではありません。

次のような場合は、説明があれば通常は論点になりません。

  • 季節性によるもの——閑散期は赤字、繁忙期に取り戻すという構造が毎年繰り返されている
  • 費用の計上時期によるもの——賞与、保険料、固定資産税、決算賞与などが特定の月に集中している
  • 売上の計上時期によるもの——工事や納品の完成時期によって、売上が特定の月に寄っている
  • 一時的な支出——修繕、採用、展示会出展などが特定の月に発生した

これらに共通するのは、年間で見れば説明がつくということです。買い手も、単月の数字だけで判断することはありません。12か月を通した水準と、その波の形を見ています。

したがって、赤字の月があること自体を気に病む必要はありません。大切なのは、その月に何があったのかを説明できることです。

通期の赤字が意味するもの

一方、通期で赤字となると、意味合いが変わります。年間を通して費用が収益を上回っているということは、その年の事業活動として利益を生めなかったことを示すからです。

買い手が確かめるのは、その赤字が一時的なものか、構造的なものかという点です。

一時的な要因としては、災害による損失、訴訟の和解、役員退職金の支給、大型の設備投資に伴う減価償却の増加、特定の大口案件の失注などが挙げられます。これらは切り分けて考えられます。非経常的な損益の扱いは「一度きりの損益はどう扱われるか|非経常損益の切り分け」をご覧ください。

構造的な要因としては、主要製品の需要そのものの減少、価格競争による粗利率の継続的な低下、固定費の水準が売上規模に合わなくなっている、といった状況です。この場合、買い手は「買収後にどう立て直すか」という計画まで含めて検討することになり、条件の議論は慎重になります。

業績が落ちている局面での説明については「業績が落ちている年の売却|一時的か構造的かをどう説明するか」で詳しく扱っています。

本稿は一般的な考え方の説明です。会計・税務・法務上の取扱いは個別の事情によって判断が分かれるため、具体的な適用にあたっては公認会計士・税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。

「直近の月次が悪い」ときの進め方

交渉の途中で直近の月次が悪化することがあります。これは避けられない事態であり、隠すべきものでもありません。

このとき大切なのは、次の三点です。

第一に、早めに共有すること。買い手は月次の提出を継続的に求めます。悪い数字を後から出すと、意図的に遅らせたという印象を与えます。分かった時点で伝えるほうが、結果として信頼につながります。

第二に、理由と見通しをあわせて示すこと。「なぜそうなったのか」「今後どうなると考えているか」「どのような対応をとっているか」を説明します。数字だけを出すと、買い手は最も悪い可能性を想定します。

第三に、条件への影響をあらかじめ想定しておくこと。業績の変動は、価格だけでなく、支払いの方法や契約条項の形でも調整されることがあります。どこまでなら受け入れられるのかを、事前に整理しておくと落ち着いて対応できます。

交渉の進め方については「M&Aの価格交渉|買い手との条件すり合わせと譲れない線の決め方」をご参照ください。

月次の精度を上げておく

中小企業の月次試算表は、年次決算ほどの精度で作られていないことがあります。よくあるのは次のような状況です。

  • 棚卸を年1回しか行わず、月次では在庫が動いていない
  • 減価償却を決算時に一括計上しており、月次には反映されていない
  • 賞与や保険料などを支払月に全額計上している
  • 工事や長期案件の売上を、完成時に一括で計上している

これらがあると、月次の利益は実態と大きくずれます。買い手が月次を見て「特定の月だけ利益が跳ねている」と受け取ることにもなりかねません。

可能であれば、在庫の概算計上、減価償却の月割計上、賞与引当の月次按分といった運用に切り替えておくと、月次の説明力が上がります。すぐに切り替えられない場合でも、どの部分が概算であるかを明示して提出することが重要です。

運用の変更については顧問税理士にご相談ください。多くの場合、既存の会計ソフトの設定で対応できます。

まとめ|月次は「今の姿」を伝える資料

月次試算表は、決算書では伝わらない今の姿を示す資料です。単月の凸凹は事業として自然なものであり、それ自体が評価を左右することはありません。

見られているのは、次の二点です。

  • 年間を通した水準が、決算書で示された実績と整合しているか
  • 数字の動きに、説明のつく理由があるか

この二点に応えられる状態にしておけば、月次の提出は交渉を妨げるものではなく、むしろ信頼を積み上げる材料になります。毎月の数字を把握している経営者様であるということ自体が、買い手にとっては安心材料です。

当社では、月次資料の整え方からご相談をお受けしています。まだ形が整っていない段階でも構いません。相談料・着手金・月額報酬は0円です。

よくあるご質問

A.単月の赤字だけで評価が決まることはありません。季節性、賞与や保険料などの費用の集中、売上の計上時期といった理由で、月次の損益が凸凹するのは自然なことです。買い手は12か月を通した水準と波の形を見ています。大切なのは、その月に何があったのかを説明できることです。年間で見て説明がつくのであれば、通常は論点になりません。
A.分かった時点で早めに共有されることをおすすめします。買い手は月次の提出を継続的に求めるため、後から出すと意図的に遅らせたという印象を与えかねません。伝える際は、数字だけでなく、悪化の理由、今後の見通し、とっている対応をあわせて説明してください。情報が不足すると、買い手は最も悪い可能性を前提に判断することになります。
A.可能であれば整えておくことをおすすめします。在庫の月次概算計上、減価償却の月割、賞与の按分などを行うと、月次の利益が実態に近づき、説明がしやすくなります。すぐに変更できない場合でも、どの部分が概算であるかを明示して提出することが大切です。運用の変更は既存の会計ソフトの設定で対応できることが多いため、顧問税理士にご相談ください。

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相談料・着手金・月額報酬は0円です。基本合意時の中間金と成功報酬については料金体系をご覧ください。ご売却をお決めになる前の情報収集の段階でも構いません。
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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら