建設業、運送業、産業廃棄物処理、警備業、人材派遣、医療・介護、飲食、宿泊——事業を行うために行政の許可や登録を要する業種は数多くあります。こうした事業では、許認可そのものが買い手にとっての大きな価値になります。「うちは小さな会社だから」とお考えの経営者様でも、許認可を保有しているというだけで買い手候補が集まることは珍しくありません。本稿では、許認可がM&Aの評価でどのように扱われるのかを整理します。なお、許認可の引き継ぎ手続そのものについては「M&Aと許認可」で詳しく解説しています。

なぜ許認可が「買う理由」になるのか

買い手が会社を買う判断の根底には、「自分で一から立ち上げた場合と比べて、買うほうが早く確実か」という比較があります。許認可を要する事業では、この比較が特にはっきりします。

新規に許認可を取得しようとすれば、要件を満たす人材の確保、施設や設備の整備、申請書類の作成、審査期間の待機が必要です。業種によっては、実務経験を積んだ資格者を一定数そろえなければならず、その採用自体が容易ではありません。地域によっては、施設の設置に地元の理解を得る過程が必要になることもあります。

つまり許認可には、お金だけでは短縮できない時間が埋め込まれています。買い手がその時間を買うために支払う対価が、許認可の価値です。これは営業権(のれん)の主要な源泉のひとつでもあります(営業権(のれん)はどう決まるか)。

許認可の価値を左右する4つの要素

ただし、許認可があれば一律に高く評価されるわけではありません。価値の大きさは、おおむね次の要素で変わります。

要素価値が大きくなる場合
取得の難易度資格者の確保や実務経験の要件が厳しく、新規取得に年単位を要する
希少性地域内の許可件数が限られる、新規の受付が事実上難しい
事業への直結度その許認可がなければ受注できない、入札に参加できない
引き継ぎやすさ資格者が複数在籍し、経営者の退任後も要件を満たし続けられる

特に重要なのが最後の引き継ぎやすさです。許認可の要件を満たしているのが経営者様ご本人だけ、という状態は要注意です。経営者が退任すれば要件を欠くことになり、許認可を維持できなくなるおそれがあります。この場合、買い手は「許認可を得られる」とは考えず、むしろリスクとして扱います。属人性の論点そのものです(属人性が高い会社の評価)。

また、許認可に付随する実績も価値を左右します。公共工事の入札における評価、行政や元請からの信用、事故や行政処分のない履歴。これらは許可証には書かれませんが、実務では許認可と一体の価値として扱われます。

引き継ぎ方式によって、価値の表れ方が変わる

許認可の価値を考えるうえで欠かせないのが、譲渡の方式によって引き継ぎの扱いが変わるという点です。

株式譲渡の場合

会社そのものは存続し、株主が変わるだけですので、会社が保有する許認可は原則としてそのまま維持されます。これが、許認可事業のM&Aで株式譲渡が選ばれやすい理由です。ただし、役員の変更に伴う届出が必要になる、あるいは要件を満たす管理者の変更を届け出る必要があるなど、手続は生じます。業種によっては、支配権の変更について事前の届出や承認を要する場合もあります。

事業譲渡の場合

許認可は原則として引き継がれず、譲受側が新たに取得する必要があります。取得までの空白期間が生じると事業が止まってしまうため、許認可が事業の前提となっている場合、事業譲渡は選びにくくなります。近年は一部の業種で承継の手続が整備されていますが、業種ごとに扱いが異なりますので、個別の確認が不可欠です。

方式の選択は税務や債務の引き継ぎにも関わる大きな判断です(株式譲渡と事業譲渡の違い)。許認可事業では、この判断が価格そのものを左右することもあります。

※本稿は一般的な考え方の整理であり、個別の税務・法務の取り扱いは前提となる事実関係により異なります。実行にあたっては税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。

許認可が「リスク」に転じる場合

許認可は価値であると同時に、管理を誤れば重大なリスクにもなります。買い手は次のような点を確認します。

  • 更新の期限と手続——有効期間の管理ができているか。失効の危険がないか
  • 要件の充足状況——資格者の在籍、施設・設備の基準、財産的基礎の要件を現に満たしているか
  • 行政処分・指導の履歴——過去の処分、改善指導、監査での指摘の有無
  • 法令遵守の実態——許可の範囲を超えた業務を行っていないか、記録の保存や報告が適切か
  • 制度改正への対応——近年の法改正で新たに求められた体制を整えているか

これらに問題があると、価値としての評価どころか、行政処分による事業停止のリスクとして減額や条件付けの理由になります。許認可は「持っている」だけでなく「適正に維持している」ことが評価の前提です。

売り手が確認しておきたいこと

許認可を持つ会社の売却では、次の準備が効きます。

  • 許認可の一覧を作る——種類、番号、取得日、有効期限、所管の行政庁、要件を満たしている人員
  • 要件の充足を点検する——現時点で要件を満たしているか。経営者が退任した場合はどうか
  • 資格者の状況を整理する——誰が何の資格を持ち、いつまで在籍見込みか。高齢化していないか
  • 過去の指摘・処分を整理する——履歴と対応内容を時系列でまとめる。隠さず示すほうが信頼される
  • 支配権変更時の扱いを確認する——株主変更に伴う届出・承認の要否を、所管庁の定めに沿って確認する

この中で最も価値のある準備は、資格者を複数確保しておくことです。経営者様以外に要件を満たす人材がいれば、許認可は個人ではなく会社に帰属する資産になります。育成や採用には時間がかかりますので、売却を意識するなら早めの着手をおすすめします。

まとめ|許認可は、時間を売る資産

  • 許認可の価値の本質は、買い手が短縮できる「時間」にある
  • 取得の難易度・希少性・事業への直結度・引き継ぎやすさで価値は変わる
  • 株式譲渡なら原則維持、事業譲渡なら再取得。方式の選択が価格を左右する
  • 更新・要件充足・処分履歴に問題があれば、価値どころかリスクになる

許認可を持つ会社は、規模が小さくても買い手候補が広がりやすい傾向があります。「小さいから買い手はいないだろう」と諦める前に、ご自身の会社が持つ許認可の意味を確かめてみてください。

当社プラチナパートナーズでは、許認可事業のM&Aについて、方式の選択から所管庁への確認事項まで、無料相談の中で具体的にご案内しています。お気軽にご相談ください。

よくあるご質問

A.株式譲渡の場合は、会社そのものが存続し株主が変わるだけですので、会社が保有する許認可は原則として維持されます。ただし役員変更や管理者変更に伴う届出が必要になることが多く、業種によっては支配権の変更について事前の届出や承認を要する場合もあります。一方、事業譲渡では原則として引き継がれず、譲受側が新たに取得する必要があります。業種ごとに扱いが異なりますので、所管の行政庁への確認が不可欠です。
A.評価上の重要な論点になります。経営者が退任すれば要件を欠き、許認可を維持できなくなるおそれがあるため、買い手はこれを価値ではなくリスクとして扱います。対策は、要件を満たす人材を社内に確保することです。資格者の採用や育成には時間がかかりますので、売却を意識される段階で早めに着手されることをおすすめします。複数の資格者がいる状態は、それだけで評価を安定させます。
A.伝えるべきです。行政処分や指導の履歴は買収監査で確認される項目であり、後から判明した場合は減額や交渉決裂につながるおそれがあります。むしろ、指摘の内容・原因・その後の改善措置を時系列で整理して先に説明すれば、「管理できている会社」という評価にもつながります。隠すことで生じる不利益のほうが、事実そのものの影響よりはるかに大きいのが実務の実感です。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら