製造業、運送業、建設業、医療・介護、宿泊業など、設備を持つ事業のM&Aでは、減価償却と設備投資の扱いが評価の重要な論点になります。「償却が重いので利益が出ていない」「古い機械ばかりだが大丈夫だろうか」「最近大きな設備を入れたが、それは評価されるのか」——いずれもよくいただくご質問です。本稿では、減価償却費が評価でどう扱われるのか、設備投資が価値にどう反映されるのかを、買い手の見方に沿って整理します。

減価償却は「お金が出ていかない費用」

減価償却費は、過去に支出した設備の取得費用を、使用期間にわたって費用として配分する会計処理です。費用として利益を押し下げますが、その年に現金が出ていくわけではありません。ここが、評価において減価償却が特別扱いされる理由です。

買い手が知りたいのは「この事業が毎年どれだけの現金を生むか」です。そのため、営業利益に減価償却費を足し戻して、事業が生む現金に近い数字を見ることがあります。償却の重い会社では、この足し戻しによって収益力の見え方が大きく変わることがあります。「償却が重くて赤字に近い」という会社が、実は相応の現金を生んでいた、というケースは珍しくありません。

なお、この足し戻しは減価償却に限りません。役員報酬や事業に関係のない支出の調整を含めた「実質利益」の考え方は、「実質利益(正常収益力)とは」で詳しく解説しています。

EBITDAが使われる理由と、その落とし穴

営業利益に減価償却費を足し戻した指標が、いわゆるEBITDAです(EBITDAとは)。設備の重さや減価償却の方法による差を取り除いて事業の稼ぐ力を比べられるため、M&Aの現場で広く使われます。

ただし、EBITDAには明確な落とし穴があります。設備は永久には使えないという事実です。減価償却費を足し戻すということは、「設備の消耗を費用として数えない」ということでもあります。しかし現実には、機械は老朽化し、車両は入れ替えが必要になり、建物は修繕を要します。その支出は、いつか必ず現金として出ていきます。

そのため実務では、EBITDAをそのまま鵜呑みにせず、事業を今の水準で続けるために毎年どれくらいの設備投資が必要かを差し引いて考えます。この「必要な設備投資」の見立てが、設備型の事業における評価の核心です。

維持更新に必要な設備投資をどう見るか

設備投資には、大きく分けて二つの性格があります。

  • 維持更新のための投資——今の売上・生産量を維持するために避けられない入れ替えや修繕。事業を続ける限り必要な支出であり、評価上は費用に近い性格を持つ
  • 拡大のための投資——生産能力を増やす、新しい分野に出るための投資。将来の利益を生む前提で行うもので、必要かどうかは買い手の戦略次第

買い手が気にするのは前者です。「引き継いだ翌年に、大きな更新投資が必要になるのではないか」という懸念は、価格の減額要因になり得ます。逆に、直近で主要設備の更新を終えていて当面の大きな支出が見込まれない会社は、その分だけ買い手にとって安心材料になります。

ここで大切なのは、設備投資を「した/しない」ではなく、「いつ・何に・いくら使い、次はいつ必要か」を説明できる状態にしておくことです。設備台帳、主要設備の導入年と更新予定、修繕の履歴が整理されていれば、買い手は将来の支出を見積もりやすくなり、不確実性を理由とした値引きの余地が小さくなります。

償却が終わった設備・過大な設備の扱い

償却済みでも稼働している設備

帳簿上の価額がほとんど残っていない設備でも、現に稼働して利益を生んでいるなら、その価値は収益力の側に表れています。加えて、時価純資産で評価する場合には、実際に売却可能な価額を反映させる考え方もあります(時価純資産とは)。「簿価がゼロだから価値もゼロ」ではない、という点は押さえておきたいところです。

使っていない設備・遊休資産

稼働していない機械、使っていない倉庫や土地などは、事業の収益力には貢献していません。売却可能な資産として別途評価されることもあれば、撤去費用や維持費がかかるとしてマイナスに見られることもあります。事業に関係のない資産をどうするかは、売却の設計段階で整理しておきたい論点です。

身の丈を超えた設備

稼働率の低い大型設備は、固定費と更新負担だけが残るため、買い手にとって重荷になり得ます。ただし、買い手が自社の受注を流し込めるのであれば、同じ設備が一転して魅力になることもあります。ここでも「誰にとっての価値か」という視点が効いてきます。

リース・割賦・設備関連の借入をどう見るか

設備を導入する方法は購入だけではありません。リースや割賦を使っている場合、その支払義務は実質的に負債と同じ性格を持つため、評価では有利子負債に準じて扱われることがあります。オペレーティングリースなど貸借対照表に大きく表れない契約がある場合は、契約内容を整理して開示することが重要です。

設備投資のための借入がある場合も、事業価値から差し引く純有利子負債の一部として扱われるのが一般的です。借入と評価の関係は「借入金が多い会社の評価」で詳しく説明しています。

また、リース契約や設備の保守契約には、支配権が変わる場合に相手方の同意を要する条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)が含まれていることがあります。設備が事業の中核であるほど、契約の確認は早めに行っておくべきです。

※本稿は一般的な考え方の整理であり、個別の税務・法務の取り扱いは前提となる事実関係により異なります。実行にあたっては税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。

まとめ|売り手が準備しておきたい設備の情報

設備と評価の関係を整理します。

  • 減価償却費は現金支出を伴わないため、収益力を見る際に足し戻されることがある
  • ただし設備は消耗する。維持更新に必要な投資を差し引いた姿が本当の稼ぐ力
  • 償却済みでも稼働していれば価値はある。遊休・過大な設備は整理の検討対象
  • リース・割賦・設備借入は負債に準じて扱われることがある。契約条項の確認も早めに

売り手として準備しておきたいのは、主要設備の一覧(導入年・取得価額・稼働状況)、直近数年の設備投資と修繕の実績、今後数年で見込まれる更新の予定、リース・割賦契約の一覧です。これらが整っているだけで、買い手の見立てはぶれにくくなり、交渉は落ち着いたものになります。

当社プラチナパートナーズでは、設備を持つ事業の評価について、無料相談の中で必要な資料の整理からご案内しています。どうぞお気軽にご相談ください。

よくあるご質問

A.売れる可能性は十分にあります。減価償却費は現金の支出を伴わない費用のため、M&Aの評価では営業利益に足し戻して事業が生む現金に近い数字を見ることがあるからです。ただし、設備は消耗するため、事業を続けるために毎年必要となる更新投資を差し引いた姿が実質的な稼ぐ力になります。設備の導入年や今後の更新予定を整理しておくと、評価の議論が進めやすくなります。
A.一概に不利とは言えません。帳簿価額が残っていなくても現に稼働して利益を生んでいるなら、その価値は収益力の側に表れます。時価純資産で見る場合に、売却可能な価額を反映させる考え方もあります。むしろ論点になるのは「次の更新がいつ、どれくらいの規模で必要か」です。ここを説明できる状態にしておくことが、不確実性による減額を防ぐ最も有効な備えです。
A.必ずしもそうとは限りません。買い手の戦略に合わない投資は評価につながりにくく、支出だけが先行することもあります。一方、老朽化した主要設備の更新は、買い手の将来負担を減らすため安心材料になり得ます。判断の分かれるところですので、大きな投資を検討される場合は、実行前に一度ご相談いただくことをおすすめします。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら