M&Aの検討を進めていくと、買い手候補や専門家との会話のなかで「EBITDA(イービットディーエー、またはイービッダー)」という言葉が繰り返し登場します。売上高でも経常利益でもなく、なぜこの耳慣れない指標が使われるのか。実は、EBITDAには「会社ごとの事情を取り払って、事業そのものの稼ぐ力を比べる」という明確な役割があります。本稿では、EBITDAの計算方法をひとつずつ確認し、M&Aで重視される理由、そして中小企業のM&Aで実際に見られる「実質EBITDA」の考え方までをご説明します。

EBITDAとは|営業利益に減価償却費を足し戻した指標

EBITDAは「Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization」の頭文字をとった言葉で、直訳すれば「利息・税金・減価償却費を差し引く前の利益」となります。M&Aの実務では、次の簡便な式で計算されるのが一般的です。

EBITDA = 営業利益 + 減価償却費

営業利益は本業の儲けを示す指標ですが、そこにはすでに減価償却費が費用として差し引かれています。減価償却費は、過去に取得した設備や車両、ソフトウェアなどの取得価額を、使用する期間にわたって配分した会計上の費用です。その期に現金が出ていくわけではありませんので、これを足し戻すことで「本業から、その年にどれだけの現金を生み出す力があったか」に近い数字が得られます。

実務上の呼び方はいくつかあります。損益計算書の営業利益から出発する簡便法のほか、経常利益に支払利息と減価償却費を加える方法、税引前利益から出発する方法などもありますが、中小M&Aの現場では冒頭の「営業利益+減価償却費」が最も広く使われています。減価償却費の額は損益計算書には内訳が出てこないこともあり、その場合は製造原価報告書やキャッシュフロー計算書、法人税申告書の別表から拾い出すことになります。

なぜM&AでEBITDAが重視されるのか

EBITDAが好まれる理由は、「会社ごとの事情を取り払って比較できる」という一点に尽きます。具体的には、次の三つの差異が取り除かれます。

1. 設備投資のタイミングによる差を除ける

数年前に大型設備を導入した会社と、まだ更新していない会社とでは、同じ事業を同じ規模で営んでいても、減価償却費の重さが違います。前者は営業利益が小さく見えますが、事業の稼ぐ力が劣っているわけではありません。減価償却費を足し戻せば、この差を取り除いて比較できます。

2. 償却方法・耐用年数の選択による差を除ける

定額法か定率法か、耐用年数を何年とするか、少額資産をどう処理するか。これらの選択によって、各期の減価償却費は変わります。会計方針の違いにすぎない部分で利益の見え方が変わってしまうのを、EBITDAは避けてくれます。

3. 資本構成・税率による差を除ける

借入金の多い会社は支払利息が重く、経常利益が小さくなります。しかし借入は買い手が自らの方針で組み替えられる要素であり、事業そのものの良し悪しとは別の話です。EBITDAは支払利息の影響を受けない位置にあるため、資本構成の違いを超えて事業を比較できます。

加えて、EBITDAは企業価値の算定にそのまま接続します。事業価値をEBITDAの何倍と見るかを表す「EV/EBITDA倍率」は、M&Aの世界で最も広く使われる物差しのひとつです。この考え方については「マルチプル法とは|類似会社比較による企業価値の算定方法」で詳しくご説明しています。買い手が「EBITDAの何倍まで出せるか」という発想で検討を進めるため、売り手側もEBITDAを把握しておくことが、交渉の共通言語を持つことにつながるのです。

EBITDAの計算例|決算書からの拾い方

実際に計算してみましょう。以下の数値は、計算の考え方をご理解いただくために置いた説明のための仮定の数値です。実際の評価額を示すものではありません。

ここでは、同じ業種・同じ売上規模でありながら、設備投資の時期と借入水準が異なる2社を比較します。

項目A社B社
売上高500,000千円500,000千円
売上総利益150,000千円150,000千円
販売費及び一般管理費110,000千円95,000千円
営業利益40,000千円55,000千円
うち減価償却費(販管費+製造原価)30,000千円12,000千円
支払利息6,000千円1,000千円
経常利益34,000千円54,000千円
EBITDA(営業利益+減価償却費)70,000千円67,000千円

営業利益だけを見ればB社(5,500万円)がA社(4,000万円)を上回り、経常利益では差はさらに開きます。ところがEBITDAで比べると、A社7,000万円に対しB社6,700万円と、評価は逆転します。A社は直近で設備投資を行ったため減価償却費が重く、借入も残っている——それだけの話であり、事業が生み出す現金の力ではA社のほうがわずかに上回っている、という読み方ができるのです。

もっとも、この比較には裏側もあります。A社は投資を終えた直後で当面の追加投資が軽い可能性がある一方、B社は設備が古く、近い将来にまとまった更新投資が必要かもしれません。EBITDAは設備投資の影響を「一時的に外して見る」指標であり、投資が不要になるわけではないという点は、後の章で改めて触れます。

中小企業では「実質EBITDA(正常収益力)」を見る

中小・オーナー企業のM&Aでは、決算書の数字をそのまま使ってEBITDAを計算しても、実力を映しているとは限りません。オーナー経営では、税負担や個人の事情を踏まえた会計処理が行われていることが多く、それらを補正して「第三者が経営した場合に、平常時にどれだけ稼げるか」を見る必要があるためです。この補正後の数字を、実務では「実質EBITDA」あるいは「正常収益力(ノーマライズドEBITDA)」と呼びます。

補正の対象となりやすいのは、次のような項目です。

  • 役員報酬:同等の職務を第三者に委ねた場合の適正水準との差額
  • オーナー家族への給与:実態の勤務に見合わない部分
  • 経営者個人に関わる費用:個人的な保険料、車両費、交際費、別荘・社宅などの維持費
  • オーナー所有不動産の賃借料:相場と乖離している場合の差額
  • 一過性の損益:資産売却益、保険解約返戻金、災害損失、単発の大型受注による利益
  • 本来必要な費用の不足:未計上の未払残業代、必要な修繕の先送り、退職給付引当の不足など

たとえば、営業利益4,000万円・減価償却費1,500万円の会社で、オーナーの役員報酬が適正水準より1,200万円高く、一方で個人的な保険料300万円が費用計上されている、という状況を仮に置いてみます。この場合、実質EBITDAは4,000+1,500+1,200+300=7,000万円と見ることになります。決算書の営業利益だけを見て「利益が少ない会社」と判断されてしまうと、本来の評価を得られません。

逆の方向の補正もあります。社長が営業のすべてを担っており、退任後は同等の人材を年間800万円で雇う必要があるなら、その分は差し引いて考えるべきです。買い手は買収後の姿を前提に数字を見ますので、こうした調整は必ず行われると考えておくべきでしょう。買い手のデューデリジェンスでも、この正常収益力の検証は中心的な論点になります。詳しくは「デューデリジェンス(DD)とは|調査項目と売り手の準備」をご参照ください。

本稿の会計・税務に関する記述は、一般的な考え方を分かりやすくご説明することを目的とした概説です。実際の取扱いは取引形態・適用する会計基準・個別の事情によって異なりますので、具体的な処理については税理士・公認会計士にご確認ください。

EBITDAの限界|万能な指標ではない

比較のしやすさに優れるEBITDAですが、万能ではありません。使ううえで意識しておきたい弱点が三つあります。

設備投資の必要性が見えなくなる

減価償却費を足し戻すということは、「設備の目減りを費用として見ない」ということでもあります。装置産業や運送業のように、事業の継続に継続的な設備更新が欠かせない業種では、EBITDAが大きくても、更新投資を差し引くと手元に残る現金は乏しい、ということが起こり得ます。買い手は必ず、今後必要となる設備投資額をあわせて確認します。

運転資本の増減を反映しない

売上が伸びている会社では、売掛金や在庫が増えて現金が先に出ていきます。EBITDAは損益計算書ベースの指標であるため、この運転資本の負担を捉えられません。「利益は出ているのに資金繰りが苦しい」という状態は、EBITDAだけを見ていては見えないのです。

借入返済の負担が見えない

支払利息の影響を受けないことは、比較の観点では長所ですが、実際の返済負担を無視することにもなります。有利子負債が重い会社では、EBITDAが十分でも返済後にほとんど残らないことがあります。だからこそ実務では、EBITDAと同時に有利子負債の水準(いわゆるネットデット)を確認し、企業価値から差し引いて株式価値を求めるのです。

これらを踏まえると、EBITDAは「出発点として優れた指標」であり、最終的な判断は、純資産の状況、設備投資計画、資金繰り、成長性などを重ね合わせて行うことになります。純資産の側面については「時価純資産とは|簿価との違いとM&A価格への反映のされ方」でご説明しています。

まとめ|自社のEBITDAを把握することから始める

EBITDAは、営業利益に減価償却費を足し戻した指標であり、設備投資のタイミングや償却方法、資本構成といった会社ごとの事情を取り払って、事業そのものの稼ぐ力を比較するために用いられます。中小企業のM&Aでは、役員報酬や一過性の損益を補正した「実質EBITDA(正常収益力)」で評価するのが実務の作法であり、この補正を適切に行えるかどうかで、譲渡価格の見え方は大きく変わります。

まずは、直近3期分の決算書をお手元に、営業利益と減価償却費を確認してみてください。そのうえで、役員報酬や個人的な費用を補正すると、いくらになるか。この数字が、買い手との対話の出発点になります。当社の企業価値算定シミュレーターでは、いくつかの数値をご入力いただくだけで概算の企業価値レンジを無料・匿名でご確認いただけますので、目安を知る第一歩としてご活用ください。より精緻な正常収益力の算定については、無料相談にて個別に承っております。

Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら

よくあるご質問

A.直近3期分の決算書をお手元に置き、損益計算書の営業利益と、減価償却費を確認してください。実務で広く使われるのは「営業利益+減価償却費」という簡便な式です。減価償却費は損益計算書に内訳が出てこないこともあり、その場合は製造原価報告書やキャッシュフロー計算書、法人税申告書の別表から拾い出します。そのうえで、役員報酬や個人的な費用を補正するといくらになるか。この数字が、買い手との対話の出発点になります。
A.一方向には動きません。実務では、同等の職務を第三者に委ねた場合の適正水準との差額を足し戻す一方で、逆方向の補正も行われます。たとえば社長が営業のすべてを担っており、退任後は同等の人材を雇う必要があるなら、その人件費は差し引いて考えます。買い手は買収後の姿を前提に数字を見ますので、こうした調整は必ず行われると考えておくべきです。具体的な会計・税務の処理については、税理士・公認会計士にご確認ください。
A.そうとは限りません。EBITDAには三つの弱点があります。減価償却費を足し戻す以上、今後必要となる設備更新の負担が見えなくなること。損益計算書ベースの指標であるため、売掛金や在庫の増加による運転資本の負担を捉えられないこと。そして支払利息の影響を受けないため、借入返済の負担が見えないことです。だからこそ実務では、EBITDAと同時に有利子負債の水準を確認し、企業価値から差し引いて株式価値を求めます。

Free Simulation

貴社の収益力は、どう評価されるでしょうか。

無料・匿名の企業価値算定シミュレーターで、利益水準に基づく概算の企業価値レンジをご確認いただけます。
メール(info@platinumpartners.jp)でも承ります。

無料でシミュレーションする