介護タクシーは、運送の許可と、介護の現場との関係の両方で成り立つ事業です。許可は運輸局、利用の入口はケアマネジャーや施設という、二つの異なる世界にまたがります。本稿では、許可、連携先、人と車両という三つの軸で整理します。

相談のきっかけ

この業種の相談は、人手と車両から出てきます。

  • ドライバーが確保できない — 二種免許と介護の知識の両方が求められ、採用が難しい
  • 車両の更新 — 福祉車両の改造を含む入れ替えに資金が必要になった
  • 単独では受けきれない — 施設からの定期の送迎の依頼が増え、台数が足りない
  • 後継者がいない — 帝国データバンクの2025年調査では、日本企業の後継者不在率は50.1%です

レコフデータによれば2025年のM&A件数は5,000件超で2年連続の過去最多です。第三者への承継は、以前より一般的な選択肢になっています。

許可の種類|何を運ぶかで変わる

福祉の輸送には複数の制度があり、どれで営業しているかを最初に確認します。

  • 一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送事業限定) — いわゆる介護タクシー。国土交通大臣(運輸局)の許可で、運行管理者の選任などの要件があります
  • 自家用有償旅客運送 — 非営利法人などが行う形。登録の制度で、営利の事業とは別です
  • 介護保険の訪問介護(通院等乗降介助) — 介護事業者としての指定が関わります

株式譲渡であれば許可・指定は法人に残りますが、事業譲渡では取り直しが前提です。運送の許可と介護の指定の両方を持つ場合は、所管が二つに分かれるため手続きの段取りが複雑になります。運輸局・自治体と専門家にご確認ください。

※ 税務・法務の取り扱いは個別の事情で結論が変わります。実行の前に、顧問税理士・弁護士にご確認ください。

仕事の入口は、連携先にある

利用者が直接探して来ることは少なく、紹介が中心になります。

  • ケアマネジャー・居宅介護支援事業所 — 継続的な紹介の源
  • 病院・クリニック — 通院や転院の送迎
  • 施設 — 定期の送迎を委託で受けている場合、契約の期間と単価
  • 自治体の助成 — 福祉タクシー券などの制度を使っている場合の事務

買い手が見るのは、その紹介が会社の関係か、代表個人の関係かです。施設との委託が書面になっている場合は、資産として説明できます。

人と車両|両方が揃って初めて走れる

供給能力は、資格を持つ人と改造された車両の組み合わせで決まります。

人については、二種免許の保有者数、介護職員初任者研修などの資格、運行管理者の選任状況を整理します。運行管理者が辞めれば許可の維持に関わるため、その人の残留は重要な論点です。

車両については、台数、車種(リフト付き・スロープ付き・寝台)、年式、所有かリースか。改造を伴う車両は入れ替えに時間と費用がかかるため、更新の見込みが価格に影響します。

安全と記録

身体の状態が不安定な方を運ぶ事業なので、記録が評価の前提になります。

  • 点呼・運行の記録、日常点検の記録
  • 事故・ヒヤリハットの記録と、再発防止の対応
  • 乗降の介助の手順が文書になっているか
  • 保険の加入内容(対人・対物に加え、搭乗者の傷害など)

事故が起きたことより、記録と対応の形が残っているかが見られます。記録が無いと、買い手は把握できないリスクとして保守的に評価します。

価格の議論で見られる数字

人と車両で回す地域密着型の事業として、次の点が議論の対象になります。

  1. 売上の内訳 — 個人の利用、施設の委託、自治体の制度
  2. 1台あたりの稼働 — 日々の運行回数と実車率
  3. 人員の資格と年齢構成
  4. 車両の年式と更新の見込み

当社の報酬は移動総資産レーマン方式(基準額=株式価値+負債総額)で、最低報酬は2,000万円(税別)です。基本合意の時点で成功報酬額の10%を中間金としてお支払いいただき、成功報酬から全額差し引きます。基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません。

売り手が先に整えられること

準備として効果が大きいのは次の三つです。

第一に、許可・指定の一覧です。運送の許可の種類と営業区域、介護の指定があればその内容。所管が分かれるため、一覧になっていると買い手の確認が早く終わります。

第二に、受注の経路別の実績です。紹介元ごとの件数と売上。会社の関係か個人の関係かも併せて整理します。

第三に、車両と人員の対応表です。どの車両を誰が運行しているか、資格は何を持っているか。氏名を出さずに資格と年代が分かる形にします。

進め方の順番

検討の初期は、社名を出さずに進めることができます。

  1. 秘密保持契約を結び、匿名の概要で相手の関心を見る
  2. トップ面談で、相手の目的と譲渡後の運営方針を確かめる
  3. 意向表明・基本合意で、価格と引き継ぎの枠組みを決める
  4. デューデリジェンス(買い手の調査)を受け、最終契約・クロージング

この業種では、許可の維持に必要な人が残るかと、連携先への説明が実務の山場です。価格より先にここを整理します。

よくあるご質問

A.事業譲渡や会社分割で切り出すことは可能ですが、運送の許可と介護の指定はそれぞれ取り直しや変更の手続きが必要になります。所管が分かれるため、段取りに時間がかかります。どちらを残すのかを先に決めることをお勧めします。
A.その場合、譲渡後に紹介が続くとは限らないため、買い手は保守的に見ます。一定期間、代表が関与して紹介元に新しい体制を伝える形をとることが多いです。関係の一覧を作っておくと、引き継ぎの計画が立てられます。
A.制度の利用者からの依頼が安定して入る経路として評価されます。一方で、助成の額や対象が自治体の判断で変わるため、制度に依存した売上は変動の要因として見られます。制度分と自費分を分けて売上を出せるようにしておくと、どこが安定していてどこが制度に左右されるのかが伝わります。
A.台数より、営業区域と連携先が評価されます。既に同じ地域で介護事業や送迎を行っている事業者が、機能を補う目的で検討することがあります。経路別の実績が出せる状態であることが前提です。
A.許可の維持に関わるため、譲渡後の在籍が前提になることが多いです。買い手側で選任できる体制があるかを早い段階で確認し、残留の期間を条件に含めるかどうかを相談します。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役副社長。中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら