内航海運・港湾運送は、船という重い資産と、船員という代えの利かない人の二つで成り立っています。どちらも短期間では用意できません。だからこそ、事業ごと引き継ぐことに意味がある業種です。
内航海運・港湾運送業を取り巻く承継の環境
国内の物流を支える基幹でありながら、船員の高齢化と船舶の老朽化が同時に進んでいます。代替建造には大きな投資が必要で、その判断を先送りしてきた会社では「あと何年続けられるか」が承継を考える直接のきっかけになります。
一方、陸上の物流事業者や荷主にとって、海上輸送の手段を自社に取り込む意味は小さくありません。船と船員と許認可をまとめて得られる機会として、買い手の関心は続いています。
許認可の種類を、まず一覧にする
この分野では、事業の内容によって必要な地位が分かれます。
- 内航海運業:船舶を使って貨物を運ぶ事業の登録・届出
- 港湾運送事業:港での荷役・はしけ運送・いかだ運送などに関する許可。港ごと・種類ごとに区分されます
- 倉庫業:保管を併せて行っている場合の登録
自社がどの地位を持ち、どの港で何ができるのかを整理することが、承継の第一歩です。港湾運送事業の許可は港単位で与えられるため、営業できる港の範囲そのものが価値になります。適用関係と手続きは所管の運輸局等にご確認ください。
スキームによって、許認可の扱いが変わる
会社ごと引き継ぐ株式譲渡であれば、登録・許可は同じ法人に帰属したまま維持されるのが原則です。役員変更等の届出は必要ですが、運航を止めずに承継できます。
これに対し事業譲渡で船舶や事業だけを移す場合も、一から取り直すとは限りません。内航海運業の登録については事業の譲渡に伴う承継の届出、港湾運送事業の許可については事業の譲渡について国土交通大臣の認可を受けて承継する仕組みが設けられています。ただし認可には基準があり、認可が下りるまでの段取りを組む必要があります。どちらの手続きに当たるかは、所管の運輸局にご確認ください。荷主との運送契約が途切れる影響は大きいため、この業種でも株式譲渡が選ばれやすくなります。
船舶をどう見られるか
買い手が最初に確認するのは船です。船種・総トン数・建造年(船齢)・主機の状態・直近の定期検査と入渠の記録。船齢が進んでいれば、代替建造の時期と概算の投資額が価格の前提になります。
あわせて重要なのが所有形態です。自社所有か、裸傭船か、定期傭船か。オーナー個人や別会社の名義になっている船がある場合、承継後も使い続けられる形を先に整理しておく必要があります。抵当権の設定状況も確認されます。名義の整理は「賃貸借・リース契約の整理」もあわせてご覧ください。
船員の確保が、事業の上限を決める
船を持っていても、乗せる人がいなければ動きません。海技士の資格を持つ船員が何人いて、年齢構成がどうか。これが運航できる隻数を実質的に決めています。
船員の労働に関する制度は陸上の労働者と異なる部分があり、雇用の形態も会社によって様々です。買い手は、船員の在籍状況、資格の内訳、平均年齢、そして直近の採用実績を確認します。若手が入っている会社は、それだけで評価が変わります。
荷主との関係と、運賃の見直し
特定の荷主に依存しているか、複数の荷主と取引しているか。長期の輸送契約があるか、スポットが中心か。収益の安定性は、ここでほぼ決まります。
あわせて見られるのが、燃料油価格の変動を運賃に反映できているかです。転嫁の仕組みが契約に組み込まれている会社は、外部環境が変わっても採算を保てる会社として評価されます。荷主別の売上・利益と、運賃改定の履歴を整理しておくことをおすすめします。
価値を下げてしまう要因
- 船の権利関係が整理されていない:個人名義・別会社名義・抵当権
- 定期検査や入渠の記録が散逸している
- 船員の年齢構成が偏り、採用ができていない
- 燃料費の転嫁ができていない
- 荷主との契約が口頭のまま
売却を考え始めたら、先に整えておきたいこと
- 許認可を一覧にする:港・種類・更新期限まで
- 船舶台帳を作る:船齢・所有形態・検査記録・代替建造の見込み
- 船員の名簿を整理する:資格・年齢・在籍年数
- 荷主別の採算と運賃改定の履歴をまとめる
- 個人名義・別会社名義の資産の扱いを決める
まとめ
内航海運・港湾運送の承継は、許認可・船・船員・荷主の四つをどう引き継ぐかに集約されます。いずれも新たに揃えることが難しく、だからこそ事業ごと引き継ぐ価値があります。
国内物流を支える担い手は、簡単には置き換えられません。船齢が進んでいること自体は珍しいことではありません。把握して説明できる状態にすることが、そのまま価値になります。
本稿の内容は執筆時点(2026年9月)の一般的な整理です。許認可・税務・法務の取り扱いは個別の事情により異なりますので、具体的な検討にあたっては所管官庁および税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。