発表した翌日から、質問が来ます。その場で答えられるかどうかが、その後の信頼を決めます。あらかじめ線を決めておくべき項目を整理します。
必ず聞かれる5つ
公表後、ほぼ確実に出る質問です。答えを用意しておいてください。
① 雇用は続くのか。
② 給与は下がらないか。
③ 勤務地は変わらないか。
④ 上司は誰になるのか。
⑤ 社長はいつまでいるのか。
逆に、譲渡価格や買い手の経営戦略にはほとんど関心がありません。自分の生活に関わることだけです。
この5つに答えられないまま発表するのは、避けてください。
答えてよいこと
線引きを整理します。まず、答えるべきことです。
譲渡の事実と、相手の会社名。公表した以上、隠す意味がありません。
譲渡の理由。後継者の問題、事業の継続。
雇用と労働条件について、契約で確約されている内容。最終契約に「◯年間は労働条件を不利益に変更しない」とあれば、それを伝えてください。
今後の予定。いつ体制が変わり、いつ説明の場があるか。
窓口。誰に聞けばよいか。
まだ答えられないこと
次に、決まっていないことです。
人事制度の統合、評価の仕組み、組織の再編、新しい役職。
これらは、買収後に時間をかけて決めるものです。
このとき、曖昧にごまかさないでください。「今は決まっていません。◯月までに決めて、決まったら必ずお伝えします」と言うほうが、はるかに信頼されます。
最悪なのは、その場しのぎで約束することです。「何も変わりません」と言った3か月後に何かが変われば、それ以降の説明が信用されなくなります。
答えないと決めること
最後に、答えないと決めておく項目です。
譲渡価格。聞かれても、答える必要はありません。「会社と相手方の取り決めなので、お伝えできません」で構いません。
他の従業員の処遇。誰がいくらもらうか、誰が残るか。
交渉の経緯。他にどんな候補がいたか。
「言えない」と言うのは、隠すこととは違います。理由を添えてください。「個人の処遇は、本人以外にはお話ししません」という説明は、むしろ信頼につながります。
個別面談を早く行う
全体への説明だけでは足りません。1週間以内に、一人ずつ話してください。
集団の場では本音が出ません。個別なら、「実は転職を考えていた」「家族に心配されている」という話が出ます。
面談で聞くべきは、不安に思っていることと、これからどうしたいか。
答えを用意する必要はありません。聞くこと自体に意味があります。
人数が多い場合は、管理職を通じた二段階でも構いません。ただし、管理職には先に説明し、答え方を揃えておいてください。
答え方を揃える
実務的な準備です。社長、幹部、買い手の担当者。誰が答えても同じ内容になるようにしてください。
作るべきは、想定問答です。よくある質問と、その答え。A4で1〜2枚。
食い違いが最も不信を生みます。「社長はこう言ったが、部長は違うことを言った」。
また、「分からないことは分からないと答える」という方針も揃えておいてください。幹部が勝手に推測で答えると、それが約束と受け取られます。
分からない質問は、窓口に集約して、後日まとめて回答する。この運用にすると混乱しません。
噂が出たとき
公表後も、事実でない話が広がることがあります。
「リストラがある」「給料が下がる」「本社に統合される」。
対応の原則は、早く、事実で打ち消すことです。放置すると定着します。
方法としては、全体への短い通知が有効です。「こういう話が出ていると聞きましたが、事実ではありません」。
ただし、将来的にあり得ることを「ない」と言い切らないでください。「現時点でそうした計画はありません」という言い方にとどめる。後から状況が変われば、嘘になります。
辞めたいと言われたら
公表後、必ず出ます。これ自体は異常ではありません。
まず、理由を聞いてください。譲渡がきっかけなのか、もともと考えていたのか。前者なら、不安の中身に応えられる可能性があります。
次に、引き止めるべき人かを判断します。全員は引き止められません。事業の継続に不可欠な人、後任の育成に時間がかかる役割の人を優先します。
そして、引き止められなかった場合の備え。業務の引き継ぎ、顧客の担当替え、採用。「辞めるかもしれない」段階で準備を始めてください。
落ち着くまでの時間を織り込む
最後に、時間の感覚です。
空気が落ち着くまでには、おおむね3か月から半年かかります。最初の1か月は動揺、次の2か月は様子見、その後に日常が戻る。
この間、生産性は一時的に落ちます。これは織り込んでおいてください。
そして、この時期に大きな変更を入れないこと。制度、ルール、呼称。急ぐ理由がないものは、そのままにしておく。
最初の数か月は、信頼を作る期間だと割り切ってください。発表後、従業員はどう反応するかも併せてご覧ください。