息子や娘が会社にいる。ただ、継ぐ意思はない、あるいは継げる状況ではない。この場合、譲渡の設計には本人の将来が含まれます。整理します。
まず、本人の意思を確かめる
最初にすべきことです。「継がない」という前提が、本当に本人の意思かを確認してください。
実務では、次のような食い違いがあります。
親が「本人にその気はない」と思い込んでいる。本人は、言い出せずにいる。
本人が「無理だ」と思っている。能力ではなく、保証や資金の問題で。
条件が合えば継ぐ意思がある。今の体制のままでは難しいだけ。
一度、正面から聞いてください。譲渡を進めてから「実は継ぎたかった」と言われるのが、最も避けるべき展開です。
継がない理由を分けて考える
理由によって、対処が変わります。
やりたい仕事が別にある。これは尊重すべき判断です。
経営者になる自信がない。育成の時間があれば変わる可能性があります。
個人保証を負いたくない。経営者保証に関するガイドラインの事業承継時の特則もあり、交渉の余地はあります。
会社の将来性に不安がある。本人が最も近くで見ています。この判断は重く受け止めるべきです。
家族の反対。配偶者が反対している、というケース。
3つ目と4つ目は、話し合いで動く可能性があります。
譲渡することを、いつ伝えるか
難しい判断です。会社にいる以上、従業員でもあります。
早く伝えれば、本人が将来を考える時間ができます。一方、情報が漏れるリスクも生じます。
実務では、家族として、早い段階で伝えることが多くなります。他の従業員より先に、家族の一員として。
その際、「他の従業員には言わないでほしい」ことを明確に伝えてください。本人にとっても、知っているのに言えない期間は負担です。
いつ公表するかの予定も、あわせて伝えてください。
譲渡後の処遇の選択肢
本人の立場から、選択肢を整理します。
① そのまま残る。役員なら従業員に変わることもあります。買い手の下で働くことになります。
② 一定期間残って、その後辞める。引き継ぎに協力し、区切りをつける。
③ クロージングと同時に辞める。次の道に進む。
④ 独立する。のれん分けの形で、一部の事業を引き継ぐ選択もあります。
どれを選ぶかは本人の判断ですが、親が先に決めてしまわないでください。本人に選択肢を示し、考える時間を渡すことです。
買い手からどう見られるか
率直に書きます。買い手は、前経営者の親族が残ることに慎重になることがあります。
理由は、指揮命令がしにくいと考えるためです。他の従業員も、その人を特別扱いしがちです。
一方、その人が事業の中核を担っている場合は、残ってほしいと考えます。
したがって、売り手として示すべきは、その人が何をしていて、いなくなると何が困るかです。
「息子なので残してほしい」という頼み方は、通りません。役割と能力で説明してください。
残る場合の条件を明確にする
残ると決めた場合、条件を書面で決めてください。
雇用形態。役員か従業員か。
職務と権限。何を担当し、何を決められるのか。
報酬。役員報酬から従業員給与に変わる場合、金額が下がることがあります。
期間の保証。「◯年間は雇用を継続する」といった定め。
これを最終契約または覚書に入れてください。口約束では、買い手の担当者が代われば消えます。
本人にも、内容を説明してください。親が勝手に決めた条件で働くことになるのは、本人にとって納得しがたい状況です。
株式を持っている場合
子どもが既に株式の一部を持っていることがあります。生前贈与、あるいは名義を借りた形で。
この場合、譲渡には本人の同意が必要です。全株を売るなら、本人も売主になります。
したがって、譲渡代金は本人にも入ります。それぞれが譲渡所得として申告します。
問題になるのは、実質的な所有者と名義が違う場合です。名義株の論点があり、代金の帰属と課税が問題になり得ます。
譲渡の前に、実態を整理してください。税理士と弁護士に確認すべき論点です。
独立を支援するという選択
本人が別の道を望む場合、譲渡を機に独立を支援するという形があります。
のれん分け。一部の事業や店舗を引き継がせる。買い手の同意が要り、譲渡の対象から外す設計になります。
資金の援助。譲渡代金の一部を、贈与または貸付として渡す。贈与税の論点があります。
取引関係の紹介。親の人脈を引き継がせる。
いずれも、買い手との交渉が必要です。競業避止の条項に触れる可能性があるためです。早い段階で相談してください。のれん分けという選択もご覧ください。
親としての判断と、経営者としての判断
最後に、考え方の整理です。
会社を譲ることは、子どもに継がせないという決定でもあります。本人が望んでいなくても、選択肢を閉じることになります。
だからこそ、本人と話してから決めてください。事後報告にすると、関係に傷が残ります。
一方で、継ぐ意思のない子どもに継がせるのは、本人にとっても会社にとっても不幸です。従業員と取引先の生活がかかっています。
経営者として正しい判断と、親としての気持ちは、別々に持っていて構いません。ただ、判断は経営者としてしてください。そして、気持ちは本人に伝えてください。