M&Aの現場では、英語の略語やカタカナ語が驚くほど頻繁に飛び交います。「NDAを締結してからIMを開示し、LOIを受けてDDに入り、SPAでクロージング」——初めて聞けば暗号のようですが、一つひとつは決して難しい概念ではありません。本記事では、実際の商談やメールで出てくる英語・カタカナ用語30語を、案件の進行順に整理してご説明します。日本語の基本用語については「M&A用語集」をあわせてご覧ください。サイト全体の用語を場面ごとに引けるM&A用語集(96語)もご用意しています。
先に、心構えをひとつ。用語を暗記する必要はありません。ただし、意味がわからないまま話を進めることだけは避けてください。特に「価格の前提(EVかエクイティバリューか)」「契約上の義務(表明保証・補償・前提条件)」に関わる用語は、理解の齟齬がそのまま金額や責任の差になります。以下の一覧は、通読するのではなく、必要な場面で引く辞書としてお使いいただければ十分です。
相手探しの段階で出る用語(1〜5)
| 1. NDA / CA | Non-Disclosure Agreement / Confidentiality Agreement の略で、日本語では秘密保持契約。知り得た情報を第三者に開示しないことを約束する契約で、買い手候補に社名や詳細資料を開示する前に締結します。M&Aで最初に交わす契約書です。 |
|---|---|
| 2. ティーザー(Teaser) | 社名を伏せたまま、業種・地域・規模・特徴などをまとめた匿名の紹介資料。日本では「ノンネームシート」とも呼ばれます。買い手候補の関心を確かめるための、最初の一枚です。 |
| 3. IM | Information Memorandum の略。NDA締結後の買い手候補に開示する、会社の詳細説明資料です。事業内容、財務、組織、強み、リスクなどを網羅します。「企業概要書」と呼ばれることもあります。 |
| 4. ロングリスト / ショートリスト | ロングリストは買い手候補になり得る企業を幅広く並べた一覧、ショートリストはそこから実際に打診する先を絞り込んだ一覧。どこまで広げ、どこに絞るかは売り手の意向次第です。 |
| 5. ソーシング(Sourcing) | 案件や相手候補を発掘する活動のこと。買い手側が「ソーシングを強化する」といえば、買収候補となる会社を探す活動を指します。 |
交渉・意向表明の段階で出る用語(6〜10)
| 6. IOI | Indication of Interest の略で、関心表明。LOIより前の段階で、買い手が「関心がある」という意思を、おおまかな価格レンジとともに示すものです。拘束力はありません。 |
|---|---|
| 7. LOI | Letter of Intent の略で、意向表明書。買い手が売り手に差し入れる書面で、想定する買収価格、スキーム、今後の進め方などを示します。原則として法的拘束力は限定的です。 |
| 8. MOU | Memorandum of Understanding の略で、基本合意書。売り手と買い手が双方で取り交わし、その時点での条件の大枠と今後の進め方を確認します。当社の中間金は、この基本合意の締結時にお支払いいただく設計です。 |
| 9. エクスクルーシビティ(Exclusivity) | 独占交渉権。一定期間、他の候補と交渉しないことを約束する条項です。基本合意書に盛り込まれることが多く、この部分には法的拘束力を持たせるのが一般的です。 |
| 10. マネジメントインタビュー (Management Interview) | 買い手の経営陣と売り手の経営者が直接面談する場。日本では「トップ面談」と呼ばれます。数字では伝わらない事業の実態や、経営に対する考え方をすり合わせる重要な機会です。 |
価格・評価の段階で出る用語(11〜18)
| 11. EV | Enterprise Value の略で、事業価値。事業そのものが生み出す価値を指し、株主と債権者の双方に帰属する価値の合計と説明されます。 |
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| 12. エクイティバリュー (Equity Value) | 株式価値。株主が受け取る株式そのものの価値です。一般に「エクイティバリュー = EV - ネットデット」の関係で表されます。提示された金額がEVなのかエクイティバリューなのかで手取りは変わるため、必ず確認してください。 |
| 13. ネットデット(Net Debt) | 純有利子負債。有利子負債から現預金を差し引いた金額です。借入が多く現預金が少ないほど、同じEVでも株主の手取りは小さくなります。 |
| 14. EBITDA | Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization の略で、「イービットディーエー」「イービッダー」などと読まれます。営業利益に減価償却費を足し戻した、事業が生み出すおおまかなキャッシュフローの目安です。 |
| 15. マルチプル(Multiple) | 倍率。EBITDAなどの指標に一定の倍率を掛けて価値を見積もる考え方です。「EV/EBITDA倍率」という形で使われます。倍率の水準は業種・規模・時期によって大きく異なります。 |
| 16. DCF | Discounted Cash Flow の略で、割引キャッシュフロー法。将来のキャッシュフロー計画を現在価値に割り引いて価値を算出する評価手法です。事業計画の前提次第で結果が大きく動きます。 |
| 17. シナジー(Synergy) | 相乗効果。買い手が対象会社を取得することで、単独では得られない効果(販路の共有、仕入の効率化、技術の相互活用など)が生まれることを指します。シナジーが見込めるほど、買い手の評価は前向きになります。 |
| 18. スタンドアロン(Stand-alone) | 「単独で」という意味。シナジーを織り込まず、対象会社が単独で存続した場合の価値や収益力を指します。「スタンドアロンベースでいくらか」という言い方をします。 |
価格の話でもっとも誤解が生じやすいのが、11〜13の関係です。企業価値の考え方については「会社売却の相場と企業価値の考え方」で詳しく解説しています。
調査・契約の段階で出る用語(19〜28)
| 19. DD | Due Diligence の略で、買収監査。基本合意後に買い手が行う対象会社の詳細調査です。財務DD・法務DD・ビジネスDD・税務DDなど、領域ごとに分けて実施されます。費用は原則として買い手の負担です。 |
|---|---|
| 20. VDR | Virtual Data Room の略。DDのために資料を開示するオンライン上の閲覧環境です。閲覧権限やダウンロードの可否を細かく管理でき、紙の資料室に代わって広く使われています。 |
| 21. SPA / DA | SPAは Share Purchase Agreement(株式譲渡契約書)、DAは Definitive Agreement(最終契約書)の略。DDの結果を踏まえて締結する、法的拘束力のある最終的な契約です。 |
| 22. CP | Conditions Precedent の略で、前提条件(クロージング条件)。この条件が満たされて初めて取引を実行するという取り決めです。許認可の取得、重要契約先の同意、株主総会の承認などが典型例です。 |
| 23. レプワラ (Reps & Warranties) | Representations and Warranties の略で、表明保証。開示した情報が真実かつ正確であることを、売り手が契約書上で表明し保証する条項です。売り手にとって最も重い条項のひとつであり、必ず弁護士の確認を受けてください。 |
| 24. インデムニティ(Indemnity) | 補償。表明保証に違反があった場合などに、売り手が買い手に生じた損害を補償する取り決めです。補償の上限額や請求できる期間をどう設定するかが交渉の焦点になります。 |
| 25. MAC | Material Adverse Change の略で、重大な悪影響を及ぼす事象。契約締結からクロージングまでの間に重大な悪化が生じた場合、買い手が取引を中止できるとする条項に用いられます。 |
| 26. エスクロー(Escrow) | 譲渡対価の一部を第三者に一定期間預け、表明保証違反などが生じた場合の補償に充てる仕組み。売り手にとっては、その分の受領が後ろ倒しになります。 |
| 27. アーンアウト(Earn-out) | 譲渡対価の一部を、成約後の業績達成に応じて後払いとする条件。売り手・買い手の価格観に開きがあるときの調整手段として使われますが、達成の判定基準を契約で明確にしておく必要があります。 |
| 28. サイニング / クロージング (Signing / Closing) | サイニングは最終契約の締結、クロージングは株式の引渡しと対価の支払いを実行する日を指します。前提条件(CP)を満たすために、この二つを別日とする設計が一般的です。 |
成約後の用語(29〜30)と、番外の略語
| 29. PMI | Post Merger Integration の略で、成約後の統合作業。組織・業務・制度・システム・企業文化を段階的にすり合わせていく取り組みです。M&Aの成否はここで決まるとも言われ、最初の100日の計画を「100日プラン」と呼びます。 |
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| 30. ロックアップ(Lock-up) | 譲渡後も一定期間、前経営者が会社に残って引継ぎにあたることを求める取り決め。キーマン条項とも呼ばれます。期間・役割・報酬を契約前に明確にしておくことが大切です。 |
番外|買い手の呼び分けと手法の略語
- ストラテジックバイヤー / ファイナンシャルバイヤー——前者は事業上のシナジーを目的とする事業会社、後者は投資リターンを目的とする投資ファンド等を指します。
- MBO / EBO——Management Buyout(経営陣による買収)/ Employee Buyout(従業員による買収)。社内承継の手法として用いられます。
- LBO——Leveraged Buyout。対象会社の資産や将来のキャッシュフローを裏付けに借入を行って買収する手法です。
- カーブアウト(Carve-out)——会社の一部の事業を切り出して譲渡すること。日本の中小企業では事業譲渡や会社分割の形をとります。
- COC条項(Change of Control)——支配権が変わった場合に、契約相手が解除や事前通知を求められるとする条項。重要な取引契約や賃貸借契約に含まれていることがあり、事前の確認が必要です。
用語に振り回されないための3つの心構え
最後に、専門用語との付き合い方について3点だけ申し上げます。
1. わからない言葉は、その場で聞く
「今さら聞けない」と感じる必要はまったくありません。M&Aは経営者様にとって一生に一度の取引であり、支援機関にとっては日常の業務です。用語を説明するのは支援機関の役割です。日本語で言い換えて説明するよう求めてください。
2. 略語より「金額と責任」に置き換えて理解する
どの用語も、突き詰めれば「いくらもらえるか」「何を保証させられるか」「いつまで縛られるか」のいずれかに関わります。用語の定義を覚えるより、自分にとっての金額と責任にどう跳ね返るのかを確認するほうが実践的です。
3. 契約に関わる用語は、必ず専門家に確認する
特に表明保証(23)、補償(24)、前提条件(22)は、契約後の責任の範囲を左右します。仲介会社の説明を聞いたうえで、顧問弁護士のチェックを併用してください。当社は依頼者様側の専門家の関与を歓迎しています。
当社では、初回のご相談を無料(相談料・着手金・月額報酬は0円)で承っており、用語の意味やプロセスのご説明から始めています。中小M&Aガイドライン(第3版・令和6年8月)も、支援機関に対して依頼者への丁寧な説明を求めています。わからないことを、わからないままにしない——それが、納得のいくM&Aの第一歩です。