実務者が外部に発信する機会は増えています。学んだことの整理になり、同業や経営者との接点も生まれます。一方で、この仕事の発信は、事故になったときの影響が他の業種と比べものになりません。本稿では、書けないものの具体、表現の作法、投稿前の確認手順を整理します。生活面の守秘は「守秘義務は生活にも及ぶ」をご覧ください。

発信が返ってくる面と、事故になる面

発信には、たしかに得るものがあります。

  • 書くために調べ直すので、知識が整理される
  • 説明の言葉が磨かれ、面談での伝え方が良くなる
  • 公開情報の範囲で仕事の中身を伝えられ、相談や応募の入口になる

一方、事故の側はこうです。譲渡を検討していること自体が秘密である以上、発信は常にその秘密のすぐ隣で行われます。しかも発信は、消しても残ります。引用され、保存され、後から検索されます。

もうひとつ、発信は公開時点の内容で固定されるという性質があります。料金や制度のように後から変わるものを具体的に書き込むと、改定に追随できません。古い数字が独り歩きし、依頼者が誤った前提で相談に来ることになります。

この二つ——特定のリスクと、固定されるという性質——を押さえたうえで、何を書けるかを決めます。

書けないもの

迷う余地のないものから並べます。

書けないもの理由
進行中の案件の存在存在そのものが秘密。「いま大きな案件を進めている」も含む
業種・地域・規模・時期の組み合わせ社名を出さなくても、組み合わせで特定される
面談の予定・場所・訪問先日程と場所から相手が推測される
成約したことの報告当事者が公表していない段階では書けない。公表後も当事者の同意が要る
写真(オフィス・現場・資料・名刺)背景の看板、書類の一部、位置情報から特定される
前職で知った情報退職後も守秘は続く
依頼者・買い手の人物評当事者が読む可能性がある。関係が壊れる

さらに、ぼかしたつもりの事例が最も危ういものです。「地方の建設会社で、創業50年、後継者がいない」——この程度でも、地域の事情を知る人には絞り込めます。ぼかしても、読者の側に別の情報があれば足し算で特定されます。

事例は、公表されている情報だけで書く。これを守れば事故は起きません。

表現の作法

特定の問題をクリアしても、表現の問題が残ります。この仕事の発信は、譲渡を検討している経営者も読みます。

  • 実績や成功率を語らない——確かめられない数値は書かない。当社も公表値のない数値は掲載していません
  • 売り手・買い手を軽んじる表現を使わない——実務の中で使われる言い回しでも、当事者が読めば失望します。相手を動かす対象として描かない
  • 断定しない——「必ず」「絶対に」「相場は○倍」。公表値のない水準を断定しない
  • 制度は時点と出典を添える——改正のあるものは「○年○月時点」と書く
  • 料金や料率を焼き付けない——改定に追随できないため、数字は自社の正式な掲載(料金体系)に送る
  • 有利な条件だけを書かない——費用に触れるなら、成立しなかった場合の扱いも同じ場で書く

最後の点は特に重要です。当社の場合、相談料・着手金・月額報酬はいただいていませんが、基本合意の時点で中間金が発生します。0円の項目だけを並べて中間金に触れない書き方は、有利な側だけを示すことになります。費用に触れるなら、中間金があること、基本合意後に不成立となった場合は返金しないことまで書き、詳細は料金ページへ送ります。

投稿前の確認手順

判断を毎回ゼロから行わないよう、手順にします。

  1. この内容は、公開情報だけで書けているか——書けていなければ、その部分を落とす
  2. 属性を足し算したら特定できないか——業種・地域・規模・時期のうち、二つ以上が並んでいないか
  3. 当事者が読んだらどう感じるか——依頼者、買い手、その従業員、家族。全員が読む前提で読み返す
  4. 数字に出典と時点があるか——ないものは落とす
  5. 後から変わるものを書き込んでいないか——料金、役職、制度の細部
  6. 画像を確認したか——背景、写り込み、位置情報
  7. 社内の確認を通したか——一人で判断しない。会社として出るものは会社の確認を通す

削除で回復できると考えないことも大切です。公開された瞬間に、こちらの手を離れます。迷ったら出さない。出さなかったことで失うものは、ほとんどありません。

では、何を書けるのか

制約を並べましたが、書ける範囲は十分に広くあります。

  • 工程の解説——ソーシングからクロージングまで、何がどの順で起きるか
  • 制度・統計——公表資料にもとづき、出典と公表年を添えて
  • 考え方——企業価値の算定の考え方、条件をどう比べるか
  • 準備の実務——譲渡を考える前に整えておくとよい資料や体制
  • 仕事の性質——待つ時間が長いこと、成約しない案件があること
  • 自社の方針——費用の体系、急がせないこと、他社への相談を妨げないこと

当サイトのコラムも、この範囲で書いています。個別の案件を語らなくても、役に立つ話はいくらでもあります。むしろ、事例に頼らずに書けるかどうかが、理解しているかどうかの試金石になります。

まとめ|迷ったら出さない

要点を整理します。

  • 発信は秘密のすぐ隣で行われる。消しても残り、公開時点の内容で固定される
  • 案件の存在、属性の組み合わせ、日程と場所、写真、前職の情報、人物評は書けない
  • ぼかした事例が最も危うい。事例は公表情報だけで書く
  • 実績や成功率を語らない。断定しない。制度は時点と出典を添える
  • 料金は焼き付けず、正式な掲載に送る。費用に触れるなら不利な側も同じ場で書く
  • 投稿前に七つの手順で確認し、社内の確認を通す。迷ったら出さない

当社の選考については採用情報をご覧ください。

よくあるご質問

A.業種・地域・規模・時期といった属性が二つ以上並ぶと、読者の側の情報と足し算で特定されます。公表されている情報だけで書けない事例は、出さないでください。工程や考え方の解説であれば、事例に頼らずに書けます。
A.当事者が公表に同意し、公表する範囲を書面で確認できている場合に限ります。同意には買い手側の意向も関わります。口頭の了解だけで進めないでください。
A.触れて構いませんが、金額や料率を焼き付けないでください。改定があっても追随できず、古い数字が残ります。費用に触れる場合は、成立しなかった場合の扱いまで同じ場で書き、詳細は自社の料金ページへ送ってください。
A.業務に関する内容であれば、会社の確認を通すことをお勧めします。読み手は個人と会社を区別しません。所属を明かしている場合はなおさらです。

Free Consultation

個別の案件は、外に出しません。

当社の発信は、公開情報と当社の方針の範囲で行っています。費用は料金体系に全額を掲載しています。
採用に関するご質問は採用情報を、ご相談はメール(info@platinumpartners.jp)でも承ります。

無料相談を申し込む

Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら