持分と発言力は、しばしば一致しない
共同創業の会社で起きているずれは、おおむね次の形をとります。
- 働いている人と、株を持っている人が違う:創業期に均等で分けたが、その後の関与度合いに差がついた
- 役員でない創業者がいる:早い時期に会社を離れたが、株はそのまま持っている
- 創業時の口約束が文書になっていない:「辞めるときは買い取る」と話していたが、価格も方法も決めていない
- 株が家族に動いている:相続や離婚によって、創業者本人ではない人が株主になっている
- 比率が拮抗している:五分五分、あるいは四割・四割・二割。誰も単独では決められない
どのずれも、日常の経営では表面化しません。会社を譲るという場面で初めて、株主としての権利が現実の意味を持ちます。買い手は通常、全株式の取得を望みます。全株となれば、株主全員の意思が必要です。日ごろ経営に関与していない株主も、そこでは対等な当事者になります。
したがってこの類型で最初にやるべきことは、説得でも調整でもありません。現在の株主が誰で、どの株を持ち、どんな取り決めがあるかを、正確に把握することです。
最初に確認する — 資本構成と取り決め
初回面談から遠くない段階で、次を確認します。相談者の記憶ではなく、書面で確かめてください。
| 確認するもの | 見るところ |
|---|---|
| 株主名簿 | 現在の株主と保有数。最終更新はいつか |
| 登記事項証明書 | 役員構成、発行済株式総数、種類株式の有無 |
| 定款 | 譲渡制限の定め、承認機関、種類株式の内容 |
| 株主間契約 | 先買権、共同売却請求権、強制売却条項、議決権の取り決めがあるか |
| 過去の株式異動の記録 | 譲渡承認の議事録、相続の経緯。名義と実質が一致しているか |
| 創業時の合意文書 | 退任時の買取りなど、文書があるか。口頭だけか |
株主間契約がある場合、その内容が案件の進め方を大きく規定します。一定割合の株主が賛成すれば他の株主も売却に応じる義務を負う条項、他の株主が同じ条件で一緒に売れる条項、先に買い取る権利など、定め方は様々です。条項の解釈は弁護士に確認してください。仲介者が読んで理解した内容で進めると、解釈が違ったときに取り返しがつきません。
名義と実質のずれにも注意します。設立時に名前を借りた、退任した創業者の株が名簿上そのままになっている、相続が済んでいない。これらは打診を始める前に整理すべき事柄です。買い手候補が現れてから発覚すると、時間の制約の中で無理な処理をすることになります。
誰の依頼を受けているのかを明示する
相談に来るのは、多くの場合そのうちの一人です。代表者であることが多いのですが、代表者であることと、全株主を代表して意思決定できることは別です。
実務では、受託の形を次のいずれかで整理します。
- 全株主と契約する:もっとも明確です。全員が同じ情報を受け取り、同じ立場で判断できます
- 代表者と契約し、他の株主の同意を書面で得る:実務でよく用いられます。同意の範囲と時点を明確にしておきます
- 一部の株主のみと契約する:全株の譲渡にならない前提です。買い手の想定が変わるため、初期に明示します
どの形をとるにせよ、「誰の依頼を受けているか」を全ての当事者に明示してください。相談者だけと話を進め、他の株主には結論だけを伝える進め方は、後から必ず不信を生みます。関与していない株主から見れば、自分の財産の処分が自分の知らないところで決まっていたことになります。
情報の扱いも同じです。ある株主に伝えた内容を、他の株主に伝えない状態をつくらない。一人ひとりの考えを個別に聞くことはありますが、案件の進捗・条件・日程は全員が同じ内容を同じタイミングで知る形にします。これは公平のためだけでなく、仲介者自身が立場を保つためでもあります。
意見が割れたときの進め方
割れる理由は、たいてい金額ではありません。譲るかどうかそのもの、時期、従業員の処遇、そして会社への思い。金額の差は調整できますが、これらは調整の対象ではありません。
進め方の型は次のとおりです。
- まず個別に聞く:全員が揃った場では本音が出ないことがあります。何を心配しているのかを、一人ずつ聞きます
- 反対の理由を分類する:条件の問題(調整できる)、時期の問題(待てる)、方針そのもの(調整できない)。どれかで対応が変わります
- 事実を揃えて全員に同じ資料を渡す:想定される価格の幅、進め方、期間。判断材料の差が対立を大きくしていることは多くあります
- 結論を急がせない:仲介者が期限を切ると、その時点で一方の側に立ったことになります
- 割れたまま打診を始めない:全員の同意が得られない状態で買い手に話を持ち込むのは、買い手にも不誠実です
最後の点がこの類型でいちばん重要です。「進めているうちに反対の人も納得するだろう」という見込みで打診を始めると、多くの場合は破談します。買い手の時間を使い、譲渡企業の情報を外に出し、それでも成立しない。全員が損をします。
仲介者が担うのは、多数派を後押しすることではなく、全員が同じ情報をもとに判断できる状態をつくることです。その結果として今回は見送るという結論になったなら、それは仕事が失敗したのではありません。関係を保ったまま、時期が来たときに再び相談していただける形で終えてください(「長期フォローの設計」参照)。
対価の配分と、同一条件の原則
合意ができたら、次は配分です。ここも揉めやすい場面ですが、原則は単純です。
- 株式の対価は、持株数に応じて同一の単価で配分する:これが基本です。特定の株主だけ単価が違う形は、合理的な理由と全員の了解がなければ後の紛争の種になります
- 役員退職慰労金は、株式の対価とは別の性質を持つ:在任期間や功績に応じるものであり、株主であることとは切り離して考えます。税務上の扱いも異なるため、税理士に確認してください
- 譲渡後の関与に対する報酬も別:引き継ぎのために残る創業者への報酬は、労務の対価です
これらを混ぜて「全体でこれくらい」と話すと、必ず不公平感が生まれます。性質ごとに分けて示し、それぞれの根拠を説明してください。
あわせて、譲渡後の扱いも早めに決めます。誰が残り、誰が退くのか。競業避止の制限は誰にかかるのか。買い手は通常、事業を担ってきた創業者に一定期間残ってほしいと考えます。残る人と退く人で、譲渡後の生活が大きく変わります。条件の一部として、早い段階で全員に共有してください。
最後に姿勢の話をします。共同創業の会社を譲るということは、一緒に始めた人たちが、それぞれ別の道に進むということでもあります。金額の話に入る前に、何を大事にしたいのかを聞く時間を取ってください。そこを飛ばして条件だけを詰めると、合意はできても、後味の悪い終わり方になります。仲介者が関わるのは取引ですが、扱っているのは人と人の長い関係です。
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