M&A仲介の年収は、会社によって考え方がまったく違います。求人票の数字だけを見ても比較になりません。固定と変動を分け、変動が何に対する何パーセントなのかを確かめる。この二つを押さえれば、どの会社の条件も同じ土俵で比べられます。
報酬は「固定 + 変動」でできている
M&A仲介の報酬は、ほぼすべての会社で固定給と成約インセンティブの組み合わせです。比率は会社によって大きく異なります。
固定給を厚くして変動を抑える会社もあれば、固定を絞って変動を大きくする会社もあります。どちらが良いということはなく、リスクの取り方の違いです。
転職を検討するときにまず確かめるべきは、提示された数字が固定なのか、変動込みの見込みなのかです。「年収1,500万円可」といった表示は、変動込みの上限を示していることがあります。職業安定法の求人明示のルールでも、固定と変動を分けて示すことが求められる考え方が採られています。
インセンティブの「料率」は、何に対する率か
ここがもっとも重要で、もっとも見落とされる点です。同じ「30%」でも、何に対する30%なのかで金額はまったく変わります。
考えられる基準は主に三つです。会社が受け取った成功報酬の総額に対する率。担当者ごとの粗利(成功報酬から自分の固定給や経費、営業支援の費用を差し引いた額)に対する率。会社全体の利益への貢献度に応じた配分。
粗利ベースの場合、固定給や経費が先に差し引かれるため、手数料ベースの同じ料率よりも支給額は小さくなります。料率の数字だけを並べて比較するのは危険です。必ず基準を確認してください。
支給条件で、実際に受け取れるかが変わる
料率が決まっていても、支給条件によって実際に受け取れるかどうかが変わります。
いつ支給されるか。クロージング時か、入金確認後か、四半期ごとか、年次か。在籍要件があるか。支給日に在籍していないと支払われないという定めがある会社があります。配分はどうなるか。複数人で担当した案件の分け方が決まっているか。
とくに在籍要件は、退職を考えたときに大きく効いてきます。賃金としての性質を持つ歩合給に支給日在籍要件を付す設計については、法的な有効性が論点になることがあります。入社前に規程の条文を確認させてもらうことをお勧めします。
固定給が持つ意味
変動の大きさに目が行きがちですが、固定給は「成約がない期間をどう過ごせるか」を決めます。
M&Aは、受託からクロージングまで半年から1年以上かかることも珍しくありません。入社してすぐに成約が出ることは稀です。その間、生活の基盤になるのが固定給です。
固定給が低い会社では、早期に成果を出す圧力が高まります。それが顧客本位の判断とぶつかることがあります。報酬設計は、働き方と倫理観にも影響します。この観点も、会社を選ぶときの材料にしてください。
案件が供給されるかどうか
報酬の仕組み以上に実際の年収を左右するのが、案件との出会い方です。
自分の人脈だけでソーシングする会社もあれば、インサイドセールスや紹介ネットワーク、データベースを持っている会社もあります。仕組みがなければ、どれだけ料率が高くても案件に出会えません。
面談では、「案件はどうやって見つけるのですか」と具体的に聞いてください。架電体制はあるか、リストはあるか、紹介元はあるか、システムで管理されているか。抽象的な答えしか返ってこない会社は、実際には個人の力任せである可能性があります。
求人票で確認すべき五つの点
実務的に、次の五点を確認されることをお勧めします。
第一、固定給の額と、そこに固定残業代が含まれるか(含まれる場合は時間数と金額、超過分の扱い)。第二、インセンティブの料率と基準。第三、支給の時期と条件。第四、案件の供給の仕組み。第五、賞与の有無。
これらは、いずれも面談で聞いてよい質問です。答えを渋る会社は、入社後も同じ姿勢だと考えたほうがよいと思います。当社の条件は採用情報のページで公開しています。
年収だけで決めないほうがよい理由
最後に。報酬は重要ですが、それだけで会社を選ぶと長く続きません。
M&A仲介は、経営者の人生の節目に立ち会う仕事です。顧客に不利な情報を伝えなければならない場面があり、目先の成約を諦める判断が必要な場面もあります。そのときに、会社が背中を押してくれるかどうか。
中小M&Aガイドライン(第3版)は、重要事項の説明や利益相反の開示を求めています。これを「守るべき最低限」と捉えるか、「信頼の土台」と捉えるか。その姿勢の違いは、日々の仕事のやりやすさに直結します。
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