資料3「試験科目詳細」で、M&A実務のいちばん最初に置かれ、●(優先項目)が付いているのが 「仲介とFAの違い」です。

基礎的に見えますが、この違いが分かっていないと、倫理科目の利益相反がまったく理解できません。 試験の設計上、ここが起点になっています。

違いは3点に整理できる

仲介者FA(ファイナンシャル・アドバイザー)
契約の相手方譲り渡し側・譲り受け側の両方と契約一方の当事者とのみ契約
報酬両当事者から受領することが一般的契約した当事者から受領
立場両当事者に対して中立・公平。利害を調整する契約した当事者の利益の最大化を図る

ガイドラインは、仲介者について「両当事者から依頼を受ける以上、両当事者に対して中立・公平でなければならず、 不当に一方当事者の利益又は不利益となるような利益相反行為を行ってはならない」と定めています。

FAには、この中立義務はありません。依頼者の代理人として、相手方と交渉する立場だからです。 どちらが優れているかという話ではなく、役割が違います。

なぜ中小M&Aでは仲介が多いのか

ガイドラインは、実態を率直に記しています。

中小M&Aの実務においては、FAよりも仲介者という形態の方が多く用いられているのが現状であり、 中小M&Aの実現を促進させる上で、両当事者の共通の目的であるM&Aの成立を目指し、助言や調整を行うといった役割も勘案すると、 仲介者という業態を中小M&Aにおいて不適切であると断ずることは現実的ではない。

中小企業のM&Aでは、双方がそれぞれFAを立てるとコストが二重にかかり、 規模に見合わなくなることがあります。また、両当事者ともM&Aの経験がない場合、 間に立って進行を管理する役がいないと案件が前に進みません。

その現実を認めたうえで、利益相反のリスクを措置で抑える——というのがガイドラインの立場です。 試験で「仲介は利益相反にあたるため行うべきでない」という趣旨の選択肢があれば、それは誤りです。

依頼者は、この違いを理解できない前提で書かれている

ガイドラインは、依頼者側の困難を明記しています。

依頼者は、M&Aについて必ずしも十分な知識を有しているとは言えず、また、一般に、仲介契約・FA契約の内容は 多岐にわたる複雑なものとなるため、仲介とFAの違い等や契約内容を理解することは容易ではない。

だからこそ、仲介者には説明義務が積み上がります。

  • 両当事者と仲介契約を締結する仲介者であることを、両当事者に伝える
  • 両当事者から手数料を受領することが定められている場合には、その旨も伝える
  • 仲介契約締結に当たり、両当事者間において利益の対立が想定される事項を、各当事者に明示的に説明する
  • 相手方の手数料に関する事項(報酬率、報酬基準額、最低手数料の額、報酬の発生タイミング等)を書面で説明する

最後の項目には理由が付されています。相手方を含めた手数料の総額が、M&Aの成立やその条件(譲渡額等)に 影響を与える可能性があるためです。買い手が払う手数料も、最終的な条件に効いてくるという構造です。

「業務形態の実態に合致した契約」を締結する

見落とされやすい規定があります。

仲介者・FAは、それぞれ、業務形態の実態に合致した契約(仲介契約・FA契約)を締結する必要がある。

つまり、看板と中身を一致させろということです。 実態として両当事者から依頼を受け、両方から報酬を得ているのに、契約書の形式だけFA契約にする—— といった扱いは、この規定に反します。

また、契約締結前に説明した相手方の手数料を増額する場合には、その増額の内容を依頼者に開示すべきとされています (標準的な手数料体系で説明した後、マッチングした相手方に適用される体系が異なっていた場合などが想定されています)。

手数料体系の公表が「望ましい」とされている

もう1つ、実務に効く一文があります。

依頼者の適切な選択を促すためには、契約締結前の説明よりさらに前の段階から手数料体系が透明化されることが重要である。 このため、仲介者・FAは、手数料の算定基準を自社のホームページ等において公表することが望ましい。

契約前の説明では、すでに相手を選んだ後です。比較して選ぶには、その前に情報が要る。 だから公表が望ましい、という論理です。

当社は料金体系のページで、料率(レーマン方式)だけでなく、 料率を掛ける報酬基準額の取り方(移動総資産=株式価値+負債総額)、最低成功報酬の額、 報酬の発生タイミング、そして基本合意後に不成立となった場合に中間金を返金しないことまで公開しています。 この一文がどういう状態を指しているのかは、実際の料金ページを見比べるといちばん早く分かります。

この記事について(出典と免責)

本記事は、中小企業庁が公表した資料をもとに、株式会社プラチナパートナーズが作成したものです。 本試験の実施主体・運営事業者が作成・監修・承認したものではありません。

試験の名称・科目構成・出題数・出題範囲・合格基準・実施時期等は、2026年9月時点で公表されている 検討会資料および企画競争募集要領に「想定」「現状案」として示された内容です。 試験名は資料上「中小M&A資格試験(仮称)」と表記されています。実際の試験と異なる可能性がありますので、 受験にあたっては必ず公式の試験案内をご確認ください。

本記事の法務・税務・会計に関する記述は一般的な制度の説明です。 個別の案件における判断は、必ず弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。

出典:「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(中小企業庁・第4回 中小M&A市場の改革に向けた検討会 資料2、2026年3月17日)/ 同 資料3「試験科目詳細」/ 「中小M&A資格試験実施事業」企画競争募集要領(中小企業庁、2026年3月27日)/ 中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁、2024年8月)/ 中小M&A専門人材(個人)向け 使命・倫理行動規範・知識スキルマップ をもとに当社が作成。

よくあるご質問

A.仲介者は譲り渡し側・譲り受け側の両方と契約し、両当事者に対して中立・公平な立場で利害を調整します。FAは一方の当事者とのみ契約し、その当事者の利益の最大化を図ります。
A.中小M&Aガイドラインは、利益相反が直ちに違法となるものではないとし、仲介という業態を中小M&Aにおいて不適切であると断ずることは現実的ではないとしています。そのうえでリスクを最小限とする措置を求めています。
A.仲介者の場合、相手方の手数料に関する事項(報酬率、報酬基準額、最低手数料の額、報酬の発生タイミング等)を、相手方を含めた手数料の総額がM&Aの成立や条件に影響を与える可能性がある旨も含めて、書面で説明すべきとされています。
A.義務ではありませんが、ガイドラインは、契約締結前の説明よりさらに前の段階から手数料体系が透明化されることが重要であるとして、手数料の算定基準を自社のホームページ等において公表することが望ましいとしています。

Book

この試験の勉強に使えるもの:試験範囲マップ|251項目と当社コラムの対応表で、どの項目にどの記事が対応しているか(と、当社が書けていない項目)を一覧できます。

中小M&A資格試験 合格問題集|一次資料で解く、全300問

当社取締役副社長 神垣宏康が執筆した問題集です。中小M&Aガイドライン第3版・知識スキルマップ・検討会資料「試験科目詳細」といった公表資料だけから全300問を作成し、全問に出典を明記しています。

本編180問(M&A実務55/市場動向・政策17/財務・税務37/法務32/倫理・行動規範39)+本試験と同じ60問・科目配分の模擬試験2回120問。各問に解説と出典。禁忌肢が想定される問題の明示と、付録に禁忌肢チェックリスト。付録の出題範囲対応表は、資料3の小項目から問番号を引ける形にしてあります。

中小M&A資格試験 合格テキスト|一次資料で体系的に学ぶ、4科目の要点

同じシリーズの基本書です(2026年10月3日刊行)。序章で制度創設の経緯・4科目と配点・合格基準・禁忌肢・CBTでの実施形式・学習プランを示し、第1章 M&A実務/第2章 中小M&A市場動向・中小企業政策/第3章 財務・税務/第4章 法務/第5章 倫理・行動規範の順に解説しています。付録は用語集・重要数値一覧・スキーム比較表・出題範囲対応表・学習記録シート。数値・期間・条文には出典を併記し、制度の数値は2026年10月1日時点です。

問題集で問われ方を確かめ、間違えた問から本書の該当節に戻る形を想定しています。付録の出題範囲対応表が、2冊の往復の索引になります。

本書は試験の実施主体・運営事業者が作成・監修したものではありません。制度の内容は2026年9月時点の公表資料に基づく「想定」「現状案」です。受験にあたっては公式の試験案内をご確認ください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役副社長。中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら