倫理・行動規範の科目で、最も出題されやすいのがこの範囲です。 理由は単純で、ガイドラインが「してはならない行為」を箇条書きで列挙しているからです。
禁忌肢を作るなら、ここから作るのが自然です。実際、資料2のサンプル問題で禁忌肢とされた選択肢は、 この節に抵触する内容として位置づけられています。
前提|利益相反は直ちに違法ではない
まず、意外に思われるかもしれない一文があります。
仲介者は、このような関係にある両当事者から依頼を受けて、M&Aが成立するよう利害を調整する業務を行うが、 一方の利益を優先し、又は一方の利益を害するリスクがあると指摘されている(仲介者における利益相反のリスク)。 なお、利益相反が直ちに違法となるものではない。
ガイドラインは仲介という業態も否定しません。
中小M&Aの実務においては、FAよりも仲介者という形態の方が多く用いられているのが現状であり、 (中略)仲介者という業態を中小M&Aにおいて不適切であると断ずることは現実的ではない。
「仲介は利益相反だから悪」ではありません。構造としてリスクがあることを認めたうえで、 それを最小限にする措置を義務づける、という立て付けです。設問で「仲介は利益相反にあたるため行ってはならない」 という趣旨の選択肢があれば、それは誤りです。
なぜ構造的なのか|対価をめぐる利害の対立
ガイドラインの説明は具体的です。
譲渡対価については、譲り渡し側にとっては高い方が望ましい一方、譲り受け側にとっては安い方が望ましく、 構造的に譲り渡し側・譲り受け側の両者間において利益が対立する部分もある。 そのような状況において、仲介者が一方当事者(特に、リピーターになり得る譲り受け側)の利益を優先して 取引をまとめるように動く動機があるという構造的な利益相反のリスクが指摘されている
「リピーターになり得る譲り受け側」という指摘が要点です。譲り渡し側は原則として一度きりの取引ですが、 買い手は繰り返し取引する可能性がある。この非対称が動機を生む、という分析です。
ガイドラインは反対の指摘も併記しています。譲渡額が増えれば手数料も増えるため、 逆に譲り渡し側の利益を優先する動機もある、と。どちらにも傾き得るのが構造だということです。
講じるべき最低限の措置(3つ)
ガイドラインは、仲介者が「最低限」講じることが必要な措置を挙げています。
- 両当事者と仲介契約を締結する仲介者であることを、両当事者に伝える。 特に、両当事者から手数料を受領することが定められている場合には、その旨も伝える
- バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)、DDといった、一方当事者の意向を踏まえた内容となりやすい工程に係る結論を決定しない。 依頼者に対し、必要に応じて士業等専門家等の意見を求めるよう伝える
- 仲介契約締結に当たり、予め、両当事者間において利益の対立が想定される事項について、各当事者に明示的に説明する。 また、利益の対立が想定される事項に係る情報(一方当事者にとってのみ有利又は不利な情報を含む)を認識した場合には、 各当事者に対し適時に明示的に開示する
2つ目が実務上いちばん重い規定です。仲介者は、価値評価やDDの結論を自分で決めてはいけません。 資料2のサンプル問題でも、この点が繰り返し現れます。
契約書で禁止を定めなければならない4行為
さらにガイドラインは、「少なくとも、以下の行為を行ってはならず、仲介契約書においてこれらの行為を行わない旨を 仲介者の義務として定めなければならない」として、4つを列挙します。
- 譲り受け側から追加で手数料を取得し、当該譲り受け側に便宜を図る行為 (当事者のニーズに反したマッチングの優先的実施、不当に低額な譲渡価額への誘導等)
- リピーターとなる依頼者を優遇し、便宜を図る行為(同上)
- 希望額と成立額の差分の一定割合を、正規の手数料とは別に報酬として要求する行為
- 一方当事者から伝達を求められた事項を他方当事者に伝達せず、又は一方当事者が実際には告げていない事項を偽って他方当事者に伝達する行為
4つ目は情報の遮断と改ざんです。仲介者は両当事者の間に立つため、伝える/伝えないを操作できる位置にいます。 そこが最も危険だという認識が、この規定に表れています。
前提として、ガイドラインは「両当事者に対して中立・公平でなければならず、 不当に一方当事者の利益又は不利益となるような利益相反行為を行ってはならない。 特に、仲介者自身又は第三者の利益を図る目的で当該利益相反行為を決して行ってはならない」と定めています。
試験ではどう問われるか
この範囲は、「正しい/誤り」の判断が明確に割れるため、正誤判定の設問に向いています。
押さえ方の目安です。
- 利益相反そのものは違法ではない——「仲介は禁止されるべき」という選択肢は誤り
- 仲介者はバリュエーションとDDの結論を決定しない——「仲介者が自ら株価を決定した」は誤り
- 利益の対立が想定される情報は、適時に、明示的に、各当事者へ開示——「一方に不利なので伏せた」は誤り
- 4行為は契約書で禁止を定める義務がある——「社内規程で足りる」は誤り
禁忌肢が想定される科目なので、「情報を伏せる」「成約を優先する」選択肢は、迷ったら先に消すのが安全です。
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出典:「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(中小企業庁・第4回 中小M&A市場の改革に向けた検討会 資料2、2026年3月17日)/ 同 資料3「試験科目詳細」/ 「中小M&A資格試験実施事業」企画競争募集要領(中小企業庁、2026年3月27日)/ 中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁、2024年8月)/ 中小M&A専門人材(個人)向け 使命・倫理行動規範・知識スキルマップ をもとに当社が作成。
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中小M&A資格試験 合格テキスト|一次資料で体系的に学ぶ、4科目の要点
同じシリーズの基本書です(2026年10月3日刊行)。序章で制度創設の経緯・4科目と配点・合格基準・禁忌肢・CBTでの実施形式・学習プランを示し、第1章 M&A実務/第2章 中小M&A市場動向・中小企業政策/第3章 財務・税務/第4章 法務/第5章 倫理・行動規範の順に解説しています。付録は用語集・重要数値一覧・スキーム比較表・出題範囲対応表・学習記録シート。数値・期間・条文には出典を併記し、制度の数値は2026年10月1日時点です。
問題集で問われ方を確かめ、間違えた問から本書の該当節に戻る形を想定しています。付録の出題範囲対応表が、2冊の往復の索引になります。
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