資料2には、資格制度ワーキンググループが作成した4問のサンプル問題が掲載されています。
公式に出ている唯一の問題例です。4科目から1問ずつという構成も含めて、 出題の型を知る手がかりになります。
4問の構成
| 科目 | テーマ | 形式 |
|---|---|---|
| M&A実務 | 株式譲渡と事業譲渡の対比 | 空欄補充(A〜Cに入る語句の組合せを選ぶ) |
| 財務・税務 | FCF(フリー・キャッシュ・フロー)の算出 | 計算 |
| 法務 | アドバイザリー契約の免責事項 | 正誤判定 |
| 倫理・行動規範 | 独占業務違反 | 複数選択 |
募集要領は、問題形式を「一般的な正誤判定を行う回答肢が4択肢又は5択肢あるようなもの」とし、 計算問題・事例問題も一部出題されると記載しています。
サンプルの4問は、この記載を具体化したものと読めます。 正誤判定が基本、そこに空欄補充・計算・複数選択が混ざる——という形です。
M&A実務|対比で問う
1問目は、株式譲渡と事業譲渡の違いを空欄補充で問うものです。
資料2が示す内容の骨子は、次のとおりです。
- 株式譲渡……既存の契約・許認可が原則存続する一方、偶発債務も承継する
- 事業譲渡……個別移転のためリスク遮断が容易だが、手続が煩雑
注目すべきは、1つのスキームの説明ではなく、2つの対比で問われている点です。
資料3でも、スキームの初期的な検討には 株式譲渡(●)・事業譲渡(●)・会社分割(●)が並んでいます。 どれが優れているかではなく、何がどう違うか——ここを押さえる形が、出題にも反映されています。
空欄補充は、用語を正確に覚えているかを測る形式です。 「原則存続」「個別移転」「偶発債務」といった語が、どちらのスキームに結びつくかを取り違えないことが求められます。
財務・税務|計算は、符号で落とす
2問目は、FCF(フリー・キャッシュ・フロー)の計算です。 資料2に示された条件は、営業利益・減価償却費・売上債権の増加・棚卸資産の増加・仕入債務の減少・設備投資・実効税率でした。
考え方の骨格は、次のとおりです。
- 営業利益から税金相当額を引く(実効税率を用いる)
- 減価償却費を足し戻す(費用だが現金は出ていない)
- 運転資本の増加分を引く(売上債権の増加、棚卸資産の増加、仕入債務の減少は、いずれもキャッシュを減らす)
- 設備投資を引く
この形式で落とす原因は、計算の難しさではありません。符号の取り違えです。
- 売上債権が増える=まだ回収していない=キャッシュは減る
- 棚卸資産が増える=お金が物に変わった=キャッシュは減る
- 仕入債務が減る=支払いが先行した=キャッシュは減る
資料3でキャッシュ・フロー計算書(CF)に●が付いているのは、 この感覚が土台になるためです。手を動かして解き直すのが、そのまま対策になります。
法務|「免責と書いてあれば免責される」ではない
3問目は、アドバイザリー契約の免責事項に関する正誤判定です。
資料2が示す正解の趣旨は、こうです。
免責条項があっても、アドバイザーが当然に負うべき正確かつ適切な情報提供義務(必要な検証を含む)が 直ちに消えるわけではなく、義務の範囲は条項の文言や事案の性質等に応じて判断される
これは、ガイドラインの記述と正確に対応しています。
損害賠償責任(免責)に関する条項の法的な有効性について、本ガイドラインは言及するものではない。 また、かかる条項を依頼者に対して説明することと、当該条項の法的な効力の有無とは別の問題であり、 説明したからといって法的な効力が認められる関係にはない
説明した=免責される、ではありません。 そして、M&A専門業者は依頼者との契約に基づき善管注意義務(忠実義務を含む)を負う—— この義務が契約書の一文で消えるわけではない、という構造です。
法務科目の選択肢では、「常に」「一切」「いかなる場合も」といった 断定的な表現が誤りであることが多くなります。 法的な判断は事案の性質に応じて行われるためです。
倫理|4つとも「行えない」が正解
4問目は複数選択で、無資格の支援者が適法に行えない行為を問うものです。 資料2に挙げられた選択肢は次の4つで、いずれも行えないというのが正解です。
- 会社法上無効な不動産譲渡について、代わりに第三者と交渉する
- 税額を無償で試算する
- 報酬を得て、商標出願を弁理士に依頼する
- 懲戒処分が可能との見解を伝える
ここから読み取れることが、2つあります。
① 「無償だから」は理由にならない。 税理士法第52条の税務相談には報酬要件がなく、無償でも税理士以外は行えません。
② 「専門家に再委託したから」も理由にならない。 3つ目は自分で出願するのではなく、弁理士に依頼しています。それでも、報酬を得てその取次ぎを行えば問題になり得ます。
弁護士法第72条の非弁行為は、「法律事件に関する法律事務」を報酬目的で扱う行為を広く含みます。 1つ目と4つ目は、この類型にあたり得ます。
倫理科目でこの論点が出ていることが、制度の前提を表しています。 「合格しても独占業務はできない」——資料2・募集要領の双方に明記されている内容です。
サンプル問題から読み取れる、勉強の方向
4問を通して見えるのは、「知っているか」より「区別できるか」を問う姿勢です。
- M&A実務……株式譲渡と事業譲渡を対比できるか
- 財務・税務……キャッシュの動く向きを間違えずに追えるか
- 法務……説明と法的効力を区別できるか
- 倫理……やってよいこととやってはいけないことの線を引けるか
そして、4問中2問(法務・倫理)が、支援者自身の行為を扱っています。 免責条項と独占業務違反——どちらも「自分は何を負い、何ができないか」の問題です。
難易度は「M&A実務を行っている者であれば、把握しておくことが期待される基本的な水準」 と定義されていますが、同時に広範な試験範囲を設定することで全体の難易度を確保する という考え方も示されています。1問1問が難問なのではなく、範囲が広いことで難しい試験です。
なお、サンプル問題はワーキンググループが作成した例であり、 実際の試験問題ではありません。形式も内容も変更され得ます。
この記事について(出典と免責)
本記事は、中小企業庁が公表した資料をもとに、株式会社プラチナパートナーズが作成したものです。 本試験の実施主体・運営事業者が作成・監修・承認したものではありません。
試験の名称・科目構成・出題数・出題範囲・合格基準・実施時期等は、2026年9月時点で公表されている 検討会資料および企画競争募集要領に「想定」「現状案」として示された内容です。 試験名は資料上「中小M&A資格試験(仮称)」と表記されています。実際の試験と異なる可能性がありますので、 受験にあたっては必ず公式の試験案内をご確認ください。
本記事の法務・税務・会計に関する記述は一般的な制度の説明です。 個別の案件における判断は、必ず弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。
出典:「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(中小企業庁・第4回 中小M&A市場の改革に向けた検討会 資料2、2026年3月17日)/ 同 資料3「試験科目詳細」/ 「中小M&A資格試験実施事業」企画競争募集要領(中小企業庁、2026年3月27日)/ 中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁、2024年8月)/ 中小M&A専門人材(個人)向け 使命・倫理行動規範・知識スキルマップ をもとに当社が作成。
よくあるご質問
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この試験の勉強に使えるもの:試験範囲マップ|251項目と当社コラムの対応表で、どの項目にどの記事が対応しているか(と、当社が書けていない項目)を一覧できます。
当社取締役副社長 神垣宏康が執筆した問題集です。中小M&Aガイドライン第3版・知識スキルマップ・検討会資料「試験科目詳細」といった公表資料だけから全300問を作成し、全問に出典を明記しています。
中小M&A資格試験 合格テキスト|一次資料で体系的に学ぶ、4科目の要点
同じシリーズの基本書です(2026年10月3日刊行)。序章で制度創設の経緯・4科目と配点・合格基準・禁忌肢・CBTでの実施形式・学習プランを示し、第1章 M&A実務/第2章 中小M&A市場動向・中小企業政策/第3章 財務・税務/第4章 法務/第5章 倫理・行動規範の順に解説しています。付録は用語集・重要数値一覧・スキーム比較表・出題範囲対応表・学習記録シート。数値・期間・条文には出典を併記し、制度の数値は2026年10月1日時点です。
問題集で問われ方を確かめ、間違えた問から本書の該当節に戻る形を想定しています。付録の出題範囲対応表が、2冊の往復の索引になります。
本書は試験の実施主体・運営事業者が作成・監修したものではありません。制度の内容は2026年9月時点の公表資料に基づく「想定」「現状案」です。受験にあたっては公式の試験案内をご確認ください。