一度に全部は渡せない。数年かけて、少しずつ移す。現実的な方法ですが、途中で止まるリスクがあります。設計の要点を整理します。
なぜ段階的にするのか
理由は主に3つです。
① 税負担を分散する。一度に贈与すれば高い税率がかかります。分ければ、年ごとの負担が下がる場合があります。
② 後継者を見極める。数年かけて経営を任せ、適性を確認しながら移す。
③ 先代が議決権を保持する。過半数を渡すまでは、最終的な決定権が残ります。
②と③は、経営上の理由です。税だけで設計すると、この視点が抜けます。
何のために分けるのかを、先に決めてください。
贈与で渡す場合
最も一般的な方法です。暦年課税では、受贈者ごとに年110万円の基礎控除があります。
ただし、株価が高い会社では、110万円分は微々たる株数にしかなりません。数十年かかる計算になります。
そのため、実務では基礎控除を超える金額を贈与し、贈与税を払うという設計も取られます。相続税の税率と比べて有利になる場合があるためです。
また、相続時精算課税制度という選択肢もあります。2024年分から、この制度にも年110万円の基礎控除が設けられています。
どちらが有利かは、財産の状況と時期によります。必ず税理士に試算してもらってください。
売買で渡す場合
後継者が買い取る方法です。贈与税はかかりませんが、資金が要ります。
価格は、時価によることが原則です。著しく低い価額で譲渡すれば、差額が贈与とみなされる可能性があります。
資金の手当てとしては、役員報酬から積み立てる、金融機関から借り入れる、分割払いにするといった方法があります。
分割払いの場合、売主である先代に課税がいつ生じるかは論点です。税理士にご確認ください。
なお、先代が受け取った代金は、将来の相続財産になります。株式を現金に変えただけ、という面もあります。
議決権の過半数をいつ超えるか
設計上、最も重要な点です。後継者が議決権の過半数を持つ時期を、いつに設定するか。
過半数を持てば、取締役の選任・解任ができます。実質的な支配権です。
さらに、3分の2以上を持てば、定款変更などの特別決議も単独でできます。
逆に、後継者が3分の1超を持つまでは、先代が単独で特別決議を通せます。
「代表を譲ったのに、株は3割しか渡していない」という状態は、法的には先代が支配しています。この食い違いを、意図しているのか確認してください。
途中で相続が起きたら
段階的移転の最大のリスクです。移し終わる前に、先代に相続が発生する。
この場合、残りの株式は相続財産となり、法定相続人に承継されます。遺産分割が終わるまでは、相続人全員の準共有です。
準共有の状態では、権利を行使する者を一人定めて会社に通知しなければ、原則として議決権を行使できません(会社法106条)。この指定は持分の過半数で決めると解されています。
相続人の間で意見が割れると、株主総会が開けなくなります。
したがって、遺言で承継先を指定しておくことが必須です。段階的移転を始めたら、同時に遺言を作ってください。
株価が変動する
見落とされやすい論点です。数年かけて渡す間に、株価は動きます。
業績が良くなれば、残りの株式の評価が上がり、贈与税も上がります。後継者が頑張るほど、移転のコストが増えるという構造です。
逆に、業績が落ちれば評価は下がります。
対応としては、評価が下がる時期を狙って移すという考え方があります。役員退職金を支給した期、大きな設備投資をした期など。
ただし、意図的な株価操作と見られる処理には注意が必要です。税理士と相談して、合理的な範囲で設計してください。
事業承継税制との関係
選択肢として押さえておいてください。
事業承継税制(法人版)を使えば、一定の要件のもとで贈与税・相続税の納税が猶予されます。
特例措置は、特例承継計画の提出が2027年9月30日まで、適用は2027年12月31日までの贈与・相続が対象です(2026年9月時点)。
ただし、この制度は一定の要件を維持する義務を伴います。要件を満たさなくなれば、猶予されていた税額と利子税を納付することになります。
段階的に渡すより、この制度で一度に渡すほうが有利な場合があります。比較してから決めてください。事業承継税制をご覧ください。
計画を書面にする
実務的な助言です。いつ、何%を、どの方法で渡すかを、表にしてください。
列は、年度 / 移転する株数と比率 / 方法(贈与・売買) / 移転後の累計 / 想定される税負担。
これを作ると、何年で完了するかが見えます。
そして、後継者と共有してください。本人にとっては、自分の資金計画でもあります。
また、毎年見直してください。株価も業績も制度も変わります。「10年計画を立てて放置」が最も危ない。
途中で方針が変わる場合に備える
最後に、現実的な備えです。
後継者が継がないと言い出すことがあります。あるいは、適性がないと判断することも。
このとき、既に渡した株式をどうするかが問題になります。贈与したものは、原則として戻りません。
備えとしては、売買で渡す場合に買戻しの条項を入れる、段階を細かくして一度に渡す量を抑えるといった方法があります。
そして、過半数を渡す前に、見極めの時期を設けること。過半数を渡した後は、先代が取り戻すことは困難です。
この線を、意識して設計してください。