経営は任せたい。ただ、株式をすべて渡すには、贈与税や納税資金の問題がある。この場合、議決権と財産価値を分けて動かすという設計があります。手段と注意点を整理します。
なぜ分けるのか
目的を先に整理します。経営権(議決権)と財産権(配当・残余財産)は、本来は一つの株式に含まれています。
これを分ける理由は主に3つです。
① 後継者に資金がない。株式を買い取る資金も、贈与税を払う資金もない。
② 先代が財産としては手放したくない。老後の資金として配当を受けたい。
③ 他の相続人との公平を保ちたい。後継者に経営権を集中させつつ、財産は分ける。
どれが目的かで、選ぶ手段が変わります。
手段① 種類株式
会社法に基づく方法です。議決権を制限した株式(無議決権株式)を発行し、それを後継者以外に持たせます。
後継者には議決権のある普通株式を集中させる。少ない株数でも、議決権の過半数を確保できます。
導入には、定款の変更(株主総会の特別決議)と登記が必要です。
また、既存の株式を種類株式に変えるには、株主の同意が要ります。「議決権を外す」ことに同意してもらう必要があります。
いわゆる黄金株(拒否権付株式)を先代が持つ設計もありますが、相続で第三者に渡るリスクがあります。慎重な設計が要ります。
手段② 属人的株式
株主ごとに異なる取扱いを定款で定める方法です。非公開会社でのみ認められています(会社法109条2項)。
「株主◯◯が有する株式については、1株につき10個の議決権を有する」といった定めです。
利点は、登記が不要なこと。種類株式と違い、登記事項になりません。
注意点は2つ。定款の変更に、総株主の半数以上かつ議決権の4分の3以上という重い要件があること(会社法309条4項)。そして、株主が変われば効力を失うため、相続では引き継がれないことです。
設計と運用は、必ず弁護士にご相談ください。
手段③ 信託
株式を信託し、議決権の行使と、財産としての利益を分ける方法です。
たとえば、委託者を先代、受託者を後継者、受益者を先代とする。議決権は受託者である後継者が行使し、配当は受益者である先代が受け取る。
また、先代の認知症への備えとしても使われます。判断能力が低下しても、議決権の行使が止まりません。
ただし、信託の設計は専門性が高く、税務上の取り扱いも複雑です。
弁護士・税理士の双方に相談してください。安易なひな型では、意図した効果が出ないことがあります。
手段④ 持株会社
後継者が持株会社を設立し、その会社が事業会社の株式を取得する方法です。
後継者は持株会社の株式を持つため、間接的に事業会社を支配します。
取得の資金は、金融機関からの借入で調達し、事業会社からの配当で返済する設計が一般的です。
注意点は、返済がキャッシュフローを圧迫すること、後継者が借入の保証を求められることが多いこと、そしてスキームが複雑なことです。
税務上の論点も多岐にわたります。必ず税理士と設計してください。
税務上の論点は必ず確認する
本稿で最も強調すべき点です。
議決権と財産価値を分ける設計には、必ず税務上の論点が伴います。
無議決権株式の評価をどうするか。属人的株式の定めが株価にどう影響するか。信託の設定時・期間中・終了時の課税。持株会社への移転時の課税。
「議決権がないから株価が下がる」と単純に考えないでください。財産評価基本通達の取り扱いには一定の考え方があり、期待した効果が出ないことがあります。
必ず、実行前に税理士に確認してください。実行してから否認されると、取り返しがつきません。
他の相続人への配慮
設計が成功しても、遺留分の問題は残ります。
後継者に議決権を集中させても、他の相続人には遺留分侵害額の請求権があります。
この点については、経営承継円滑化法に基づく遺留分に関する民法の特例(除外合意・固定合意)という制度があります。推定相続人全員の合意と、経済産業大臣の確認、家庭裁判所の許可が必要です。
要件が厳格なため、使えるかは個別の判断になります。
いずれにせよ、他の相続人に説明せずに進めないでください。後から知れば、必ず揉めます。家族会議の進め方もご覧ください。
最終的には、普通株式に戻す
設計上の注意点です。分けた状態を、永続させないでください。
種類株式や属人的株式が残ったまま第三者へ譲渡しようとすると、買い手が嫌がります。権利関係が複雑で、整理に手間がかかるためです。
また、相続が重なると、権利関係がさらに複雑になります。
したがって、いつ、どうやって普通株式に戻すかまで含めて設計してください。
「後継者に資金ができたら買い取る」「先代の相続時に整理する」。出口を決めておくことです。
まず株価を知ることから
最後に、順序の話です。
これらの手段を検討する前に、現在の株価を算定してください。
金額が分からなければ、そもそも分ける必要があるのかも判断できません。
「高いはずだ」と思い込んで複雑なスキームを組んだが、実際には後継者が買い取れる金額だったということもあります。逆に、想像よりはるかに高いこともあります。
税理士に依頼すれば、算定してもらえます。
そのうえで、単純な方法(贈与、売買)で足りるかを先に検討してください。複雑な設計は、単純な方法が使えない場合の手段です。